見出し画像

福島復興あれこれ:安倍政権と福島復興

 2021年に現代ビジネスに処理水に関連して、安倍氏の福島復興政策について記事を書かせてもらったことがある。

「福島原発「水」の海洋放出、安倍前首相が「問題を放置し続けた」ことの大きな責任」

 そこでも書いたけれど、私は安倍氏の福島復興政策を評価していない。というよりも、端的に、そこには「政策」と呼びうるものなどなかった、と評価している。

 「政策」が必要とされたのは、思いつく限りでも、放射能対応に始まり、処理水の処分問題、帰還困難区域対応、避難指示解除区域の将来像、原発がなくなった後の地域社会と地域経済の立て直し、エネルギー政策、廃棄物処理問題、廃炉工程と費用問題、といった部分であるけれど、これらのどれも安倍氏は取り組まなかった。
 復興予算を注ぎ込んだ、難しい問題はことごとく先送りにした、とは言えるけれど、それを「政策」と呼ぶのだとしたら、政治家など存在する必要はどこにもないのではないだろうか。

 とはいっても、安倍氏が福島に無関心であったとまではいうつもりはない。支持率維持を最大の目的とした安倍氏にとって、福島復興応援世論が強いなか、世論対策に使うのは絶好のツールであったに違いないが、それだけではないなにかはあったのではないか、という気はする。

 上述の現代ビジネスの記事を書いた時に、安倍氏の福島来訪歴をリスト化してまとめた。以下に添付する。

※訪問先は、首相官邸のウェブサイトに残っている記事と動画と新聞記事をあわせて、拾えるだけ拾った。すべてを網羅はしていないかもしれないことにはご注意いただきたい。

(JPEGが文字が小さくて読みづらいのでPDFを添付。ご興味ある方はご覧ください。)

 このリストをまとめながら、2015年〜2016年にかけて、変質があったことを感じていた。2015年までは、警備員や除染現場の激励であったり、仮設住宅、中間貯蔵施設といった、「難易度が高い」現場訪問が組み込まれている。だが、2016年以降は、そうした訪問はほとんどなくなり、復興(予算の)成果の出た、華やかな現場ばかりになっている。通して確認すると、だんだんと首相官邸の記事や動画もぞんざいになっていくのもよくわかった。
 もちろん、避難指示解除が進み、復興シーンが大きく変わった、という背景はあるだろうけれど、それ以外の背景がどのようなものであるのか、ということについては、大いに関心のあるところだ。(たんに、彼一流の空気読みの嗅覚に従って、世論を読んだだけ、かもしれないけれど。)

 安倍氏が福島復興に情熱を注いだ、という一般に流布している評価を、私は信じていない。ひとつには、上に書いたように、本来、向き合うべき政策的対応を行わず、ただ復興予算の流れるままに放置したからだ。事故直後は、霞ヶ関の官僚たちも意気高く、彼らにまかせておけば、従来の霞ヶ関ー永田町の枠組みで片付くものについては進んでいった。そこで、政治の寄与した部分は、さほど大きくはないし、また、時代を更新していくような、政策対応として高く評価されるような部分は、ほとんどない。

 もうひとつ、西日本生まれ育ちの私にしてみると、明治維新の勝者たる長州の旧家出身のあの世代の人間が、「白河以北一山百文」と、本音で思っていないとはとうてい信じられない、という底意地の悪い勘ぐりもある。実際問題、表では「福島復興」と笑顔を絶やさない西日本から支援にはいっているお偉方が、裏では、さらりとそう言っている現場を目撃したこともある(絶句して数日間、頭が真っ白になった)ので、たんなる勘ぐりとも言い切れない。

 ただ一方で、これだけ正確に福島訪問を続けたことについては、福島への愛着ではなく、「執着」のようなものを感じる。原発事故が、当時の民主党政権から自民党が政権を奪還する契機になったことはまちがいない。従って、福島復興と政権維持を重ね、願掛けのように、選挙告示日初日の第一声の場所に福島を選んだのはわからなくもない。それにしても、あれほど福島への思い入れがないにもかかわらず、これだけ正確に訪れたのは、「願掛け」というよりも、もっとなにか強い執着じみたものを感じるのだ。
 それがいったいなんであったのか。ご本人の口から聞くことはできなくなったけれど、いずれわかるときがくるのかもしれない。

 なんにせよ、福島復興にたずさわる関係者、特に統治機構のなかの人たちは、根拠なく、この先も安倍氏がどうにかしてくれる、と思い込んでいた節がある。私はそこから強く疑っていたけれど、そう信じていた人たちにとっては、この先の方向性を失ったような状況ではないか、と推測している。
 世界情勢の激変も相俟って、ますます先行きは読めない。こんな時こそ、みずからの立つ足元をしっかり見つめ直してくれることを願うばかりだ。

 

 

気に入られましたら、サポートをお願いします。