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読書記録6  差別の近現代史

「差別」のようなテーマを、現代的でオープンな雰囲気の中で語る本よりも、これくらい薄暗い雰囲気を残し地味に語る本が好み。差別に対する主観的な思い出に基づく主観的な考えを語られるよりも、これくらい客観的な事実で固めた情報を読むのが好き。
この本は、近現代の被差別部落、宗教、障がい者、人種といった「ちょっと気軽に触れると火傷しそうなテーマ」を取り上げて、日本の近現代史の中での差別をQアンドA形式で紐解いてくれる。
当たり前だけど、昔は今よりずっと差別が横行していた。そして、間違いなく今より未来の方が差別は減っていくだろう。
しかし、私はこの「差別」こそが、人間を人間たらしめている気がする。
差別をしなくなった未来の人間とは、無味乾燥でフラットでどこを切っても金太郎飴のような、人の形をした未来の別の生き物なんじゃないかと思う。ホモサピエンスではない、次世代の生き物。
差別をする人間の心こそが、人にヒト特有の彩りを与えているんじゃないか、と。

この本を読んで、「差別はいけないことだ」とか「差別はみんなで撲滅すべきものだ」とは思わなかった。(そういう道徳的メッセージの押しつけものは苦手なので)
意図的にか意図せずにかは知らないが、私が生きている限りは、差別をしていると他者に思われることがあるし、差別をされたと私が思い込むことがあるだろう。今までも、これからも。
でも、それで良いのではないか、そういうデコボコとした起伏こそが人間らしさの根源なのではないか、と思う。

この陰影がない世界は、差別も戦争もない代わりに、世の中はスーパーフラットでどこも眩しい光に満ちており、見渡す限り影はなく、人間らしさは綺麗さっぱり駆逐されているのだ。世界がその方向に進んでいるのは間違いないので、世の中にまだまだ差別がたくさんあることを憂いている人たちは、安心してほしい。逆に、私は今ある「差別」を今しか味わえない「経験」として記憶し味わっておこうと思う。将来、それは「失われた世界」の姿として懐かしく思い出されるだろう。

この本に描かれている昔の日本の差別の実態は醜いが、どこか懐かしい原風景ともリンクしている。個人的には、カバーデザインのちょっと不気味な黒の絵が何を意味しているのか、知りたい。さっぱりと短い読書記録にしようとしたのに、ついつい長くなってしまったアンドエト 星野でした。

本を買った場所:八王子駅 YURINDO annex

『差別の近現代史 〜人権を考えなおす』

文庫オリジナル書き下ろし
著者: 塩見鮮一郎
カバーデザイン:山元伸子 
2020年8月20日初版  発売元: 河出書房新社


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