後ろの席の男の子(17歳~)

私は切れ長、色白、細身の男性に弱い。さらにメガネをかけていると、それ以上、もうなにもいらない。

Pくんもこの特徴を網羅している。

~ 高校3年生 ~

高校3年生の夏、席替えをしてPくんが私の後ろの席になった。Pくんは剣道部員で、毎年、男子生徒のみが参加する剣道大会で審判をしていた。容姿が好みであったため、その姿が私の記憶に深く刻まれていた。

「よろしくね」

私はPくんに挨拶をした。これが初めての会話だと思う。

Pくんは日本史が得意だった。高校2年生まで物理選択の理系100%だった私は、日本史があまり得意でなく、わからないことを教えてもらうようになった。

希望する学部の都合で急遽文系に転進した私は、センター試験は国数英+物理+日本史、私立は国数英というイレギュラーな科目を選択した。5教科7科目だった気もするが、昔のことなのであまりよく覚えていない。

Pくんとは用事がなくても会話するようになり、球技大会で互いの応援をしたり、実にいい感じだったと思う。

その後の席替えで、離れちゃうねーなんて言いながら、今度は隣の席を引き当て、ご縁を感じた。

受験シーズンに入ると登校する機会も減ってしまい、話す機会はほとんどなくなり、あっという間に卒業式となった。

「もう会えなくなっちゃうね」

私はPくんに声をかけ、進学先を聞いた。そこでPくんは私と同じ大学に進学することを知った。

「一緒じゃん! またよろしく!」

二人で笑った。

~ 大学1年生 ~

私は法学部、Pくんは文学部に進学したため、学内ではたまに見かける程度だったが、季節に1度くらいの頻度で2人で食事をしながら近況報告をしていた。この頃、私は高校の同級生とお付き合いしていて、Pくんも知り合いで、応援してくれていた。

Pくんは奥ゆかしく不器用なタイプで、恋愛に対して受け身だった。高校を卒業する際、後輩の女の子から告白されてお付き合いするも、自ら積極的に動くことなく、女の子に呆れられて早々に別れを告げられた。

アルバイト先の剣道教室で、こどもたちに剣道を教えてる時間が1番楽しいと笑っていた。

お食事の他に、高校生の頃からPくんとはたまに映画を観に行っていた。2人ともロード・オブ・ザ・リングとか、マトリックスとか、ゲームの世界観のような映画が好きだった。

~ 大学2年生 ~

Pくんが同じ学科の女の子に恋をした。私は、とにかく積極的に自ら動け!と応援した。Pくんは素直にアプローチを仕掛け、その女の子と恋人になった。

「高校時代から仲良しの女友達がいて、その子とたまに遊びに行くことは許してほしい。」と告白と同時に許可を取ったと後から聞き、呆れた。控えめ男子なのに強気か。

しかしそのおかげで、私とPくんはその後も変わらず、季節に1度程度のお食事、兼近況報告会を継続することができた。

~ 大学3年生 ~

私は2年ほどお付き合いしていた恋人にふられた。彼のアルバイト仲間の女の子にさらっと略奪されてしまった。

落ち込む私をPくんが励ましてくれていたが、続いてPくんも彼女にふられてしまった。

Pくんは彼女と1年お付き合いして、手を繋ぐ以上のことを何もしなかったようだ。奥ゆかしいにも限度がある。彼女はその先に進みたかったのに、Pくんがどうにもこうにも、彼女が大切すぎて手を出すことができなかったようだ。男心が難しすぎて、この気持ちはいまだ理解できない。

「大切すぎて手を出せないなら、大切じゃない私で試してみる?」

互いにパートナーのいないタイミングだったので、提案してみた。ここでPくんがまさかのスナコー(即承諾)、逆に私が困惑することとなった。

「僕はあんさん(私)のことが、前から好き……かもしれない! 初めての相手があんさんなら良いって思える! あーー。言っちゃった……。」

「……かもしれない、だと?」

好きなら好きで、それは「試す」にならずめんどくさそうだし、「好きかもしれない」という半端な気持ちは、その後の気まずさで私たちの関係性が崩れてしまうリスクが高い。

さらに言うと、好きすぎて手を出せなかったと主張するあなたがスナコーするということは、つまりわたしのことを全く好きではない。

「自分の身体をもっと大切にして、本当に好きな人を押し倒しなさい。」

~ 大学4年生 ~

大学4年生の頃、私は嫉妬深すぎるバーテンダーとお付き合いしていたので、Pくんとは少しだけ疎遠になっていた。

携帯電話を横浜の海に投げ捨てられたり、校門の前までお迎えに来られたり、重たすぎる愛情を頑張って受け止めていたので、正直Pくんどころではなかった。それでも、たまに学内で会うとお茶したり、繋がりは維持していた。

Pくんは就職が決まらず、大学院に進んだ。

~ 社会人 ~

Pくんは大学院の先生について中国やロシアの発掘に行くようになった。夏には日焼けした姿を見せるようになり、男っぽく成長していた。

大学院生の間に、可愛らしい恋人もできた。

結局、私とPくんは1度も深い仲になることはなかった。そのおかげで、今も変わらず、私たちはたまに連絡を取り、互いの幸せを喜んでいる。

Pくんは大学院を卒業後、恋人を追いかけて西日本に就職してしまったので、頻繁に会うことはなくなった。

たまに忘れた頃に「飲みに行きませんか?」と丁寧語の連絡がくるので可愛い。

数年前、Pくんはその恋人と結婚し、披露宴に呼んでいただいた。そして今では1児の父だ。

めでたしめでたし。

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