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今月のひと駅-2023年4月

浦ノ崎 (松浦鉄道)

うらのさき駅 佐賀県伊万里市
昭和5年開業

桜のトンネルが駅舎代わり

 久原を出て、まだ集落続きといったところで、まさにその名の通り、入江に直面した波瀬駅を通る。国道204号は、その手前から松浦市内にかけて、山腹に高規格のバイパスが造られている。だから、松浦鉄道に沿った旧道側は、明らかに交通量が減り、しばらくのどかな海岸沿いの道が続く。

 春しかその美しさを愛でられないが、片面ホームのみの浦ノ崎駅は、構内全体が桜のトンネルである。駅開業を記念して植樹されたという100本近いソメイヨシノの並木は、見頃になるとまさに豪華絢爛。駅舎が撤去されて久しいが、特製の駅名標で桜の駅を謳うにふさわしい。駅舎がなくなった分、駅前広場が確保されて、そこでは満開の時期に「桜の駅まつり」が開かれる。集まる人々にとっては、桜のトンネルそれ自体が浦ノ崎の駅舎という感覚かもしれない。

 そもそも浦ノ崎というのは港町の名前で、ここからは、伊万里湾の先端で砦のように浮かぶ、福島への主要航路が開かれている。今は、その渡船場へより近い場所に福島口という停留所が設けられたが、長らく浦ノ崎駅は福島への連絡駅とされ、国鉄時代は急行も停まっていた。そんな主要駅が無人化されて後、改めて桜を象徴とする観光駅に生まれ変わりつつあるのは、喜ばしいことである。

【2020(令和2)年取材】


(駅路VISION第28巻・西九州Ⅲより抜粋)

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