メメンとモリ

 私の勤める中学校には朝読書の時間があり、今朝本を忘れた私は自分のクラスの図書委員の選書である『メメンとモリ』を手に取った。中学生にそんなつもりはないだろうがこれを手に取る大人は多分疲れている。
 これがよかった。10分間で読み切れたのだがじわりと心に残る。「メメントモリ」という言葉はミスチルきっかけで知った。なんとなくさみしくてこわい言葉だ。「生き物は別に楽しむために生きているわけじゃないからね」とメメンは言う。「思ってたのと違う」とびっくりするために人は生きている、と。
 思ってたのと違うからうれしいし、悲しいし、腹が立つし、面白い。
 敬愛する藤原基央は「どうせいつか終わる旅を僕と一緒に歌おう」と歌った。中学3年生の国語の教科書の巻頭詩『世界はうつくしいと』で長田弘は「何ひとつ永遠なんてなく、いつかすべて塵に返るのだから、世界はうつくしいと(言おう)」と書いた。いつか終わるのだ。私は生に肯定的な人間ではない。だから「死ぬのは辛いけどその分今を楽しもうよ!」と言うのではなく、「絶対死ねるんだから心配せずに楽しいことだけすれば良いよ」と捉えることにする。
 国語に1ミリも興味のない少年が漢字テストの予習をしてきた。久々に習い事に行ったら同じレッスンの人が名前を覚えてくれていた。せっかく作ったネギのスープを冷蔵庫に入れ忘れて腐らせた。久しぶりにそろそろごはんに誘ってくるかな、と思っている友達から別に連絡はなかった。「思ってたのと違う!」ことにびっくりするために生きているのであれば、私は今日、かなり、ちゃんと生きた。

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