一発書き日記2021/9/10

久しぶりに散歩をした。いつぶりだろうか、夏ごろ試験があるから辞めて以来だったから、おおよそ1ヶ月ぶりか。今までは日中行っていたけれど、今日は夜中の散歩だった。夜中と言ってもまだ21時ごろだったが。

何度も歩いた同じ道を通る。多分目を閉じていても歩けるだろう。嘘だ、信号機が多く交通量も多いので大変危険だ。両の目は開いて歩くべきだ。せっかく前についてるんだし。

この道を通る度に思い出すのは、道中の公園が不良のたまり場になっているという話だ。不良のたまり場という概念を知ったのは、ずいぶん後になってからだ。最初に聞いた時は、もっと口から出た言葉のまま、もっと遠回りな言葉だった。

具体的にいうと「あそこに夜中行くとフクロにされる」というものだ。このフレーズだけ強烈に覚えている。私は昔、この言葉を聞いて、あの公園には殺人縫製職人が居ると思い込んでいた。

フクロにするという言葉が相手を囲んでボコボコにするという意味を持つことを知らなかったのだ。その言葉をそのまま受け取ったピュアの権化たるかつての私は、夜中あそこの公園に行くと、なんらかの技法で内臓を、骨を、肉を抜かれ、皮だけになった挙句袋にされると思っていた。めちゃ怖い。

そんなことを考えながら歩いていると公園の入り口に付いた。一般的に公園とされる施設の数百倍はでかいであろう。端から端まで歩くと余裕で2時間はかかる場所だ。私はここの主な道路をぐるっと一周し帰るまでを散歩コースとしている。2時間はかからないが、運動不足の身には応える時間歩くことができる。

門のように、パルテノン神殿の柱のように、ずらーっとならんだ樹が眼に入る。腰の丈ほどある生垣もあり、近くに川的な物もある。だからか、野生生物もよく見る。子供の頃は蛇も居た。入口付近で猫を4匹見た。こんなところにいるのか君らは。

ひたすらにまっすぐな道をだらだらと歩く。耳からは買ったばかりのCDから取り込んだ最新の楽曲が聞こえてくる。耳から聞こえてくるって書くとまるで耳から音がなっているように見えないか?私の耳はスピーカーではない。私の耳にはめられたブルートゥースイヤホンからなっている。わかるね?

歩きながら曲を聞いていたら、なんだかいつもよりノイズが多いような気がした。取り込みを失敗したのかななんて思いながら曲を停止するが、ノイズは止まらない。はてとイヤホンをとってみると、それでも音はなっていた。

なっていた音の正体は鈴虫の大群だった。ジーと鳴いていた。あれ鈴虫か?他の鳴く虫か?鳴く虫を鈴虫以外知らないので、音が聞こえたら全部鈴虫の所為にしている。ずいぶんうるさいな、鈴虫って奴は。

歩き続けて数分、いや数十分か、街灯がまばらになり、暗い部分が増えてきた。こうしてあるいていると、確かにお化けかなんかでそうだな、もしも街灯が無い提灯だけで歩く江戸みたいな世界に放り込まれたら、暗がりに鬼を見るのも無理もないと思う。

一瞬樹のあたりを黒い何かが走った気がした。あわててそっちの方に顔を向けるも何も無い。黒い何かは私の首よりも早いスピードで視界の外へ消えようとする。そこで気づいた。これは飛蚊症だ。いつもの奴で、よくあることだ。安心したががっかりした。

こんどは眼前に黒い何かが走った。今度は視線の先にとどまっている。本物のお化けだ。そう思って目を凝らすと、茶色い部分もある。あれはなんだろう、もう少し意識を集中させると、それは街灯のもとへ走り出した。

たぬき、ちっせぇタヌキ。しっぽがぼさぼさで鼻さきが長い。犬にしちゃ小さくて猫にしちゃ丸い。明らかなるタヌキ。こんなところにもいるのかと嬉しくも無く悲しくも無い感想を抱いた。無の取得だ。

耳に意識を送ると、ガタガタガタと木の向うから聞こえた。まさにミシンのような、ガタガタガタという音が暗がりの木の向うから聞こえる。やっぱり殺人縫製職人はいるのかもしれない。心なしか足早になり公園の外を目指した。

私は今、袋にされることなくこうしてキーボードを叩いている。もしミシンの音みたいな鳴き声をする虫が居たとしたら、名前を知りたいものだ。そして当時の友人に、あの公園に行っても袋にされることは無いよ、と言ってやりたい。