あじさいとそぼろとハツカネズミ

頭の中では、雪平鍋の中で
お醤油お砂糖みりんが煮立っており
その中へ鶏ひき肉を入れ
ゆっくりほぐす映像が流れている

踏み切りの遮断機があがり
一歩ずつ歩きだすと
火が通ったひき肉が少しずつ
ほろほろと解れだす

歩いているうちに不安な気持ちも
ほろほろ崩れゆく

無意識に駅の改札を通り
階段を降りる

ホーム中程で電車が入って来るのを
待っていると
カーブした線路で風を巻き上げながら
電車が入って来る

その時
ビニール傘が宙に舞い
放物線を描いてホーム反対側の紫陽花へ
突き刺さる
傘はドリルのようにぐるぐると回りながら
紫陽花を突き刺している

電車中程からその様子を見ていた
女の子は紫陽花の傍で何か赤いものが
光ったので、ふと見ると
そこにはハツカネズミが姿を現し
二本足で立っている

ネズミは突然
大声で「傘離すんじゃねー」と怒鳴ったので
他の乗客も皆びっくりしてネズミを見る

驚いた女の子は
持っていた赤い傘を落としそうになり
指先に力を入れる

電車の発車ベルが鳴り
ドアが閉まる警告音が車内に響く
再び紫陽花を見ると
ハツカネズミも傘も
無くなっている

電車のスピードは徐々に速くなり
お堀に沿って青く茂る桜の木のまえを通過する

#お話
#詩

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