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たたら製鉄を支えた名家を訪ね、心に刻んだ思い

「鉄の価格は金の5倍、銀の40倍」
という言葉がある。
今では金が高価なものの象徴で、鉄が高価という感覚はないが、かつては鉄がとても貴重な資源だった。

想像してみよう。
食べるものにも困り、米が貴重だった時代。
土地を耕すのに、木を使ってなんとか耕していた頃、
鉄の鍬の登場が、どれだけ農家の方々を助けただろう。

越後の国ではなんと明治の時代まで、貸し鍬という商売があったそうだ。
農家に鍬を貸し、一年に一度新しい鍬と交換して代金を得るという商売で、明治時代でも鉄が貴重であったことを物語っている。

それだけ貴重な鉄。
出雲地域には、貴重な鉄製造を支えた「鉄の御三家」と呼ばれる家柄がある。
田部家、櫻井家、絲原家は令和の今でも出雲の地に名家として残っているのだ。

「出雲文化の一つ、たたら製鉄という文化をふかぼってみよう!」
と、たたらツアーを計画した界 玉造一行は、
日本刀を握り、
製鉄の神様にご挨拶し、
鉄と関係のある出雲そばのルーツを探った後、
御三家のうちの櫻井家と田部家を訪れることになった。

鉄砲鉄の名門、櫻井家

まず最初に訪れた櫻井家。

戦国の武将、塙団右衛門の末裔家は広島で鉄山業をスタートさせ、後に今の出雲領上阿井の地に移り、”菊一印” の銘鉄を作り出した。
日本最高の鉄砲鍛冶集団から最も良い鉄砲地鉄と認められ、その後、この地の鉄山業を取り仕切りることになった名家。
最盛期には千人の使用人を抱えており、彼らの生活を守るため、鉄砲の原材料としての鉄を御三家の中でも最後まで作り続けたという。

多くの使用人が行き交ったであろうお屋敷

こちらではお茶を一服いただいた。
松江藩のお殿様のために用意された御用の間にて。
そして、お殿様のために作られた岩浪の滝を眺めながら。

江戸時代に作られた岩浪の滝

なんと雅な一時だ。
暖かい春の日差し、野鳥の鳴き声、抹茶の香り…
時が一気に江戸の世に戻ったような感覚に。
一行は普段の忙しい毎日からふっと離れる贅沢な時間に包まれていた。


世界一の製鉄企業、田部家

続いて、やってきたのは、御三家の中でも特に大きな規模であった田部家。

アニメ「秘密結社 鷹の爪」のキャラクター吉田くんの出身地でもある雲南市吉田町。
ここは田部家が中心となってできた街と言っても過言ではないだろう。

田部家門前の白壁の土蔵群が当時からの隆盛を物語っている。

白壁が立ち並ぶ田部家土蔵群

田部家では、もっとも繁栄した江戸時代になんと2万人の使用人を抱えていたという。
2万人。。。
想像も絶する数だ。

内閣府によれば、江戸時代の人口はおおむね3,100万人から3,300万人台で推移していたと。
つまり、現在の人口比率で言えば、約4倍の8万人規模の製鉄企業であり、7万人強の世界のトヨタ自動車に匹敵する大企業だったのだ。

玄関先では満開の枝垂れ桜が出迎えてくれた

普段公開されていない邸宅内の撮影はできなかったのだが、一言で言えば、”別世界”だった。
大木を運んできて、その根本をくり抜いて茶室にしていた。
10名以上の男衆が押し合いへし合い数時間かけて餅をこねあう年末の餅つきが江戸時代から続いている映像を見せていただいた。

今でも島根の山奥に、昔からの景色や慣習を残しているというのが驚きだった。
ただ、しかし、田部家が守っているのは過去だけではない。
25代目となる田部長右衛門氏は、地元である吉田町をもっと活気づけるプロジェクトを手がけている。
たたらの里づくりプロジェクトだ。

たたらの里づくりプロジェクト

しっかり雇用を生み、地元を盛り上げていく。
江戸時代から続く思想、「街の営みを創出する」ということ。
もちろん営利企業として、永続的に続いていくような街づくりを計画し、徐々に実現させている。


たたら製鉄を支えた御三家

御三家のうち、二家を見学して感じたこと。
鉄氏たちが必死に行ってきたのは、鉄を作ることではなく、地域の雇用を作り、街を作っていくことだったのではないだろうか。
どちらも武家がルーツであるが故に、領民経営という感覚を持っていたのだろう。

櫻井家の当主はかつて
「いい木が生えていたら材木業をやっていた」
と言ったそう。
それくらい、製鉄業は大変で、かつリスクの高い商売だったのだ。

そんなたたら製鉄を営み、地域の人の生活を守ってきた名家の営みに畏敬の念を抱かずにはいられなかった。


今回のたたらツアー。
肌で触れ、目で、舌で感じ、耳で聴き、鼻で味わった。
土地の歴史という過去を巡り、
それが現在へとつながり、未来を創っていくことを知った。

「観光」を五感で感じていただき、
未来への希望を提供できるとすれば、
それこそが私たち観光従事者に与えられたお役目と言えるのではないだろうか。

そのお役目を果たすために、
この土地のために、
僕たちに何ができるか。
真摯に向き合って、考えていきたい。
そう強く思った。

以上、たたらツアー編 完!



『おもてなし産業をかっこよく』
あんでぃでした。


古の湯と出雲文化を遊ぶ宿「界 玉造」


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