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kitchen and CURRY三周年に寄せて

2018年の夏。道に水を入れてコップを置いといたら、すぐに湯立つんではないかというほどの猛暑だった。
それでも、井の頭線新代田駅から徒歩5分ほどの羽根木の森は、いくばくか暑さを和らげてくれる美しい緑で溢れていた。



この場所にカレーの研究場所を作ろう。
定期的にお客様にその研究成果を召し上がっていただけたらいいな。

名称は?ラボ、アトリエ・・・どれも自分にはしっくりこない。
シンプルにキッチンがいいかも。

kitchen and CURRY。

うん、悪くない。

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わたしは三年前、夢と希望と不安に溢れていた。

人生で初めて借金をし(まだ返せていない)、冷蔵庫やら製氷機やら大きなものをいくつも瞬時に判断して買った。契約の初期費用は、母がわたしのために長年積み立ててくれていた貯金を崩した。

そこまでしてやるべきことなのか?

何度も自分に問いかけたけど、答えはいつも「やるんだよ」だった。

オープン日に天風のさくちゃんが送ってくれた花を、長いこと誇らしげに店頭に飾っていたのは、彼のブレない精神を、不安でいっぱいの自分に宿したかったからもしれない。

キッチンにはわたしのこだわりと好きなものを散りばめた。まずは無垢の床。三年経って傷こそついているが、この場所で過ごしてきたという証。思い出が積み重なっていく様は、新品のものよりも美しい。最近床を念入りに水拭きするようになって、余計にそう思う。

カウンターのタイルはチュニジアのもので先輩から購入した。撮影にこられた方が、このタイルを入れて写真を撮りたいとおっしゃるたびに、むふふと笑みが溢れた。SNSにもカウンターでカレーを撮ってくださった写真がたくさんあって、見つけるとまたむふふとなる。


わたしの真面目すぎる字と下手すぎる絵に悶々とした画伯は、三年間ずっとイラストを描いてくれている。おやすみしたのは画伯がインフルエンザにかかったときだけだった。通りに面して掲げた看板を、楽しみにしてくださっているお客様の多いこと。かわいいももこと晋作が、いつもそばにいてくれているほんわか感を、お客様にも感じてもらえているのが素直に嬉しい。


これまでand CURRYをひとりでやってきたけれど、手伝ってくれる人が年々増え、今では頼もしい仲間が何人もいる。わたしがキッチンにいなくても、それぞれ役割を果たしてくれて、and CURRYを前に進めてくれているのだ。リーダーに向いていない職人気質のわたしを、なんとかサポートしてくれていてとてもありがたい。

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この三年、いつも走っている気がする。
しかも全速力で。
正直しんどいけれど一回も走るのを辞めたいと思ったことはない。
キッチンの中での出来事には悔しいことや悲しいこともあるが、圧倒的に喜びが多いからだ。

出入り口で交わす一言二言の会話、ときにはSNSでメッセージで。お客様と交わす言葉は自分の原動力そのものだ。マスクやアクリル板で隔てられている今だから尚わかる。おいしかったよ、幸せな気持ちになったよ、ありがとうと声をかけていただくたびに、カレーを作った、食べたという関係性以上のものを築いているのかなと思ってしまう。

キッチンを作ってよかった。嬉しい言葉をいただくたびにそう思う。
チャレンジした過去の自分を褒めてあげたい。


だからこそ普通に営業がしたい。

大好きなビールをおすすめしたり、大きな声で笑ったり、お客様のざわめきで溢れるキッチンを取り戻したい。これからも走っていくために、今はできる限りのことをやって行かなければと思っています。





この三年、ご贔屓いただきありがとうございました!



そして四年目以降のkitchen and CURRYも末長く愛してもらえるよう、頑張ります。


これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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