第三回「子どもは国の宝」 超高齢化社会に刺さるサブタイ。

2回目の終わりから約2年後、吉之助二十歳前後のエピソードです。

前半は西郷家の借金、後半はお由羅騒動と経済問題なので、サブタイトルがちょっと浮いてますね(これも西郷どんの残念なところの一つ)。後ですね、大河名物「釣り予告」がまだまだなんで、頑張って欲しい。

ではではレビューしてみましょう!半次郎少年は薩摩の宝…じゃなくて「子どもは国の宝」。少子高齢化社会に刺さりすぎる。

土下座で百両

第二回では農民たちの貧窮が描かれましたが、第三回では、侍たちもまた生存を脅かされるまでに追い詰められている現状が描かれます。

11人家族の西郷家もギリギリの生活で、体調を崩した幼い三男を医者に見せるとおじいさんの薬代がなくなるという苦しい経済状況。吉之助がさっき獲ってきた猪を売ろう、刀を売ろう、もういっそ家を売ろう!!と 父親に提案するくらい。

父親の吉兵衛さんが、侍が猪なんて売るもんじゃなか、家を売っても露頭に迷うだけと反対し、そこから派手な親子ゲンカに発展して大久保父子が止めに入る流れはお約束ですねw

(今回は父・吉兵衛さん(風間杜夫)の陽気さ・素朴さが魅力的に演出されますが、それは最後のシーンに繋げるためですね…)

西郷家は経済立て直しのため、赤山様にとある商人に紹介してもらい、借金を申し込みます。

その額なんと百両!…えーっと、現代の円にするとだいたい700万円くらいじゃないかと思います。結構な大金ですよね。正直、西郷家にはちょっと無理じゃ?と思われる額。

にも関わらず、吉兵衛さんは武士として上からものを頼んでバッサリ断られます。しかしそこで吉之助がいきなり土間に土下座。気持ち良いくらいすっぱりした土下座の上、勢いで空威張りしていた父親も巻き込んで土下座です。

ここはすごくよかったというか、目的のためなら土下座も厭わない、プライドに縛られない西郷吉之助という人物の器量を伺わせ、2年前まで自力では何もできなかった吉之助が百両くらいなら信用でなんとかできる程度には成長したことを爽やかに、しかし全く甘くなく描いていたと思います。

人品卑しからぬ風情の商人は、吉之助の人柄を信じてお金を貸してくれることになり、吉之助と吉兵衛は浮かれに浮かれます。

中村半次郎

借金に成功しての帰り道、吉之助は後に用心棒となる中村半次郎、後の桐野利秋と出会います。

ここもよかったー!主に半次郎少年がwww 

半次郎は幕末の有名な剣客の一人でして、後に「人斬り半次郎」と呼ばれ、最後は西南戦争で西郷隆盛と運命を共にする人物です。

史実では西郷と関わるのはもっと後ですが、敢えてここで出してきたっていうのは面白かった。

というのは、斉彬が一部の藩士によくわからないままに熱狂的に支持されるというのは、西南戦争で西郷隆盛が担ぎ上げられることの原型だと思われるから。

ここで桐野が出てくることで、ドラマの最初と最後が円環でつながります。

若い西郷が無防備にそしてあまり根拠なく斉彬に寄せた信頼や忠節と同じものが、何十年後かに自分の元に帰ってきた時、西郷隆盛という人は自己本位に振舞える人ではなかったろう。それはここ1〜2回ですでに十分描けていました。

と、感慨に耽りつつも、いやはや半次郎くんの太刀筋は見事でした。人間を相手にした時の示現流強いわ……!

脱藩

臨時収入を得た西郷家では大喜びで米を買って隣近所にまで振舞います。ここで面白かったのが、タグTLでものっすごい反発が起こったことですね。「リボ払いしちゃう奴あるある」みたいなえぐい指摘が多かったですが、いやこれ昭和の映画やドラマではよくあった描写なんですよ。実はクスッとするところなんですよ。

でもクスッとできないのは、今は昔より潔癖だからなのか、それともより貧しくなりつつあるのか、なんかもう、TLを見ながら複雑な気持ちに。

後ですね、ドラマでは描かれませんでしたが、この百両は西郷家の所領を増やす、つまり土地を買うための資金とされ、生活費を補填した訳ではないのです。

口頭でいいからそれは補った方がよかったんじゃないかなーと思いました。あの描写だとまあ確かに西郷家がアホに見えても無理はない…。

さて、吉之助は下男の熊吉の実家にお米のお裾分けを届けにきて、半次郎少年と再会します。というか、早朝脱藩しようとしている中村家の面々を発見してしまいます。

この時代は現代では当たり前の「移動の自由」と言うものがありません。特に薩摩は侍籍の放棄に厳しくて、「脱藩は死罪」ということになっていました(どこまでもマチスモな薩摩よ)。

半次郎少年の父親は城下士でしたが、貧しさから藩の公金を使い込んでしまって島流しとなっています。

そのため周囲の助けもなく(昔の日本はコミュニティが助け合わないことには物理的に生きていけませんでした)、それどころか敵視され、家族が食べるための畑の維持もできない。

もうここでは生きていけないからと薩摩から逃げようとする中村家の人々を吉之助は止め、家に戻るよう促し、自ら車を引いて送り届けます。

逃げたら二度と侍に戻れないと言われた半次郎が、侍として生きたいと誇りを捨てなかったのが泣ける…んだけど、これも西南戦争への前振りですね。つら〜…

期待

その後は中村家を家に送り届けたのを脱藩を手引きしたと上司に悪意の通報をされたり、それを赤山靭負に救われたりとゴタゴタ。

吉之助は赤山先生に中村家の土地の安堵を頼みます(自分のうちの百両は借りれたけど、人のうちの畑はどうにもできない、主人公の限界が甘やかされることなく描かれています)。

赤山先生は、中村家の公金横領の話を知っていて、吉之助の以来に難色を示すんですけど、ここで冷静な正助どん、前回調所様の財政再建を評価していたいた彼までもが、公金横領は貧しさゆえのもの、責められるべきは悪政を敷く斉興と調所、と断じます。

このことから下級武士たちがどれだけ疲弊しているかわかります。斉彬はこういう人々の希望の星になっているわけです。

政争

で、その希望の星、島津斉彬公は藩主交代を画策して、幕府の老中首座・備後福山藩主 阿部正弘公に薩摩密貿易の実態を届け出ます。父・島津斉興を幕府の力を借りて引退させ、自分が藩主の座につこうという真っ黒な政争ですね。楽しい。

阿部正弘は斉彬の意向を汲んで調所広郷を目処に呼び出し、調所は全て自分の独断と罪を被って自害。

図書様を失った斉興の怒りは凄まじく、斉彬を支持する家臣の粛清に及びます。赤山家の経理に関わっていた吉兵衛さんが、赤山靭負に切腹の沙汰が降ったことを息子たちに知らせて、今回はここらでよかとこの回は終わります…。

最後にこの回の影の主役、調所広郷と西郷吉兵衛さんについて。

調所広郷(と斉興)を「悪」として書いているというツイートを何度か見ましたが、私はそれは全然思いませんでした。

調所様が藩の財政を立て直したっていうのは、正助どんが2回で言ってちゃんと評価していましたし、その後の主人公のアポなし突撃に対応してくれて、若気のいたりで失敗するだろうと思いつつも「やってみろ」と言ってくれる。

それは赤山靭負が斉彬に直接訴えてみろと主人公を斡旋してくれるのと同じで、若者を見守る大人としての立場できちんと描かれていたからです。

調所様周りはやや難解で、土下座と人柄で借金をする西郷吉之助と、緊縮で借金を返す調所広郷の対比ということもあったと思います。若者と老人という対比もきれいでしたし、未来のある若者は借金をし、死にゆくものは不安から財を貯め込むというのも皮肉が聞いていた。

調所広郷は江戸に呼び出されてからの重厚な見せ場など、ちゃんと見てみると決して本当に悪として描かれているわけではないですね。そこは視聴者が読み取るべきではないでしょうか。

吉兵衛どんについては、前半の楽しいダメ親父描写が、赤山靭負の介錯役という容赦ない史実からのスパイスの効果!素晴らしかったです。風間杜夫さんは名優だわ、やっぱり!

という風に丁寧に見ていくとですね、この大河は今の所かなりしっかりフレームを作ってきているな、と思います。

すごく輝くようなものはないんですけど、視聴者が慣れ、ストーリーが進んできたら何か出してくるんじゃないか、と思っていたら4回のロシアンルーレット!!で大爆笑だったので、良作〜佳作大河を十分に目指せるポテンシャルを秘めていると思いますし、あるいは実験作として大河史に名を残すのもありだと思います。ものっすごい個人的な感想ですけど。

今のところ細部の処理が下手なのと、エピソード作りにどこかで見たような古さを感じさせちゃうのが残念なところなので、そこを修正していってもらえればいいなーと思います。

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