1浪2留の先輩(18歳)

大学に入学すると、可愛い新入生たちは、判別しきれぬ量のサークルに勧誘される。ちなみに私は可愛くない新入生だったので、集まった勧誘チラシはビリヤード、テニス、スキーの3枚だった。

あ、あとその後ニュースに出たスーパーフリー。知らない若者はGoogle先生に相談しよう。さすがに怪しすぎてこれはスルーできた。危機回避。

中学生の頃からビリヤードは好き
中学校時代の部活は硬式テニス部
小学生の頃は雪国に住んでいたのでスキーは得意

どれも悪くないやん、と思い、3つとも見学することにした。

テニスサークルは美男次女のお花畑だった。二子玉川の河川敷でパステルカラーのニットカーディガンに白カプリパンツ姿の美女たちがにこやかに野菜を切り、その横で爽やかなイケメン達がビール片手に火を起こし肉を焼く。

新入生イチのイケメンがたまたま同じ地元の出身で、共通の友人の話題で盛り上がり、美女たちの凍りつく視線が急所に刺さり、私は心が負傷したため、アルバイトに行かなければ、と早々に退散した。ここは私の居場所ではない。

(本当は女の子達みんなすごく優しかったです。)

スキーサークルはシーズンではないので、ただの飲み会主体の体育会系集団だった。私は体育系のノリには一生馴染めない呪いを受けているため、その後2度と関わることはなかった。

ビリヤードサークルは健康優良不良理工学部生の溜まり場、といった雰囲気だった。代表のGさんは安タバコ「エコー」を常にもくもくさせているブラジル国籍のドレッド兄さん、副代表は金髪だけど少し真面目さの香りが残るHさん、大学に来ないでビリヤードばかりしてるイケメンKさん、2年留年してなお大学に姿を見せない幻のNさん、個性溢れる品揃えだ。

なお、Kさんは私の友人でフランス人形のような美女Sちゃんに一目惚れし、全力で好意を爆発させたが、Sちゃんの好みとは違うタイプのイケメンだったようで、恋が叶うことはなかった。

Sちゃんの好みは頭と性格の良い速水もこみち、Kさんはビリヤードの得意な小池徹平、うーん、やはりちょっと違うかな、好みと。残念。

個人名が出てくるということは、そう、私はビリヤードサークルに所属することにしたのだ。

ビリヤードサークルのいわゆる新歓コンパで、幻のNさんが姿を見せた。このNさんの容姿と性格がとにかく私の好みど真ん中豪速球だった。切れ長、色白、細身、ふにゃっとしたダメ男感溢れる雰囲気に、関西人独特のトークスキル。女性に優しいが女遊びは苦手。全てが好きだ、今でも好きだ。

書いていて気づいたが、私は切れ長、色白、細身の男性に弱い。この3点セットさえあれば、レベルの高い難題も受け入れ可能。

ということで、ビリヤードなんて無関係。私はNさんに会いたくてサークルに所属した。

しかし相手は幻のレアキャラ。とにかく学校にもサークルにも姿を見せない。代表のGさんにお願いし、Nさんが姿を見せたら即、私の携帯へ連絡が入るスキームを構築した。

スキームの自動学習機能により「次の集まりはNさん来るからおいで」と、GさんはNさん基準で私の出欠を管理するようになった。

ちなみにNさんには付き合っては別れを繰り返しているファンキーな恋人がいた。

私はただのファンであり、深い仲になりたいとか、そういうものではない。とにかくNさんを一目見るために、機会を伺ってはサークルに顔を出す、というなかなかストーカー的な活動を続けた。

ある日、ついにNさんの連絡先を入手し、お食事に誘い出した。町田駅で待ち合わせし、パスタとプリンを食べながら、とにかく楽しかったことは覚えているが、どんな会話をしたのかまったく記憶にない。恋とはそういうものだ。

夏に1度だけ、Nさんの家に訪問したことがある。
Nさんが彼女と別れていた時期だ。

「おまえには手を出さないよ、嫌いとか、好みじゃないとかではなく。」

そう言って、よくある頭ポンポンしてくれて、2人でお茶を飲みながらたくさんお話しをした。私は女性を「おまえ」と呼ぶ男性が嫌いだ。だがNさんなら許す。むしろ呼んでほしい。

幼い頃の写真を見せてくれたり、お気に入りのAVパッケージが転がっていたり、ご両親や子供時代のことを教えてくれたり、Nさんなりに私の好意にこたえてくれたのだと思う。

秋になるとNさんは真剣に就職活動を始めて、私とはあまり遊んでくれなくなった。努力の甲斐あり、無事、大手企業に内定した。2年留年していても内定ってもらえるものなんだ……と私は学んだ。

Nさんとはたまにメールで近況報告する関係が続き、翌年、Nさんが無事卒業し、就職できたことも本人から聞いた。

ちなみに、このNさんが内定もらえたのも、卒業できたのも、すべて副代表のHさんのおかげだと私は思っている。Nさんのエントリーシートやレポートをひとつひとつチェックしてはアドバイスして、二人三脚で日々を乗り越えていた。

Hさんは滝川クリステルと結婚すると、彼女無し歴を更新し続けていたが、元気にしているだろうか。

就職後の配属が名古屋になってしまい、その後Nさんと会うことはなかった。

私の卒業、就職が決まった際に連絡したら、俺も頑張ってる、お互い頑張ろう!と返事が来た。普通の言葉だけれど、入学当時から大好きな人からの言葉だ。好きすぎて嬉しすぎて、書いてる今も心が温まり幸せだ。

省略した思い出話もあるが、自分の心の中にしまっておくことにする。本当に大切な思い出は、他者に話すにはもったいないと思う。

大好きな人というのは、恋愛関係にならなくとも、私をこんなにも幸せな気持ちにしてくれる。すごい力だと思う。

私にも好きで好きで仕方ない相手はいるのである。流されるどころか押し倒す勢いだ。

さて、次回は「マルチ商法編」を書きたいと思う。
読者の皆様は「ねずみ講」と「マルチ商法」の違いを予習しておいてほしい。

「商品の流通があるかどうか」が違いで、「ねずみ講」は明確に法で禁止されている。

お楽しみに!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?