差別とタブーと哲学と(21歳~)

私は法学部の出身だが、中国語や心理学の単位を複数取って卒業したタイプの変人だ。大学3年生から卒業までは、法哲学のゼミに所属していた。

ロンドンブーツの田村淳さんが入りたいと言っていた、それなりに特徴的なゼミだが、当時は異端児の集いみたいなゼミだった。

LGBTの人が多く出入りし、ゼミ合宿では伊豆あたりでウツボの干物を食べながらウイスキーとブランデーと梅酒の混合物(通称あん◯カクテル)を先輩に飲ませるような、なんとも自由な雰囲気溢れる楽しいゼミだ。

先生は女性で、ガンダムとドラゴンボールとロックを愛していた。私が所属していた2年間に恋をして、体重が半分くらいになって、お化粧も覚えて、美容院に通い始めて、光属性に変身した。

今回は、そんなゼミの1つ年上のK先輩の話をする。

K先輩はのほほーーーんとした雰囲気で、とにかく優しい。背が高く、好きな人は好きだろうな、という薄い顔立ちだ。

私がゼミに入った時から、いつも親切に接してくれた。ゼミは議論形式で、授業が終わった後も先輩と私は飲み屋でその日のテーマについて語り合った。

「ジェンダー」とか「心身の障害」とか「人種・国家」とか、そんな話題だ。K先輩の発想はいつも優しく、鷹派で武闘派の私はK先輩の考え方が好きだった。

私が恋人にふられた時も、人生を迷走している時も、バーテンダーといろいろあった時も、とにかくしっかり話を聞いてくれて、先輩の考えを教えてくれて、同時に私の考えを尊重してくれた。

ただ、K先輩は女の子に弱い。

ハンタータイプの女の子に狙われては、断りきれずに押し倒される形で、ストーカーされたり泣かれたり、忙しい日々を送っていた。

私が気に入っているK先輩の名言

女の子は集団だと5割増
水着と浴衣も5割増
何もしなくても
女の子は女の子なだけでみんな可愛い

その性格のせいか、恋人はなかなかできなかった。自称彼女みたいな人は、たまに居たかもしれない。もしかしたらK先輩はちょっとダメな人なのかもしれない。

ゼミ合宿のとある夜、K先輩は「いま手を出してはいけない。神様が見てる。ご先祖様が見てる。」と隣の布団でおまじないを唱えていた。手を出されても私は殴り飛ばしますよ、安心してください。あと、部屋には我々の他に4人くらい居ます。

K先輩は私のトラブルに対するアンテナを持っているようで、私が何か抱えているタイミングで連絡をくれる天才だ。

K先輩の卒業後も、ゼミの後輩たちのトラブルがあった時、バーテンダーに携帯電話を海へ投げ捨てられた時、困った時に完璧なタイミングで「最近どう?」とメールをくれた。

バーテンダーのせいで携帯電話のアドレス帳が全滅していた私は「誰ですか?」と送った。K先輩は「Kですwww」と返信してすぐに「どうした?笑」と電話してくれた。おかげで私のアドレス帳の20%くらいが復活した。

私が大学を卒業した後も、K先輩は半年に1度くらいのペースで声をかけてくれて、飲みに行った。仕事の話、卒業した先輩たちの話、私の同期の話など、いつも変わらず、誰のことも否定しない優しさで聞いてくれた。

K先輩、この性格のせいか、実は女性の友人が少ないようで、私は貴重な存在だと笑っていた。恋愛関係にならなくて良かった、とにこにこしていたが、私はK先輩とは恋愛できる気がしない。ごめんなさい。

私が20代後半の頃、K先輩が結婚した。結婚パーティに招待いただき、奥様をエスコートせずにどこかへひとりぷらぷら行ってしまうK先輩を呼び止めつつ、私が奥様へ手を貸したり、プロポーズでのドタバタ話を聞いたり、楽しかった。

その数年後にはお子様も誕生し、育児にお仕事にベストを尽くしながらも、変わらず「飲みに行こう!」と声をかけてくれた。

日本酒が大好きな私に東中野の素敵なお店を紹介してくれた。ここ数年は、このお店で飲むことが多い。

私のお気に入り、渋谷の例のカジノバルにも2度ほど連れていった。ブラックジャックで机を叩き続ける姿が面白かった。スタッフやオーナー、常連のお客様とも仲良くなり、みんなでマッカランを飲んだ。

一見社交的で人当たりよく、でも実はすごく個性的で不器用でトラブルを招きやすく、私とK先輩はよく似ているのかもしれない。

大学を卒業して10年以上経つが、K先輩のコンタクト力で、先日8人程度のささやかなOB会を開催した。私の同期は遠方に居るメンバーばかりで参加できなかったが、後輩が4人も来てくれてとても嬉しかった。

K先輩と私はこれからも、お酒をたくさん飲みながら、誰も否定しない優しく楽しい世界で生きていくのだろう。

こんな関係はおじいちゃんおばあちゃんになっても続くと嬉しいが、世の中そう甘くはないのだろうと思いつつ、そんな未来を期待してしまう。

ここ数回、平和な話が続いたので、次回は泥沼劇場を……と言いたいが、私自身は実は泥沼を経験したことはないので、お約束はできない。

あんころもちと男たち、色気のない話が多いが、人生そんなものだ。

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