進化と退化

ある日仕事中にゴルフに誘われた。他の部署の重役からだった。

私だけでなく、私の周りの先輩数人が誘われた。先輩達は重役から日程聞いた後すぐにスマホを開いて予定を確認し「行けますよ」と即答した。

「君はどう?」と会話の矛先が私に向く。「予定はないですが…」と曖昧な返事をしてしまった。今考えれば、その日は旅行に行く予定など明確で自信たっぷりの嘘を言えば、断るのも簡単だっただろう。体が空いているなら若手の私に拒否権などあって無いようなものだ。そういう訳で人生で初めてのゴルフに行く事になってしまった。

私は銀行で働いている2年目の若手だ。銀行へは入りたくて入った。ただ、入行する時一つ強く危惧している事があった。それは自分の柔軟性や創造性が少しずつ殺されてしまうのではないか、というものだった。

「銀行の常識は世間の非常識」という言葉がある。2年もいると少しずつ意味を噛み砕け、腹に落ちるようになってきた。行内には良い人もいるが、時代が昭和で完全に止まっているタイムトリッパーもまだまだ多い。プライドが高い人と頭が硬い人は間違いなく多い。誰が仕事でミスをすると飲み会ではその話題で持ち切りになる。堅実な業務が多くクリエイティブなものは少ない(これに関しては銀行という特性上仕方がなく、文句を垂れる私の方が悪い。どの仕事にも第一に顧客から求められるものは異なっているのだから)。そして何より、話題が仕事であれプライベートであれ、否定の言葉が会話の頭に付いてくる。

先輩や上司の若い頃を知っている訳ではないが、新人の時はきっとこうではなかったはずだ。少しずつ仕事に触れ、社会に揉まれる内にそうなっていったのだろう。悪い事ではない。むしろ社会人として見るなら進化していっていると見る事もできるだろう。

だけど僕はそうなるのは嫌だった。だから対策は考えてある。自分の心に従って学生時代のようなチャレンジを続ける事(例え一人でも)、そして銀行員というものに染まらない事、この二つだ。興味もないクラブに金を払い、お客さまや上司に気を使い続ける。ゴルフを始める事は私にとって恐怖以外の何でもなかった。

新しい事に挑戦してみるのはとても良い事だと思う。事実初めてのゴルフを通じて、様々な発見があったし、仕事場とは違う先輩や上司の姿を見て、親近感も湧いた。

だが、「楽しかった」と「良い経験だった」と感じてしまった事を今恐れている。

これは進化と退化で言うとどちらなんだろう?社会人として、新しいスポーツを体験できた一人の人間としての観点からなら、進化と言えるだろう。

だが、私という一人の人間から見れば、これは退化ではないのか?進みたくないと願う方向に舵を切ってしまった私は緩やかな退化を始めてしまうのではないか?

どちらなのかは分からないし、大げさに進化や退化と強引に答えを出すものではないのかもしれない。しかし、今の私にとっては、これは退化だと思いたい。

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