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オーストラリアの集中治療医Georgeの日記(4)〜クスリ くすり 薬

オーストラリアでは、麻酔科領域で使える薬剤が多いです。麻酔科医は薬剤にステッカーラベルを貼ることを好みますが、オーストラリアも例外ではありません。
ご覧の通り、全ての色は薬剤の種類を示しており、薬剤カートはだいたい全ての種類のステッカーラベルを搭載しています。麻酔科医の中には、できるだけたくさんの種類のステッカーを使うことを信条としている人もいて、それはおそらくこのステッカーリストをより面白く充実させるためだと思うのです。
大規模な高次機能病院の仕事の多くを占めるのは、研修医教育の推進です。チオペンタールからケタミンまでの様々な麻酔導入薬は、若手ドクターがそれら薬剤にまずは慣れること、そして彼らが独り立ちしたときにはそれら薬剤を武器として適切に使えるようになることを目的として使われています。
筋弛緩薬は、基本のスキサメトニウムやロクロニウムから、シサトラクリウムやアトラクリウムまで使えます。そのほかには、メタラミノールというフェニレフリンをちょっと使いやすくした薬剤みたいなものもあります。新しい薬剤が研修医教育目的で持ち出されると、興味深い(薬剤使用)リストになることが多いです。
オピオイド(麻薬)は、オーストラリアの公衆衛生にとって大きな問題となっています。麻酔に使用するオピオイドは、レミフェンタニルやアルフェンタニルから、ヒドロモルヒネやモルヒネなどの長時間作用型オピオイドまで、様々な種類があります。慢性疼痛への対応は今でもかなりの(麻酔科医の)仕事量を占めており、主要な病院には急性期と慢性期の疼痛サービスがあります。どの薬剤を使用するか選択する際には、その薬剤の値段を考慮するのが一般的なので、レミフェンタニルのような(高価な)薬は1日中使うとかなりのコストになってしまいます。そのため、一般的には脳神経外科の麻酔などの特定の症例のために予約されています。モルヒネPCAも(安価なため)今でもよく使われています。

George Zhou : 「Perioperative communication in English 麻酔科医師・周術期看護師のための周術期英語コミュニケーション」の翻訳者。パース在住の麻酔科医師・集中治療医師。日本語が堪能であり、2019年に聖路加国際病院で半年間勤務。

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半年前にレミマゾラム(商品名:アネレム)が日本で承認になりました。超短時間作用型のベンゾジアゼピン系全身麻酔薬です。この薬の使用経験についてGeorgeに聞いてみたところ、以下のようなお返事でした。

«  Remimazolamは聞いたことあるけどまだオーストラリアには出てなくて、使ったことないです。めっちゃ使ってみたいと思います!特にICUで、、でも新しい薬だからコストは結構たかいと思いますね »

Georgeはオーストラリア人なのでコスト意識が高いです笑。
日本はオーストラリアに比べて、筋弛緩薬やオピオイドをはじめとして、使える薬剤の種類が限られています。そして、それらの薬は高額だったりする。
でも、他に選択肢がないので仕方ないのです。
日本の医療保険制度のなかでは、ジェネリックを選択するということ以外は、薬剤の値段を気にせず、必要であれば高くても自由に使えます。
安価という理由でモルヒネPCAを選択する麻酔科は日本では少数派ですし、超短時間作用型の麻薬はレミフェンタニルしかないので、高額でもほぼすべての手術で使っています。
現在、日本の医師は値段を気にしないで、必要性からのみ判断して薬を選べますが、将来、必要性と価格の両方からの判断を迫られると、別の薬を選ばざるを得ないかもしれません。
今後は医療費の爆騰に追いつかない社会事情によって、日本でもコストを考えながら薬剤を選択する時代がくる気がします。その時には今のような全国民に平等な医療は昔話になっているかもしれない。そして、その頃には私のコスト意識はGeorge並みになっていることでしょう。             (星野)


In Australia there are many drugs available for use in anaesthesia. Anaesthetists love using stickers and in Australia it’s no exception. As you can see, they are all colour coded to what type of drug it is and quite often the drug trolley will have a whole variety of stickers. Some anaesthetists make it a point to use as many types of stickers as possible, probably to make the list more interesting. A lot of the work in large tertiary hospitals is to facilitate teaching. Induction agents ranging from thiopentone to ketamine are used to let junior doctors become familiar and add them to their armoury when they become independent. The range of neuromuscular blockers include standard suxamethonium and rocuronium to cisatracurium and atracurium. We also have metaraminol, which is probably just a better phenylephrine! It often makes for an interesting list when new drugs are taken out for teaching purposes.
Opioids are a big point of contention for public health in Australia. We have a range of opioids available for anaesthesia use from remifentanil and alfentanil to long acting opioids such as hydromorphone and morphine. Chronic pain is still a significant burden of work and there are acute and chronic pain services in all major hospitals. Cost is usually taken into consideration when we choose the drugs we use and drugs such as remifentanil can be significantly costly in a full day list. As such, it is generally reserved for certain cases such as neuroanaesthesia. Morphine PCAs are still commonly used too.

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