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インタヴュー ウィズ オスプレイ ⑨(最終回)

ミサゴ(水沙児)は冬の季語

―お察しの通りで、カラスからの質問なのですが、フグに当たって死ぬようなことはないのかと。これは人類の側からも興味があります。同じフグでも無毒なものはいますが、見分けることはできるのですか?

ミサゴ 具体的な確証があるわけではないのですが、長い歴史の中で遺伝的に記憶されているのでしょう、私たちは一定程度、毒性の有無を感知できるようです。ご存じのように、タカ類は小さな獲物でも、ウやサギのように丸吞みはしません。皮から骨まで、必ず細かく、一口サイズにちぎりながら食べます。そうした食性の中で身についたこととして、私たちは基本的に内臓の中でも腸は捨てることにしています。魚の腸内には寄生虫のいる確率が非常に高いからです。また、生きた魚しか獲らないのも、死後、時間が経って体中に寄生虫が回ったようなものを食さないためです。人でもアニサキスに当たるという話が、よくありますよね。あれは鮮度の落ちたものを食べている証拠なんですよ。

―なるほど。人もあなた方と同じく、魚は鮮度の良いものを刺身で食べるのが一番おいしいと思っているわけですが、それでも寄生虫には細心の注意を払わないといけませんね。

ミサゴ 私たちには、火で殺虫、滅菌することはできませんが、生のものは細かく切って食べるのが最低限の安全対策でしょうね。その一方で魚の持っている毒についてですが、人による研究の歴史は、比較的浅いようですね。

―そうなんですよ。中でもフグ毒の研究は調べたところ、江戸時代以降だそうです。握り寿司の文化が浸透し始めた頃にフグによる食中毒が多発したので、毒味をしながらの研究が本格化したと言われています。

ミサゴ 結局は、毒味なんですよね。どんな動物でも同じで、その記憶が受け継がれていくのだと思います。魚の毒のある部位というのは、多くが肝臓や卵巣、それに皮膚です。これらは私たちも日常的に食べているものですし、鮮魚の生レバーなんていうのは、本当においしくて栄養価も高い。ですが、やはりテトロドトキシンをもっているフグなどでは、内臓に触らない習性が身についています。もちろん、人と同じく、私たちも食べたことのないものに毒があるのか、ないのかは、経験値によってしかわかりませんから、現代でも運悪く、初めて食べた魚で中毒死するようなことはありえますね。

―少なくとも、あなた方のように、細心の注意を払いながら、細かくちぎって食べること。これこそが食物連鎖の頂点に立つ者の秘訣と言えるかもしれませんね。

ミサゴ おっしゃる通りです。ですから、同じ鳥類でも、丸呑みで肉食するものは多いですが、そちらの方が危険ですし、私たちからすると不思議なんですよ。遠賀川では最大の鳥とされるアオサギの食性なんか、恐ろしいじゃないですか。世間でも鳥類きっての悪食と言われていますし。

―確かに。アオサギはヒキガエルやドブネズミなど、毒性があったり、菌の寄生が多かったりする生き物でも丸呑みにします。

ミサゴ カラスだって、大量の菌が発生している生ゴミをあさっているわけですから、他人を不思議がっている場合じゃないですよね。私たちのような魚食性の鳥でいえば、最も不可解なのはウですよ。彼らこそ、毒への免疫がどうなのか、みなさんにとって格好の研究材料ではないですか?

―そういえば、そろそろ繁殖期を迎える中で、カワウの顔が白くなりつつあります。大食の季節が始まりますから、改めて取材を検討しますね。

ミサゴ 北九州も野鳥の種類が豊富ですから、私たちにとっても、みなさんの取材の成果が勉強になります。保護と観察の環境も充実しているようじゃないですか。若松の埋め立て地にビオトープができて、関係者がミサゴの繁殖用にと、鉄塔を設けてくれました。こうした取り組みには、頭が下がります。もっとも、残念ながら高さが中途半端なこともあって、今のところ、そこに住み着く家族はいないようです。せっかくなら、もう一工夫、お願いしたいところですね、私の子どもたち世代のためにも。

―遠賀川がミサゴの人気撮影地になってきたことで、あなた方への関心も高まっていると見えます。最後に私たち人間社会へのメッセージを。

ミサゴ トビやオオタカと違い、私たちはタカ類の中でも、とくに人間への警戒心が強いと言われてきました。それが最近、ツミやハイタカが東京のベッドタウンに進出したり、ハヤブサやチョウゲンボウが高層ビルに居を構えたり、というニュースを聞くにつけ、持続可能な共生社会のなんたるかを考えさせられる時代になったと感じています。それこそ私たちも、トビの生き様に学ぶことが多くありそうです。初めに話したように、私たちの特異な体の構造が、軍事目的で研究されるのは望みませんが、人間社会との距離が縮まる中で、できることなら観光や文化の活性化に役立ててもらいたいと願っています。日本でミサゴは冬の季語というではないですか。小春日和の遠賀川での鑑賞会など、おススメしますよ。

―長時間にわたり、ありがとうございました。

(了)


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