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5分で学ぶ杉本博司 -前編-

2020年に森美術館で開催されたSTARS展に参加し、国際的に高い評価を得ている日本を代表するアーティスト・杉本博司。小田原の複合アート施設である「江の浦測候所」でも有名です。

今回の前編では杉本の代表的な3シリーズを紹介し、解説していきます。

杉本博司ってどんな人?

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この問いに一言で答えるのは非常に難しいですが、あえて一言で表すと「真実・本質を探究し続ける現代美術家・写真家」といえるでしょう。なぜ一言で表すことが難しいのかは、これ以降の杉本博司の作風や表現手法を紐解く中でご理解いただけるはずです。

当時の主流なアートムーブメント - ミニマル・アート

杉本がニューヨークに移住した1974年当時、ニューヨークのアートシーンで新しい現代美術の動向として、ミニマル・アートというムーブメントが広がっていました。

そもそもミニマル・アートとは、極限まで抽象化された表現によって、本質にたどり着こうとする1960年代からのムーブメントです。

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四角い産業素材そのものを芸術に取り入れた、ミニマルアートの代表的アーティスト ドナルド・ジャッドの作品
(画像引用元:https://www.artpedia.asia/)


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蛍光灯で光そのものを表現したダン・フレイヴィンの作品
(画像引用元:https://bijutsutecho.com/)

1976年以降短期間の間に、杉本はのちの代表作となるシリーズを立て続けに生み出していくことになります。

「ジオラマ」シリーズ - 剥製を写真でリアルに再現

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《シロクマ》1976年
(画像引用元:https://www.sugimotohiroshi.com/)

STARS展でも展示されていたインパクトの強い作品です。この作品《シロクマ》は「ジオラマ」シリーズの中でも最初に制作されたものです。

北極でホッキョクグマがアザラシを捕食するシーンに見えるリアルなこの作品、実はニューヨークにあるアメリカ自然史博物館にある剥製を撮影したものなのです。

「写真は現実のワンシーンを映し出すもの」という一般的な理解を逆手にとって、復元物である動物の剥製をあたかも現実であるかのように写し出している作品です。

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《ハイエナ・ジャッカル、ハゲタカ》1976年
(画像引用元:https://media.thisisgallery.com/)

高い撮影技術によってリアルに撮影された動物たちの様子は、世界の原初的な風景を見事に再現し、杉本のテーマである「真実」を表現しているように読み取れます。

「劇場」シリーズ - 映画一本分を長時間露光

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《U. A. Play House》1978
(画像引用元:https://www.sugimotohiroshi.com/)

「劇場」シリーズはアメリカの古い映画館でスクリーンの正面にカメラを固定し、映画1本分の上映を長時間露光で撮影したものです。真っ白く輝くスクリーンは光と時間の流れそのものを象徴していて、周りに浮かび上がる古い映画館の内装はその空間に宿る歴史や記憶を象徴しているととらえられます。ここで表現されている時間の流れ歴史記憶という抽象的なテーマからは一貫して物事の本質に迫ろうとする杉本の姿勢が読み取れます。

「海景」シリーズ - 海と空のほかに何もない、写真のミニマルアート

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《カリブ海、ジャマイカ》1980年
(画像引用元:https://www.sugimotohiroshi.com/)

3つ目の代表的なシリーズが「海景」です。海と空のほかに何もない、水平線を写した「海景」。
「古代人が見ていた風景を現代人も見ることは可能なのだろうか」という問いを起点に制作されたそうです。このシリーズの作品は、時代を識別できるような具体的な対象の映り込みをなくすことで極限までの抽象化を実現し、ミニマル・アートの哲学が写真という媒体で見事に表現された傑作です。

なお、作品のタイトルには特定の場所の名前が付けられており、「時間軸を取り払ったその特定の場所の海の景色」という形で古代の人が見ていた風景に迫っています。

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《日本海 隠岐 V》

水平線がぼやけているこの作品も同じく「海景」シリーズです。

タイトルにあるように、日本海に浮かぶ島根県の隠岐(おき)の島から見た海を撮影した作品です。隠岐の島は日本の歴史における「流刑の島」です。後鳥羽院が承久の乱で敗れた際、1221年に島流しにされたというエピソードは特に有名ではないでしょうか。現代を生きる私たちは見ることのできないはるか昔の景色を、抽象的でミニマルな表現で見せてくれる杉本の作品はロマンにあふれているようですね。

ここまで、杉本の代表作の解説をしてきました。
ここまで読んでいただくと、冒頭に「一言で杉本博司を表すのは難しい」と書いたわりに「現代写真家」の一言で杉本博司を表せるではないか!と思われるかもしれません。

しかし杉本のその後の活動では、写真や現代美術という枠組みを超えて、舞台芸術や建築、造園など多様な表現によって物事の本質・真実に迫っていきます

後半では、写真にとどまらずに表現方法が多様化していく杉本のさらなる進化を解説いたします。

26日から杉本博司作品のオーナー権がご購入いただけます!

ANDARTでは3/26(金)から今回ご紹介した「海景」シリーズの《日本海 隠岐 V》のオーナー権を販売開始いたします。

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ANDARTとは?

ANDARTのサービスについて詳しく知りたい方は、ぜひこちらの動画をご覧下さい!

ここまで読了いただきありがとうございました!次回もお楽しみに!


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