勝手にボカロで音楽論 Vol.1 反復

みなさんどうもこんにちは。アンドロメダです。

始まりました、勝手にボカロで音楽論とかいう謎のシリーズ。
このシリーズ(シリーズ化するかは未定)では、自分の好きな曲を持ち出しながら、音楽の要素について語る予定です。けっこうニッチな音楽理論的なことも書くかもしれないけど、そもそも理論にわかなので間違ってたらごめんね。

さて、今回のテーマは「反復」です。

一応今のうちに断り書きをしておくんですが、
以後「ドレミ」が出てきた場合、それらは全て階名で、移動ドの記法に基づくことに留意してください。基本的に長調の主音がド、短調の主音がラと考えてくれればOKです。
また、コードの場合はⅠ|Ⅳ|Ⅲmみたいな表記が出てきますが、それらは主音から見た相対表記だと思ってください。そのコードのルートの「ド,レ,ミ,…」を「Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,…」に対応させます。

偏った見方、とても主観的な話(本編)

反復 -"構造の美"なんて洒落た副題つけちゃう-

音楽において特に重要な要素として、「反復」があります。(あると思っています)

例えば、日本人なら誰もが知る『かえるの合唱』について見るとすると、

(左は歌詞、右は階名)
かえるのうたが ドレミファミレド
きこえてくるよ ミファソラソファミ
グワッ ×4   ド×4
ゲロ×4 グワッ×3 ドドレレミミファファ ミレド

こうなります。3段目のグワッ×4はもちろん分かりやすい「反復」です。歌詞も音の高さも長さも同じです。
しかし、1段目と2段目の間にも反復構造があります。リズムが完全に一致しているのです。また、メロディも完全に同じではないですが、2度上行×3+2度下行×3という構成は同じで、ただスタート地点がドからミに変わっただけとなっています。(ハ長調でピアノで弾いてみると分かりやすいですね)
また、1段目と4段目を比較するとリズムは違えど、同じタイミングで同じ音が鳴っています。(四分音符が分割されているだけ)

このように、音楽における反復は「メロディの高さ」「メロディの形」「リズム」のうちどれか一つでも同じなら成り立ち、どのパターンも考えられるわけです。

かえるの合唱の話長いわハゲ
心の中のAnotherアンドロメダ

至極真っ当な意見もこの辺りでぶつけられそうなので、実例をあげて反復の話をしようと思います。

反復と四段構成 -音楽の基本のキ-

まずはこの曲。言わずと知れた伝説の曲ですね。
とりあえずサビについて見ていきましょう。

(左は歌詞、右はメロディ)
千本桜 夜ニ紛レ   ラドレレミミ ミソラレドミ
君ノ声モ 届カナイヨ ラドレレミミ ミファミレドド
此処ハ宴 鋼ノ檻   ラドレレミミ ミソラレドミ
その断頭台で 見下ろして ラドファミレド レドシソラ
千本桜/WhiteFlame

お手本のような反復ですね。クラシック系の音楽理論でもよくA→A'→A→Bのタイプの構造は一つの王道として説明されることが多いイメージです。
分かりやすいことに、上の3段は全て最初の6音が揃っていますし、メロディの異なる箇所でもリズムは完全に揃っています。
最後1/4でそれまでの構造を崩す」というのは非常に調和が取れていて心地よく、さらに曲そのものを覚えやすくしてくれます。

反復の中の反復 -音楽的マトリョーシカ-

続いてはこの曲。メロディを書き起こすのが面倒になったのでサボります。

メーデー僕と判っても
もう抱き締めなくて易々んだよ
メーデー僕が解ったら
もう一度嘲笑ってくれるかな
(コーラス)
マボロシだって知るんだよ
(コーラス)
嘘憑きだって知るんだよ
ゴーストルール/DECO*27

前半4段は、2段+2段で完全な反復構造ですし、下4段もほぼ同じ形をしています。
2段ごとに区切るとA→A→A'→A'という形で、全体としても「A→A'」という形になっています。

また、Aメロを見ると、

どうだっていい言を 嘘って吐いて戻れない
時効なんてやってこない 奪ったように奪われて
ゴーストルール/DECO*27

メロディ的には「A→B→A→C」とも名付けるべき形が使われています。しかし、リズムパターンに注目してみると、
「いい言を」と「戻れない」と「やってこない」
「嘘って吐いて」と「奪ったように」
これらは同じリズムになっています。
つまりこのAメロは、
A→A'→A→A''という、"共通のリズムが通っている上に"メロディが展開しているわけです。

さらに、サビの「判っても」「易々んだよ」「解ったら」のリズムを思い出してみると、これも「いい言を」「戻れない」「やってこない」と同じになっています。
さすがに作曲者がここまで意識したかどうかは分かりませんが、このフレーズ末のリズムの統一が、まるで漢詩の押韻のように曲にまとまりを与えることに貢献しているのは間違いないと思います。

反復とグラデーション -近づいてくる気持ち-

続いては先ほどまでの例と比べて「控えめな反復」です。
Aメロはゴーストルールの例とだいたい同じですので特に説明は不要でしょう。
ではサビについて見てみましょう。

エイリアン わたしエイリアン
あなたの心を惑わせる
混ざり合う宇宙の引力で
感じてる気持ちはトキメキ
エイリアン あなたのエイリアン
引き合う心は逃れられない
あなたに未体験あげる
異世界の果てまで トキメキ スキ
エイリアンエイリアン/ナユタン星人

先の2例と比べて大きなスケールでの反復になっています。サビ前半で好きなだけメロディを入れた分、後半はできるだけ前半の形を踏襲しているので、聴く側もメロディラインを覚えやすくなっています。

しかし、今回注目すべきなのは反復の"スパン"です。Aメロでは反復される最小単位が「2小節」、サビでは「8小節」となっています。
ではここで、歌詞のないイントロのメロディを見てみましょう。
なんと、2拍単位の完全反復が行われています。もともと、ホラーな演出で流される事の多い曲からモチーフを取り入れて作られたイントロですが、それにしても2拍単位の反復というのは圧倒的に頭に残ります。
反復のスパンを長くすればするほど好きな旋律を入れられますが、覚えやすさは下がっていきます。曲の初めのほうはとても覚えやすいメロディで心をつかみ、サビに達する頃には段々と曲の「真意」が現れてくるわけです。

反復欲張りセット -さながら必殺技-

最後はこちらの曲です。
サビについて見ていきましょう。まずは前半

クラクラクラ クラクラさせてよ
ユラユラユラ ゆらぎを見せてよ
キラキラキラ きらめいていてよ
テオ/Omoi

これまでの例と比べて、歌詞も反復を全面的に手伝っているといういわば「反復の王」のようなパターンです。
この後に同じ形がもう一度続くので、メロディが聴く側の頭に残るのは当たり前というレベルですね。
しかし、この曲はここで終わりません。サビ前半でしつこいくらいの反復をした後に、潔く次のフレーズを出してきます。

離さないでよ! 眼差しを
僕たちはもう 止まらないよ
魔法が解ける それまで
繋いでいてよ 手を 手を!
テオ/Omoi

なんて美しい反復なんだ…と言わざるを得ません。
・「離さないでよ」「僕たちはもう」「魔法が解ける」「繋いでいてよ」のリズムの統一。
・「眼差しを」「止まらないよ」「それまで」の末尾のリズムの統一。
・ダメ押しの「手を」「手を!」

これだけではありません。1個目(「離さないでよ」の繰り返し)では、メロディの形を崩さないまま、スタート位置を1音ずつ下げているのです。この反復、美しすぎると思いませんか?
どうやらこの手法はクラシック音楽の作曲家たちにも愛されていたようで、「ゼクエンツ」というかっこいい名前までついています。フレーズを印象に残しつつ聴感が刻々と変わっていくので、ゲームの戦闘曲などにもよく使われます。

曲全体を振り返ってみると、
サビ前半は「同じ形の反復」
サビ後半は「ゼクエンツ」
さらにイントロにも「完全同形反復構造」
反復欲張りセットと言わんばかりの顔ぶれですね。反復フェチの人は多分もう興奮で寝られなくなっていると思います。

まとめ

さて、今回は「反復」というテーマで少し音楽を語ってみました。サクッと読める程度の記事にするつもりが思いのほか長くなったのですが、まあそれもよしとしましょう。
アンドロメダ個人の意見ですが、反復は音楽理論をよく知らなくても理解しやすく、かつ音楽の奥深さを感じられる、まさに音楽分析の入り口のようなテーマだと思います。

この記事を読んで面白かったとか、この曲はこんな反復構造があったとか、このシリーズ次もまた見たいとかあれば、気軽にコメント等していってくださいね。

ではまた。どうもさようなら。アンドロメダでした。


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