見出し画像

ヒーローと、愛情の話(あね)

甥を愛してくれてありがとう。削りカスのロードスイーパー、私も見たいかもしれないなと、書いてから思いました。それにしても、先生に報告してくださる用務員さんも立派です。掃除したほうが楽なのに。

突っ込みどころ満載だけれど、三男に骨髄を提供してくれる、優しい長男です。痛い腰を押さえながら、無菌室にいる弟に会いに行くヒーロー、アンパンマンさながらでした。

だんなさんの言うように、愛情は自己肯定感が育まれる最初の一歩だ。

そこで、今日はヒーローと、愛情の話をしようと思います。  

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

ちょうどこの長梅雨のあいだ、三男が特別な治療のために、ひと月限定で転院することになった。

私も付き添いを余儀なくされ、病院で三男と寝食を共にする日々を過ごした。そこは郊外の病院で、周りには何もない。スーパーすらない。大人の食事はコンビニが頼り。広いフロアには、いろんな年代の、おそらくいろんな病気の子どもたちがぎっちりいる。大部屋をカーテンで仕切られているだけの病室は、お互いに様子がよくわかる。遠慮とか、恥ずかしいとか、そういう感覚は薄れていて、泣き声や叱り声が常に聞こえていた。そこでの全てが日常。私にはストレスフルだったけれど、こういう日常があることを知った。

常に新しい患者さんが入ってくるので、病院側の事情で部屋を4回移動したのだけれど、退院する前の最後のお隣さんは、とても元気な男の子だった。私の職業柄、単刀直入に言うと、ADHDの傾向があると思う。小さな体でちょこまか動き回り、食事や手洗いやトイレなんかには、何かしら余計なアクションを付け足す。そして自分の身長くらいのベッドの柵を乗り越えてしまうという、素晴らしき身体能力ももっている…!とはいえお母さんは大声を出して止めざるを得ないという状態で、かなりお疲れの様子だった。本当は穏やかな顔をされている方なのに。

むくむく。私の中の、なんとかしなきゃという思いが膨らむ。とてもよくない、このままじゃ。お母さんは疲れる一方だし、ケラケラ笑っている男の子も苦しいはずだ。

布石を打とう。男の子が大好きなキラメイジャーを使おう。うーんキラメイジャーの人形か何かが手に入ったらいいのだけど…ここには何もない。そうだ、子どもとの遊び道具の中に、丸シールならある。それにサインペンでキラメイジャー的な顔を描いてみたらどうかな…

スマホで画像検索して、と。うーん…こんな感じか…難しいな。私の限界。また練習しよう…。

と思っていたその夜。男の子が大泣きの大暴れ。お母さんが一つしかないコップにお薬を入れて水で溶いてしまったのだけれど、僕はまずそのコップでポカリスエットが飲みたかったんだ…!という主張。

ちょうど寝る前の回診で医師や看護師が来ていたので、ああよかった、誰か何とかして、と思いながら、三男と身を固くして様子を伺っていたのだけれど、みんながなだめてもすかしても、事態は悪くなる一方…。

そこで、ちょっと時期尚早ではあったけれど、件のキラメイジャーシールを一枚、三男のコップに貼り、ついでに練習中のシールもシートごと持っていって、「このコップよかったら使ってね!キラメイジャー、まだうまく描けないんだけど。」と渡した。サッと。そしてまたカーテン越しに身を隠す。

一瞬男の子の泣き声が止まり、おおっ?成功か…?と思いきや、「こんなんじゃない。」キラメイジャーは、こんなんじゃない。確かに。

その後また騒いでいたけれど、でもたぶんお薬は飲めたんだと思う。私たちも寝てしまった。

翌朝、昨夜とは別のお医者さんに「このシール何?」と聞かれて、「キラメイレッドだよ。でもシルバーがいい。」と話す男の子の声が聞こえた。調べたところによると、キラメイシルバーは6人目の戦士で、1番好きらしい。ごめん、知らなかった。画像検索にも出てこなかったぞ。

もう少し関係を築きたかった私は、お母さんのいない時に、こっそり男の子に話しかけた。「ねえ、お母さんのこと好き?」男の子はニヤニヤ笑って、うーんとうなり、首を横にフリフリ。む、素直じゃないところに素直さがでておるぞ。「キラメイジャーはさ、お母さんのこと助けてあげるんだよ。お母さんのことは泣かさない。頼むね。」ヘラヘラ、うんうんと今度は首を縦に。よしよし、今日はここまで。

と思いきやその夜…。またまたガンガンの大泣き。今度はちょっと原因がわからなかったけれど、とにかく男の子の思うように事が運ばなく、お母さんもいい加減にしなさい、とキレている様子。そらそうだ。優しいお母さん。病気の子どものために一生懸命なのに、その気持ちをちっともわかってくれないんだもの。私なら椅子の一つでも蹴り上げたい。

看護師さんが来てくれることを期待して、でもこのままここにいるのもつらいので、三男と夜のプレイルームからアンパンマンの紙芝居を借りてきて、2人で廊下で読んだ。アンパンマンとバイキンマン…読みながらも、ガンガンこだまする男の子の泣き声で落ち着かない。プレイルームへ行きがてら、ナースステーションを見たけれど、看護師さんの姿なく。何してるんだろう…聞こえないのかな、この声。もう9時半なのに部屋の消灯にも来てないし、もしかしたら私たち放って置かれてるんじゃ…。もんもん。

そしてガンガンの泣き声は続く。もう限界だ…。「助けに行くよ。」と、三男に声をかけて紙芝居を片付けた。

意を決して、私たちは男の子のところへ行った。私はその壊れたキラメイジャーをガシッと抱きしめて、こう言った。

「今日手術したばかりなのに、そんなに大声で泣いて心配だよ。」そう、男の子はその日の午前中に手術をしているのだ。すごいエネルギー…でも本当に心配。

「お母さんのこと大好きって言ってたじゃない。」と私が言うと、男の子は「でもお母さん怒ってばっかりだから!」と泣きじゃくりながら言った。

そうか、お母さんの愛情を確かめたいんだよね。

だから代わりに私が言った。「お母さん、◯◯くんのこと大好きなんだよ!大大大好き!」

男の子は私の腕の中でなおも泣き、お母さんは傍らで泣き、三男は小さな手で、男の子の小さな背中をさすっていた。三男も自分の立ち居振る舞いを考えたのだと思う。いいぞ、それで。

その時男の子が座っていたのは、柵のついたベッドではなく、大きな子用の、柵のない普通のベッドだった。看護師さんが変えてくれたのだろう。もう乗り越えるためのエネルギーは使わなくていいね、よかった、と思いながらまだ泣く男の子をぎゅうと抱きしめる。…そのうち、男の子が「お母さんがいい。」と言い出したので、そうだよねえ、お母さんがいいよねぇ、と私は離れた。

男の子はお母さんにぎゅうされて、たぶん心安らかに寝たと思う。私も三男も疲れ果ててすぐ寝てしまったからわからないけども。

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

それから2、3日して私たちが退院する日、お母さんがお手紙をくれました。それがタイトルの写真です。そこに貼ってあるのが私が描いたエセ・キラメイジャーシールなのだけれど、1枚お母さんが加えてくださったものがあります。白いシールが、お母さんの手描きレンジャー。これはおそらくキラメイシルバーだ…!

結局キラメイジャーシールを練習する間も無く、連絡先も知らないまま、男の子とお母さんと別れてしまった。お母さん、これからも大変な思いをたくさんするだろうから、帰り際男の子にお願いしておいた。お母さんをよろしくね、って。うんうんと、今度は真面目な顔でうなずいてくれた。

そこで。あなたにちょっと提案なのだけれど。朗読CDのことを、私は「みみきかせ」と名付けたい。そのCDを、せっせと作ってほしいのです。甥のためと思わず、いろんな分野、それぞれの世代の絵本を。それを必要としているお母さんと子どもたちがたくさんいると思うの。寝る前の読み聞かせって苦行なんだよ。親も眠い…。親子して、暗い中、耳だけを働かせて想像の世界に入り込む夜はきっと楽しい。赤ちゃんには、どんな音がいいんだろう。案外どっどどどどうど、なんてうけちゃうかもしれないよ…!

いつどこでかはわからないけど、必ずみみきかせが必要なチャンスは来る。まずは、アイテムを揃えたいのだけれど、よろしくお願いできないかな!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?