夜間大学生(15歳)

世の中の男性は皆どこか少し変わっているのか、人間みんなそんなもんなのか、私の好む異性がちょっとアレなのか。

高校に入学した頃、1ヶ月ほどの短い期間を一緒に過ごした方のお話。

Cさんと初めて出会ったのは渋谷だった。趣味のゲーム仲間とカラオケに行く集いで、共通の友人に紹介された。当時の私は15歳なので、紹介といっても本当に他意のない遊び仲間としての出会いだった。

Cさんは小柄で少し髪が長く、女性的で柔らかな雰囲気のため、初対面でも話しやすかった。夜間大学に通っていて、昼間はアルバイトをしながら学費を稼いでいた。年齢は20歳で、大人になりたてだった。

お互い少しサイコパスでマニアックな漫画を好んでいて、すぐに打ち解けた。それまで私はミステリーやSF、ホラー小説を好んでいたが、Cさんの薦めで村上春樹をたくさん読んだ。世界の終りとハードボイルド・ワンダーランドは特に気に入ったので、今でも好んで読んでいる。

カラオケそっちのけで話して、連絡先を交換して、その後も2度ほどお茶や食事をして、何か特別なことをするでもなく、すっと話していた。会ったこともないCさんの友人に手紙を書く遊びもした。「現役女子高生」から手紙を貰ったその方は、大喜びだったとのことだ。最後まで会うことはなかったが。

Cさんの夜間大学の話、鍋焼きうどん屋さんでのアルバイトの話、趣味のバスケットボール仲間の話、どれも普通の内容なのに、Cさんは話し上手で私はくだらない内容にずっと笑っていた。

夜間大学にはお気に入りのセクシーなお姉さんがいて、アルバイト先のおばちゃん達の中でCさんはアイドル的な存在で、バスケットボール仲間にはお気に入りの清楚なスポーツ女子がいた。どこまでが本当でどこからが創作なのかわからない。とにかく面白かった。

Cさんと私の関係は「恋愛ごっこ」という言葉が合うように思う。Cさんにはお気に入りの女の子がたくさんいたので、私も深入りせず、一緒に居る時間を楽しんだ。

何がどうなってそうなったのか全く覚えていないが、出会って2週間ほど経った時、Cさんは私に指輪を買ってくれた。私はお礼にピアスを贈った。Cさんも「女子高生」と遊ぶことを楽しんでいたのだと思う。

当時、私が気に入っていたリップバーム(いちごケーキの香り)を舐めて「甘っ」と2人で笑ったことを何故かよく覚えている。

1ヶ月の間、たくさん会ってたくさん話した。その後、Cさんの関心はゲーム仲間の他の女の子に移り、私と会うことはなくなった。

これで終わっていたら、私はおそらくCさんのことを思い出すことはなかっただろう。村上春樹の小説を見かけるタイミングで記憶の端っこあたりから引っ張り出すこともあったかもしれないが。

時は7年ほど流れ、私は社会人になった。新卒1年目の冬、渋谷区で一人暮らしを始めた頃、仕事が終わり新宿を歩いていると、知らない番号から電話が鳴った。

普段、知らない番号からの電話は出ない。しかし新卒1年目の引っ越したて、会社やら業者やらからいつ電話が来てもおかしくないタイミングだったので、素直に出た。

私「もしもし?」

相手「○○さんのお電話ですか?」

私「はいそうです」

相手「Cです。覚えてますか?」

私「覚えていますよ」

会社でも業者でもなかった。懐かしいと感じたが、久しぶりの電話には警戒しろ、が鉄則である。私は塩よりも薄く優しく会話に応じた。人混みのなかで電話を取ってしまったので、Cさんの声もあまり聞こえなかった。

近況に関する質問をいくつかされて、正直に答えた。Cさんに質問はしなかった。短い会話の後、電話を切った。

(宗教の勧誘かと思った……)

そのまた2週間くらい後だろうか、Cさんからメールが入った。どこかのオフィスの階段のような場所での自撮りに「今あなたが幸せなら僕は幸せだ」というメッセージが添えられていた。返事はしなかった。

Cさんのことは嫌いではなかったし、むしろ好感を抱いていた。しかしそこまで強い思い入れはなく、Cさんが何を思ってそのようなメッセージを送ってきたのかわからない。

とても繊細な感性を持った人間だったので、きっと何かがうまくいかず、傷ついていたのだろう。もしくは多くの女の子に振られて手当たり次第メッセージ送ってみたのか。

私はコミュニケーション能力は低いが、だからこそ私に関心を持ってくれる人を拒むことはほとんどない。Cさんの何がいけなかったのかわからないが、おそらく、自撮りとメッセージが私にとって、ちょっとだけ不快だったのだろう。

連絡をいただいて返事をしなかった、私にとって、ものすごく珍しい例となり、Cさんの印象は強くなった。

素敵な恋人と幸せに過ごしていることを願う。

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