ぬとるーとら

 5人のるーとらたちは、大きな木の根元で小さくかたまってふるえていました。
 誰が、るーとらたちをそこへ置いていったのかは、わかりません。
 るーとらたちは、小さすぎて自分で食べ物を探しにゆくことができませんでした。
 木の葉に集まるしずくを5人でわけあって飲んでいました。
 るーとらたちが本当にひもじくて心細くて、泣く元気もないくらい弱っていたときに、助けてくれたのが「ぬ」のかあさんでした。
 そのとき、「ぬ」のかあさんは、まだかあさんではなかったので、おっぱいはでませんでしたが、小さなるーとらたちにも食べやすい、柔らかい若葉や甘い木の実を毎日持ってきて食べさせてくれたのでした。
 おかげで、るーとらたちは全員やんちゃに大きくなりました。

 それからしばらくして「ぬ」のかあさんは「ぬ」を産みました。
 「ぬ」のとうさんは、りっぱな「ぬ」族のリーダーでした。
 それなのに、小さなぬは弱虫で甘えん坊で、少しでもかあさんの姿が見えないと「かあさん、かあさん」とぴぃぴぃ泣いてばかりいました。
 ときどき、かあさんは、とうさんと一緒にお出かけしなければなりませんでした。
 そんなとき、かあさんはるーとらたちにぬの子守をまかせるのですが、るーとらたちがどんなに楽しいおうたをうたったり、踊りをおどっても、泣き虫のぬはいつまでもめそめそしているのでした。

 ある日、島に大きな変化が起きました。
 地面がぐらぐらと揺れて、島の中心にあるお山がもくもくと煙をふくのです。
 鳥たちは、ひっきりなしにかんだかい声で鳴いて、木々は不安そうに枝をざわめかせます。りっぱなぬ族のリーダーだったとうさんは、こわがるみんなを落ち着かせるために、島中をかけずり回っていました。かあさんも一緒でした。小さなぬをいつも通りるーとらたちに預けて。
 でも、かあさんは、なんだか心配だったので、るーとらたちに「もし何かあったらぬのことをよろしくたのむわね」とお願いしていったのでした。
 ぬは、いつもみたいにぴぃぴぃ泣いていました。

 その日のお昼過ぎでした。
 煙をもくもくふいていたお山が、ついに火を噴き出したのです。
 それから、空は真っ黒になって、小さな石もぱらぱら降ってきました。
 地面はぐらぐら一段と大きく揺れて、島中大騒ぎになりました。
 山から出た火は、どんどん下の方へ向かってきました。
 島のみんなは、いっせいに逃げようと走り出しました。
 るーとらたちは、最初はおろおろと空を見上げたり、落ちてくる小石をせっせと拾い集めたりしていましたが、みんなが走り出すのを見て、かあさんにぬのことをお願いされていたのを思い出しました。
 るーとらたちは、ふだんいっぱいのおやつをしまっている木の箱を取り出して、そこにベッド用の木の葉をふかふかと敷き詰めて、いっそう強くぴぃぴぃ泣いているぬをそこへ入れました。
 それから、5人でその箱を抱えて、海辺へ向かって走り出しました。
 ごごごごごとお山がうなる音がきこえてきました。

 るーとらたちが、海辺に着いたとき、うしろを振り返ると、森は真っ赤に燃えていました。お山の上の方は、もうまっくろで、その上を赤く光るものが流れていました。森の火は、どんどん海辺へ近づいてきます。
 るーとらたちはぬの入った木箱を頭の上に載せると、海の中へ入ってゆきました。海で泳ぐのははじめてだったけれど、川遊びはよくしていたし、上手にできるような気がしたのです。
 5人は、ぬを頭にのせて、お山のうなる音が小さくなる場所まで泳いでゆきました。

 るーとらたちが泳ぎ疲れて、波間をただよっている時に、にんげんの人が小舟で通りかかったのでした。にんげんの人は、遠くで煙をふいている島を見て、何も言わずにるーとらたちとぬを舟に引き上げました。ぬは木箱の中で、ふるえながら眠っていました。

 ぬのとうさんとかあさんはどうなったのかわかりません。
 りっぱなぬ族だったとうさんは、みんなを助けようと走り回っているうちに、逃げおくれたのかもしれません。もしかしたら、るーとらたちとは正反対の海へ向かって、ふたりで逃げ出したのかも知れません。るーとらたちは、そうだといいなと思いました。

 こうしてぬとるーとらたちは、にんげんの人と一緒に暮らすことになったのでした。
 ぬは、まだとても小さくて、そしてとてもこわかったので、島のことは覚えていません。でも、ときおり、かあさんを思い出して、かあさんをよびながら泣き出します。そういうとき、にんげんの人はぬをそっとだきしめて、「かあさんだよ」と言いながら、やさしくなでてやります。するとぬは、とても安心した顔になって、かあさんにいろんなお話をするのでした。


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