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日本建築学会主催「BIMの日シンポジウム2023」振り返り

こんにちは、ANDPAD ZEROの今井です。
2023年2月21日、日本建築学会・情報システム技術委員会 設計・生産の情報化小委員会が主催する、今回9回目となる通称「BIMの日」シンポジウムにモデレーターとして登壇させていただきました。非常に学びの多い内容でしたので、今回はその時の振り返りをしていきたいと思います。

まずは各パネリストがどんな話をされたのかをサマライズし、その後パネルディスカッションで興味深かった話題を取り上げていきます。

どんな人が登壇したのか?

実は僕は1年前、2022年の「BIMの日」にもパネリストとして登壇させていただき、今年が2度目の登壇でした。昨年との一番大きな違いはジェネレーションで、昨年はホロラボの伊藤武仙さんや日建設計の安井謙介さんが登壇されアラフォーの僕は最年少でした。

今回は自分が最年長での登壇で、30代中心のまさに現場の最前線でプレーヤーとして実践されている、多彩なメンバーが登壇されました。

BIMの日フライヤーより抜粋

各登壇者の発表

ここからは、実際に当日僕がモデレーターとして提示したスライドをベースに説明していきます。

中山佳子さん(日本設計)

1人目は日本設計の中山さん。
自身が設計者として、いくつものプロジェクトをBIMで設計されている方です。今回はその中でも特徴的な2つのプロジェクト、自邸とバスターミナルについて説明いただきました。

彼女のアプローチは非常にスマートで、設計のコンセプチャルな部分や詳細は手描き、それを確かめる手段としてBIMを活用しています。特にバスターミナルのプロジェクトでは、施工者が作成する総合図や施工図、照明やサイン、サイネージ、備品計画をBIMに反映することで、「プロジェクトの最新の情報が常にBIMにある」環境を維持し続け、顧客とのコミュニケーション、意思決定を迅速化していたとのこと。

中央モデル(CDE環境で、プロジェクトメンバーが共同で編集・統合する3Dモデル)など手段の合意形成に時間がかかる部分をすっ飛ばして、プロジェクトに実行性がある手段を能動的に体現されている設計者としての動きは非常に秀逸だと感じました。

松原昌幹さん(AMDlab)

2人目はAMDlabの松原さん。
設計事務所出身のエンジニアであり、スタートアップ創業者という非常にユニークな経歴の方です。松原さんの発表では、国交省が昨年11月に発表した、「2025年にBIM確認申請を実現させる」というロードマップから、「それを実現するためのCDEとは?」という問題定義がなされました。

従来型のプロジェクト関係者の1社がオーナーとなるCDEではなく、複数社がオーナーシップをもてるブロックチェーン型CDEの可能性について、現在東京大学と共同研究されている"Relaiable-CDE"を例に出しながら語っていただきました。

まだ現場でも運用が固まっていない従来型CDEですが、さらにその先のCDEのあり方について、頭を働かせている方は少ないと思います。僕としても、次の世界観を検討する良い機会になりました。

上杉崇さん(竹中工務店)

3人目は竹中工務店の上杉さん。
設備の設計、現場管理を経験しつつ、データアナリスト的な側面をもつユニークな方です。上杉さんからは、竹中工務店のプロジェクト・データをBIやAIで分析することで、設計等に活用していくという、これまであまり耳にしたことがないアプローチをご説明いただきました。

個人的に面白かったのは、建物の用途・面積・エリアから、過去のエレベーターやエスカレーターの採用数がわかる という分析でした。引渡し後の利用量データはないにせよ、それまで施主含めてコストと運用など総合的見地でディスカッションをして確定された台数の集積というのは、「建築計画上の推奨数」などより信憑性の高い生のデータです。インプット・データがシンプルなだけに、インパクトの大きさが際立つデータ活用事例でした。

上杉さんも話されていましたが、引渡し後のデータを取得し、設計へのフィードバックできるような維持管理プラスαの世界が実現していくと、建築計画がどんどんデータドリブンで向上していきそうで非常にエキサイティングです。

墓田京平さん(梓設計/梓総合研究所)

最後は梓設計の墓田さん。
設計者と研究員(梓総合研究所)という二足の草鞋で活動をされている方で、だからこそ実務的な観点とアカデミア的な観点双方から今回のようなアプローチを創出できたのだろうと思います。

墓田さんがお話ししてくれたのは、「BIMをBMとIに分けて管理すること」。言葉遊びでなく、実際に"BM"をUnreal(ゲームエンジン)と点群に、”I"をNotion(ノーコードのWEB開発サービス)に分けて管理し、これらを連動させるサービスを開発中とのこと。

維持管理を進める建物オーナーにとって、3D、ましてやBIMは遠い存在で設計者がいくら頑張って納品しても、無用の長物となる可能性が非常に高いです。そこで、彼らオーナーが慣れている、スプレッドシート状のインターフェースをNotionで用意し、それと3Dデータを連動させる。あくまで管理データの参考として3Dを存在させるアプローチは、シンプルながらコロンブスの卵的発想だと個人的には驚かされました。

BIMの現在地はどこか?

4人の話題提供を受けて、いよいよパネルディスカッションに行く前に、小休止として4人の話を俯瞰して眺めてみました。

これまでは、BIMの活用が目的となっていて、"BIM"を1つのカタマリとして捉えているケースが大多数だったのではないかと思います。一方で、今回は「I →BM」、「I」、「I / / BM」とBIMを「情報」と「建物/3Dデータ」に分けて活用されているケースばかりでした。

「BIMは建物情報の集積である」とはよく言いますが、「だからこう使う」という具体的な実務のアウトプットと共に扱うケースはまだまだ稀な部類ではないでしょうか。僕はこのフレームワークを実例と共に知れたことが、今回のシンポジウム最大の価値だったのではないかと考えています。

ディスカッション

それでは最後に、登壇者5人で実施したディスカッションについてまとめていきたいと思います。

意匠性の高い建築を生み出すのに、BIMは必要?

こちらは中山さんの問いかけから始まった問いでした。
僕自身、設計者時代や昨年のANDPAD HOUSEでのプロセスを振り返っても、基本設計などは3Dモデラーを使い、全体が確定した時点でBIMへ移行していくのが一番スマートではないかと考えていました。

中山さん曰く、「3Dモデラーは粘土のようにスケールがないので、入社数年目の頃からBIMを活用している自分としてはしっくりこない。」とのことでした。一番学びだったのは、BIMを始める誰もが壁に感じる「ファミリー/コンポーネントの準備」について、「プロジェクトごとに標準ファミリーを加工してつくっている。」というファミリーへの向き合い方でした。

違う視点で捕まえると、IT業界でもWEBやアプリのデザインの際、一昔前はPhotoshopで"粘土のように"絵を描いていました。一方で近年はFigmaでコンポーネントを整備して、"ブロックのように"デザインを構築しています。

建築も「粘土のような3Dモデラー」から「ブロックのようなBIM」へWEBデザインの世界同様作り方が変わっている。とアナロジカルに眺めることができそうです。

BIMソフトが古いバージョンに対応していないことやBIMモデルから直接分解したアクソメ図の作成が難しいことなど、まだまだBIMモデリング上の課題はあるかも知れません。しかし、学生時代からBIMをメインに活用している世代には、今後中山さんのようなアプローチが当たり前になっていくのかも知れない、と新鮮な発見がありました。

BIMのブロックチェーン化?

最後に、ディスカッションの中で面白い結論に至ったのでそちらを共有します。
元々の議論は、ブロックチェーンを使ってCDEを管理する場合の主体性、契約上の責任をどう担保するのか?という問いでした。

ただ、ここは結論に至らず、その中で松原さんがボソっと「BIMのブロックチェーン化についても考えています。」と発言されました。これって、すごく可能性がありそうだと感じました。

僕もまだ不勉強なところではありますが、、、
NFTアートのようにBIMを扱えるのではないかと。
NFT(Non-Fungible Token)は、非代替性トークンと訳されます。代替が不可能なブロックチェーン上で発行された、送信権が入った唯一無二のデータで、デジタル上での資産の鑑定書や所有証明書として活用することができます。

BIMをNFTで管理することで「誰が作成したか」「建築確認を取得しているか」「セキュリティ上どの部分を誰に共有したか」など作成者の手を離れたBIMを追跡し続けることが可能になります。

今後、BIMが確認申請で使われたり、PLATEAU上で見えたり、不動産売買で活用される未来を想像した時、BIM活用時に作成者やオーナーに一定のフィーが還元される仕組みや、そのデータの真正を担保するなど、様々な可能性がありそうです。少し先の未来になりますが、これは非常にワクワクします。

などなど、非常に幅広いトピックを繰り広げることができたシンポジウムでした。
残念ながら、建築学会の「BIMの日シンポジウム」は今年で一旦区切りとのこと。一方で、BIMと言わず、テクノロジーx建築、それらを創意工夫して新たな価値を生み出すプレーヤーは日々生まれているはずです。今後もこのような場で、少し先の未来をそんなプレーヤーの方々と一緒に想像していきたいですね。

今回は少し長くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
読者の方にとって、新たな発見があれば幸甚です。


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