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七宝焼の未来と安藤七宝店の挑戦について

こんにちは、安藤七宝店 代表の安藤重幸です。

近代七宝焼が生まれて間もない1880年に創業した当社は、職人の高度な技術に裏打ちされた唯一無二の七宝製品と、強固で安定した生産体制によるリーズナブルな製品を、ともに提供できる数少ない企業です。

安藤七宝店 代表 安藤重幸

仏教の経典にある7種類の宝物を、ちりばめたような美しさを誇ることからその名がついた七宝。かつては贈答などの需要が高く、生活者に近い存在でした。
この業界を担う一社として、あらためてその市場価値を高め、未来をひらいていきたい──。
そんな想いから、今回は私が思い描く七宝焼の未来と、当社がこれから挑んでいきたいことをまとめてみました。


1.七宝焼と安藤七宝店の特長

まずは、七宝焼と当社について知っていただきたいと思います。

金属の表面にさまざまな色のガラス質の釉薬を焼き付けた七宝焼は、古くは紀元前から古代文明で同様のものがあったそうです。その技術がヨーロッパから中国を経て日本へ。天保年間(1831〜1845年)に尾張海部郡(現在の愛知県海部郡)の梶常吉により、有線七宝の技法が確立されました。
有線七宝とは、金属に銀線を植線し、ガラス釉薬を載せて焼き上げる、当社が今も大切に継承する技法です。

銀線の施された素地に、ガラス釉薬を施釉する

世界各地で開かれた万国博覧会でも日本の七宝焼が出品され、伝統工芸品としての地位が確立しました。高度経済成長期には企業間の贈答品や結婚式の引き出物としての需要が高まり、七宝焼は栄華を極めます。

明治時代、日本の工業化が進む1880年に創業した安藤七宝店は、近代七宝の祖・梶常吉の孫である梶佐太郎を工場長として迎え入れ、緻密で精巧な技術とクラフトマンシップを受け継いできました。
技術研鑽を続けながら生み出す当社の七宝焼は、ガラスならではの輝き、折り重なり溶け合う色彩の深みで多くの人々を魅了。海外・国内で多くの賞を受賞し、明治33年には宮内省御用達を拝命しました。

重なり溶け合う、ガラス釉の色彩


2.七宝焼が置かれている現状

安藤七宝店は現在、名古屋市南区に製造工場を構え、名古屋栄の中心地にある名古屋本店、東京の晴海通りに面した銀座店で七宝焼をご提供しながら、お客様のご要望に応じたオーダーメイド品を製作しています。

七宝焼は完成までに多くの工程を要しますが、機材と人材を集約し、自社で一貫生産ができるのが当社の強みだと自負しています。それにより、ハイクラスな七宝焼と、手頃な製品の両方をつくることができるからです。

伝統的な七宝花瓶生産を可能にする、ヘラ絞り技術

前者を例に挙げると、これまで当社では、宮内庁の飾り物や京都迎賓館の把手、紋章入りの高松宮杯など、数多くの栄に浴しています。

このように、長い歴史を刻みながら、世界中の人々を魅了してきた七宝焼ですが、残念ながらその認知度は低下しつつあります。社会の価値観は変化し、贈答文化も簡素化が進む中で、七宝焼の存在感は決して高いとは言えません。
数年前には国の観光政策にともないインバウンドの需要が高まりましたが、新型コロナウイルスの蔓延、海外渡航の中止により途絶えた感があります。

製品を生み出す数が減れば、当然のことながら技術研鑽、技術継承の機会が失われてしまいます。同業者や職人を抱える工場が休廃業するニュースは、当社に一局集中するから良いという単純な話ではなく、七宝焼そのものを未来に継承できなくなる可能性をはらんでいるのです。

伝統技術・文化は、熟練の職人から若手職人へと受け継がれる

職人不足は、伝統工芸特有の徒弟制度も原因の一つだと考えています。一人前になるまでは安定した働き方を期待できない。そのような状況では若い職人は増えていきません。
安藤七宝店では高度な技術をもつ職人を自社に迎え入れ、組織として七宝焼の伝統文化を守ろうとしています。その一方で、ものづくりを目指す若手も積極的に採用。両者の交流により、技術を取りこぼすことなく未来へつないでいけるのではないでしょうか。


3.七宝焼の未来に向けて

一つは海外での評価を起爆剤とした七宝焼のブランディングです。

2023年に当社は、海外向けジュエリーブランド「J.ANDO」を立ち上げ、フランス・パリで発表しました。2024年春にはヨーロッパでの販売も予定しています。
かつて世界で認められた七宝焼を、再び輝かせたい──そんな想いから、著名なジュエリーデザイナーを起用し、七宝焼にあらたな息吹を吹き込みました。海外での評価が日本に逆輸入され、あらためて国内での市場価値につながることを期待しています。

七宝焼から生まれたジュエリーブランド - J.ANDO

少し前に海外時計メーカーの展示会へ赴き、高度な機構と工芸技術を組み合わせた表現を見ることができました。弊社では、国内の時計メーカーとの協業で、七宝焼の文字盤を作っていますが、あらためてコラボレーションの重要性も感じています。
他社との協業により、七宝焼が再評価されるだけではなく、まったく異なる分野の知見が、伝統工芸における新しい発想や技術の革新を生むかもしれません。
特にこれからを担う若手職人にとって、七宝焼の新たな可能性が見えることは大きなモチベーションとなることでしょう。

そして、組織の風土改革も進めようとしています。組織運営において「上意下達」は、間違えないように仕事をするための大切な考え方ですが、それだけにとらわれると膠着してしまいます。キャリアを問わず、自分の意見や考えをもって行動できるような環境を率先して整えることも、持続可能な組織には必要です。

文化は国の「顔」でもあります。当社もその担い手という誇りと自覚を持ち、七宝焼を次代につなぎ、ひらくことで日本の文化の発展に貢献できればと思います。

ぜひ安藤七宝店の挑戦にご期待ください。