港区おじさん(31歳)

Mさんとは、渋谷のカジノバルで知り合った。

カジノバルは桜ヶ丘にあり、土地の開発の諸々で今はもう閉店してしまった。私はこのお店でポーカーを学び、立派な鬼アグレプレイヤーとなった。今はいろいろ学び普通、むしろいやらしい感じのパッシブだ。上手いとは言ってない魚。

さて。

オーナーのKさんは私の友人……というと申し訳ないので知人で、MさんはKさんの元同僚で、ひとりカウンターで飲んでいた私に、KさんがMさんを「気が合うと思うよ」と紹介してくれた。

ちなみにこのカジノバルで私は10人を越えるアンノウン(スタッフやオーナーの友人)を1人ずつ紹介され、気が合うと、後日そのアンノウンと他店へ飲みに行くという、カジノバルの売上にまったく貢献しない行為を繰り返しており申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

Mさんは2歳年上のふんわりと優しい雰囲気イケメンで、人当たり柔らかく、私はとても好きだ。

私のことをMさんは眩しくて見えないと表現した。おでこか、おでこの輝きのことか。

Mさんは京都でゲーム関連の会社を設立したばかりで、取引先との打ち合わせで、ちょくちょく東京に来た際にKさんのお店に顔を出していた。

実は私が初めてこのカジノバルでポーカーを覚えたのは、このMさんと一緒にお店を訪れた時だ。KとJはまあまあ強いよ、と教えてくれた。

Mさんはゲームが好きで、漫画が好きで、演劇が好きで、お酒が好きで、私と気が合った。食事や観劇など、一緒に過ごす時間は他の人とでは得ることのない幸福感があった。

そして、Mさんは、下心をいっさい見せない、純粋100%の紳士なのだ。

「僕は港区おじさんなんだよねえ」

って言いながら、ニコニコと楽しい会話をして美味しいお酒を飲んで、気づいたらお会計は終了していて、駅まで見送ってくれて、連絡の頻度も心地好さしかない。

ちなみに洋服はCUNEを愛用している。でもジャケットは着てることが多い。

こんな大人になりたい、の理想像みたいな人だ。

単に私への下心がまったく無かっただけで、男を出すべき他のところではしっかりと出していたのではないかと、思ってる。わからないけれど。

Mさんは学生時代に演劇をしていて、金髪でチンピラの役を演じた話とか、褌の話とか、セットがばーんって倒れる話とか、2人で話している時はとにかくずっと笑っていた気がする。

恵比寿のアダルトでお洒落なジャズバーでは盛り上がり過ぎて追い出されるところだった。

渋谷のスペースタワーに入っているお寿司屋さんでは、光り物っていいよね!とコハダを美味しそうに食べていた。私はサバ、アジ、イワシをオーダーしていた。

このお寿司屋さんではMさんの元上司(女性)と遭遇してしまい、席もいい感じにL字のカウンターでその女性の顔が見える席で、なんとも言えぬ、むずむずする時間を過ごした。

またある時は、Mさんが私の職場の斜め向かいの建物へ取引先との打ち合わせに訪れ、ランチをするでもなく「よっ!」と挨拶だけしに現れた。

そういえば、Mさんから「プラネテス」と「四月は君の嘘」を借りたまま返していないことを思い出した。返さねば。

観劇の約束をしていた時は、待ち合わせの1時間くらい前に、それぞれ向かいの喫茶店に居て、2階の窓から互いの姿を見つけて笑った。

私の妹とMさんが同じ大学の同じ学部出身で、妹から聞いていたサークルやゼミの話を共有できたり、あと10歳若かったら、私はMさんに恋をして振られていただろう。

回収できないフラグを立てすぎだと、おそらく私もMさんも思っていたに違いない。

Mさんは当時バツイチだったのだが、経緯や経験を重暗くならず率直に話してくれた。

また、仕事では会社を立ち上げたばかりで、従業員への責任感、それに伴う不安な気持ち、それでも仕事は楽しいという前向きな気持ち、正解のない世界を推進する難しさ、いろんな感情を上手に教えてくれた。

こうして振り返ると、私はMさんから人生の多くのことを学ばせてもらった。今の仕事でもMさんから学んだことは幅広く生きている。

頭が良く、人柄が良く、魅力的で、きっと従業員から見ても、取引先から見ても、素敵な人物なんだろう。

毎年、翌年の仕事の目処がたつと安心したように微笑む。そんな姿は今思い出しても、内緒だが、少しだけ愛しい気持ちになる。

これだけ魅力的な人物なので当然だが、この2年後にMさんは素敵な女性と再婚し、今は1児の父だ。

新婚旅行ではハワイのリッツ・カールトンに滞在し、完全に偶然だが、その翌週、私はロイヤルハワイアンに滞在した。微妙に残念なすれ違いだ。会いたかった。さすがに会えないか。

結婚後、Mさんのお仕事へのモチベーションはさらに上がり、育児とともに一生懸命頑張っているようだ。

少し落ち着いた頃に、またいろんな話ができたら嬉しいと思う。そんな日が来るのか来ないのか、今の私にはわからない。

Mさんがハッピーならそれだけで私もハッピーな気持ちになれるが、また会えたらとてもとてもとても嬉しいなって思う。

Mさんはそんな素敵な人なのである。

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