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燃え殻『すべて忘れてしまうから』を読んで思い出した月並みな話

大学時代、某百貨店でバイトをしていた。
その百貨店系列のクレジットカードを作るお手伝いをするバイトで、時給が良い(当時は1,200円でも結構高いと思えていた)、という理由だけで選んだバイトだった。
2人1組でほぼ丸一日一緒に働く、という形態で、クレジットカードを1日中作り続けるほどのお客さんも居ないので、お客さんと社員さんの目を盗んでよくその時々の相方と色んな話をした。
10個以上年上女性のMさんはサバイバルゲームに粉骨砕身、このバイトを主業とされていたし、3個上の一橋大学通いの男性Oさんは次の春から東京都庁で働く国家公務員になると言っていた。

月並み過ぎて書くのも憚られるが、同い年の女性Nさんとは、シフトが被ると嬉しかった。
綺麗でおとなしい子で、2014年当時としても珍しくガラケー持ちで、LINEをやっていなかった。電話番号とメールアドレスを交換した。シフト外の連絡はメールだった。Re.が増えていく感覚、というやつを久しぶりに味わった。

当時は良く邦ロックバンドのLIVEに行っていたのだが、彼女も音楽が好きで話が合った。
お勧めし合った音楽を、当時はわざわざTSUTAYAで借りて聴き、次のシフトで感想を言い合うなんてことをしていた。
おとぎ話というバンドが出ている映画を観て、ハマり、アルバムを買い、勧めた。一緒にライブに行こうと誘った。中高6年間を男子校で過ごした大学1年生としてはほぼ初デートのようなものだ。

渋谷のそれほど大きくない箱で、ステージ以上に横にいる彼女を気にしながら観ていたことだけを覚えている。
ライブの前後にご飯を食べたかどうかとか、すべて忘れてしまった。

彼女とはなぜかそれきりで、シフトで被っても以前のように音楽の話をする程度だった。
映画館でバイトをするようになり、百貨店のバイトはフェードアウトするように辞めた。



「Instagramを利用している〜さんはあなたの知り合いかもしれません」
電話番号とメールアドレスを交換していた彼女が数年経っておすすめに出てきた。
懐かしい気持ちで開くと、花束を抱えて男の人との仲睦まじい姿が現れた。
ああ、あの子、結婚したんだな、なんて月並みな感想と感情と。

表題の本を読んで思い出してこの文章を書きながら、久しぶりに覗いてみようかと思ったが、アカウント名も忘れてしまったし、電話番号検索のやり方もよく分からず断念した。


(※この本の中の『彼女は駅のホームで突然「バカ」と短く言った』、を読んで急に思い出して書きたくなった)


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