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インタヴュー ウィズ オスプレイ ⑧

空中撥水のカズダンス?

―タカ類の中でも際立って特異な飛行術をもつミサゴですが、それを可能にする翼の性能について教えてください。

ミサゴ タカ類の翼の形状は、大きくは2種類あって、ワシを含むタカ科は開いたときに楕円形、ハヤブサ科だと先端が尖る台形になります。前者は旋回重視、後者は加速重視なんですね。特にハヤブサたちの急降下時の加速、これが最もスピードの出る瞬間ですが、その際の翼はやや折りたたまれ、ブーメランの形をしています。それらに対して私たちは、両者の中間のような形状で、極端に細長いという特徴があります。ハヤブサほどスピードは出ませんし、かといって旋回の持続性もない。飛行中は8割がた、羽ばたきを続けています。その代わりに、飛行姿勢の急転とか、前後進の切り替えとか、ツバメほど俊敏にはいかないまでも、いわゆるアクロバット飛行を身につけることができます。

―逃げテクと言うと聞こえがよくないものの、やはり専守防衛という社会性とともに進化した結果なのでしょうか。

ミサゴ 実は、そうした翼の性能が最も役立つのは、逃げるときよりもダイブのときなんです。肉眼でとらえづらいかもしれませんが、ホバリングから急降下して着水するまで、ほんの2、3秒の間に、私たちは何度も体の向きを変えて獲物へのアタックの角度を微調整しています。子どものうちには、なかなか身につかない技ですが、翼のコントロール一つで、漁の正確さは格段に違ってくるものです。

―繊細なものですね。しかも、その長い翼を駆使するのにも、やはり関節の柔らかさがモノを言うわけで。

ミサゴ 股関節と合わせて肩関節の可動域もまた、生き抜くための重要なポイントですね。ダイブ時の着水の衝撃は相当なものですから、これで翼を傷めてしまっては話になりません。肩に打撃を受けないよう、翼を後方にすぼめるのがダウン・イン・ポーズの基本ではあります。ですが、すぼめ過ぎてもいけません。すぐに離水の態勢がとれるよう、全身が水中に没する前、着水の瞬間に翼が浮き輪代わりになるよう、元通りに広げる必要があります。

―カワセミなど頭から水面に突っ込む鳥でも、着水の瞬間で翼を広げて離水の態勢をとりますよね。

ミサゴ しかし、私たち同様、そういう鳥は水深の浅いところにいる魚しか獲れません。カツオドリという海鳥のダイブは、ご覧になったことがないですかね。熊本の天草あたりではウォッチングのツアーもあるようですが、彼らはわれわれの倍近い体格にもかかわらず、肩関節が極めて柔軟です。空から海中の魚群へ突撃するとき、まさに脱臼せんとばかり、翼を後方へたたみます。全身が一本の銛のような形になって、深みにいる魚もくちばしでキャッチできるわけです。

―同じ魚を主食にする鳥でも千差万別ですね。銛というたとえはユニークですが、それぐらい尖った特徴がないと、カツオは獲れないのでしょうね。

ミサゴ あ、誤解のないよう。カツオドリとはそもそも日本人がつけた名前ですが、彼らの主食はイワシですよ。イワシの群れを見つけたカツオドリは、それを空中から集団で取り囲む。これを目印に漁師がやってくる。海中では、イワシを目当てにカツオが集まる。漁師の狙いはイワシではなくカツオの方。つまり、お金になるカツオを獲りたければ、まず銛みたいに突っ込む鳥の集団を探せ!というわけで、カツオドリの名が用いられたという話です。

―日本人の私が言うのもなんですが、回りくどい由来ですね。あなた方もカツオドリを目印にして、カツオ狙いなんてことは?

ミサゴ そういうこともあるかもしれません。ただ、カツオは大きさからいって危険ですね。実際に獲った例もあるようですが、反対に引きずりこまれて溺死するケースが絶えません。人が釣ったカツオにミサゴの脚が刺さっていた、などと聞くと、さすがにゾッとします。

―持ち上げられない魚はともかくですが、それにしても漁の成功後、獲物を抱えている状態で、横取りを狙う鳥たちの追跡に遭うと、本当に手を焼きますよね。

ミサゴ さすがに1キロ級の魚を抱えていると、加速がつきませんからね。急ブレーキをかけたり、回転したりと、不規則な動きを見せて、まき続けるしかないんですよね。それこそ、世間で言われている「逃げテク」を磨かないと。

―それから、タカ類としては特筆される、羽毛の撥水力にも触れないわけにいきませんね。

ミサゴ あくまでもタカ類の中では、ですけどね。ガンカモや海鳥類のように、全く湿らないわけではありませんが、私たちの羽毛は密度や油分が高く、巣立ち頃の子どもには、もう十分な撥水力が備わっています。それでもダイブの後、離水するたびに体を震わせて水をしっかり弾き飛ばさないと、飛行の負担になってしまいますね。

―飛び立ってすぐ、両翼を広げてブルブルっと揺らすポーズを「カズダンス」と呼ぶファンもいるようですよ。

ミサゴ サッカーのキングカズですか? 動画でスロー再生すると、そんな雰囲気もあるんでしょうか。人のたとえとは、面白いものですね。ユーチューブには私たちの映像もたくさんあがっていると聞きますが、どんなふうに撮られているのか、一度拝見したいものです。

―そのほかにも、漁のために進化した体の特徴がありますか?

ミサゴ 人が水中で作業するには、ゴーグルと鼻栓が欠かせませんよね。私たちも水中に潜るのが一瞬とはいえ、同じような装備が必要なんですよ。ですから、あまり注目はされないのですが、まず哺乳類にはない瞬膜、まぶたの内側にある、もう一つのまぶたですね。これが海鳥なみに透明化しています。水中に飛び込む瞬間、瞬膜で角膜をガードしますが、獲物を掴む最後の瞬間まで、視界をクリアに保てるわけです。そして、水面から飛び立つまでの間、私たちはくちばしの付け根にある鼻孔を閉じることができます。人と同じで、鼻に水が入るとたまらないですからね。これも、地上生活中心のタカ類にない特徴です。

―飛び込みは浅くても話は深い(笑)。いよいよタイムリミットも近づきましたので、最後にとっておきの質問をしたいと思います。

ミサゴ それって、トビかカラスからのクエスチョンじゃないですか? ちょっと情報統制に気を回した方がいいかも、ですね。

(つづく 次回最終回)


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(発行・編集人:安藤進一)