第四回「新しき藩主」薩摩における藩主とは。
すでに四回で周回遅れで申し訳ない…リアル本業の繁忙が続いています(だいたい3月半ばまで年度末繁忙です)。でも地道に続けていきます。
第四回はお由羅騒動の後半。
みんなの理想の兄貴・赤山弓削の切腹で涙を絞り、薩摩の国主を決めるロシアンルーレットという狂気の展開が最高でした。
批判もあるかもしれないけど、私はこういう超展開の剛腕がドラマとしてとても好きです。翻案に翻案を重ね、色々と振り切って、自分が得意なのはこれよー!とぶちまけてきた脚本家の血の叫びを感じます。
というわけで、4回、衝撃の薩摩ンルーレット回のレビュー、行って見ましょう。
赤山靭負の切腹
第3回のラストで島津斉興より切腹を賜った赤山先生。
主君から「賜った」という言葉でわかるように、切腹というのは武士にとっては名誉ある死。この辺は、前回毒を煽って自害した調所広郷に、栄誉も何もなかったことを暗示になります。
赤山先生が後ろめたさを一切感じさせずに死ぬことが、斉彬の正当化に繋がるので、彼は堂々と死ぬのですが、斉興の罪一切を引き受けた調所にはその死に方は許されないわけです。
赤山先生の介錯にはなんと吉之助パパ:西郷吉兵衛さんが頼まれます。武士でもこれからの時代は算盤!と息子に薦めていた、ヘタレで呑兵衛の癒しキャラ、吉兵衛さんがまさかの介錯役というのは、異説もありますが、史実に沿ったものだそうです。うう、薩摩は過酷…
無力
で、それを頼みに来たのが先生の実弟の桂久武です。弟と名字が誓うのは養子に行ったからで、赤山兄弟は島津家の分家筋の生まれというぼんぼん。
久武と言う、やがて大目付となり、小松帯刀と共に薩摩藩を倒幕でまとめ上げ、そして西南戦争で西郷隆盛と運命を共にすることになる人物の顔見せ、割といいタイミングだと思いました。
吉之助たち郷中メンは、なぜか島津久光公のもとに赤山靭負の助命嘆願を土下座でお願いしにいきます。それを久光公が「わしにはなんもできん!」と裏表ない感じでヘタレに断る。
常に赤山先生になんとかしてもらっていた彼らが庇護を失う無力感と、久光のプリンスではあるけれど政治的な無力さが噛み合って、何をどう頑張ってもこの時期の彼らに現実を動かす力はない感じがなかなか良い(w)。
(でも今後こんな彼らが立ち上がるときにはちゃんと立ち上がっていくのだと思うと、胸が熱い)
切腹の前日に赤山先生が、じきに俺の通夜だから今は湿っぽい顔をするな(爽)と真っ黒いジョークを飛ばすのも、武士のメンタルを表現できててなかなかだったと思います。普通に吹いたし。
お由羅騒動その後
というわけで、お由羅騒動で藩内は大いに揺れます。
大久保どんの父、利世も喜界島に流されることになる。この人はただお勤めをしていただけで流された、ということなんですが、第一回で目をキラキラさせながら斉彬への期待を語るシーンがあったので心情的斉彬派と言うことだったんだろうなー。役者さんの演技が光りますね。で、そんな程度の支持ですら離島に流されるという粛清の理不尽さ、斉興の余裕のなさ。
正助どんも藩の役職を解かれ、蟄居ということになります。これは自宅の一室から出てはならないという刑罰でして、「花燃ゆ」では松陰先生が自宅の離れに、「八重の桜」では山本覚馬が自室に謹慎させられてました。
「翔ぶが如く」「篤姫」ではこの時の大久保家が困窮を極める様がこれでもかと描かれましたが、西郷どんでは割愛。
しかし、藩主の長男、公式の後継である世子に肩入れしたら粛清される事態って、昔のこととはいえ本当に狂気です。斉興は暗愚ではないけれど、この理屈が通らない感じ、下の人から見ると相当脅威だったのでは…
そして当時の薩摩の世相が安心して喧嘩を売ることができるのは、江戸の町娘出身の側室だったっていうのが、お由羅騒動という名で伝わるこの騒動の真相な気がしてなりません。
赤山先生の切腹を見届けた吉之助も、あの女は俺が斬る!と慟哭・動転するのですが、当時の彼をなんの先見の明も持たない普通の若者と突き放した、厳しい描写だったと思います。
手紙
赤山を失った吉之助は、切々と斉彬の奮起を促す手紙を手紙を書き、赤山の血のついた(切腹の際に身につけていた)衣装を送ります。
ここで斉彬に一体どういうルートで手紙や荷物が届いていたのか、ちゃんと説明できていれば本当によかったと思うのですが、残念ながらそこはスルー。大河の序盤て、こういう作劇上の勘所がうまく働かないことが多いなあ。
多分、斉彬が藩主になってから藩政の改革案を呼びかけて下級藩士のアイデアを取り入れて、西郷吉之助を抜擢した、という史実から取り入れてるんでしょうが、まだ藩主じゃないので、もう少し詳しく理屈をつけて欲しかった。大事なところだけに残念でした。
兎にも角にも、斉彬は調所の自害に続き、赤山靭負まで死なせてしまったことに衝撃を受けます。
引退勧告
一方、斉興は幕府に自分の官位アップを要求します。
これがまた従三位という相当高い位でして、これがどれだけすごい位かと言いますと、徳川家の御三家、将軍を本家に供給する徳川家の一門衆と同じベルです。
浪費癖のあるワンマンな祖父の後、財政再建と言うとても大事だけれども人気が得られるわけではない仕事に一生をかけて取り組むはめになり、さらに晩年に藩士の粛清まで行った島津斉興が、最後に求めた他者承認としての官位、と思うととても切ないのですが、控えめに言っても権威主義的というか、モラハラ気質を感じさせるというか…多分このドラマの斉興は人の上下関係に敏感なところがある人物なんでしょうね。
それがこの官位を求めるというシーンにも出ていて、人物描写としてなかなかいい。
そしてそれを表したシーンで、阿部正弘が斉興の要求を突っぱね、引退勧告の「茶器お下げ渡し」をする、というのは権力闘争の暗喩としてすごい面白かったです。
もちろん 斉興はただ黙って引退する気はなく隠居として斉彬の藩政に口出しする気満々。斉彬はそれを阻止すべく斉興の鼻っ柱を折りにわざわざ出向くことになります。
ここが、初回から四回までの白眉「ロシアンルーレットで国譲り」になります(w)。
父子対決…!?
前半戦は、斉彬が、大人しく引退するよう斉興に泣き落としを仕掛けます。
「調所はあなたを庇って死んだ。本当にかわいそうなことをしてしまった」
とか、よく聞いてると斉彬もちょっとおかしい人物だなっていう風に描いてあるんですけど、それにしてもまあ、面白いことにちっとも斉興に泣き落としが効かないwww
斉興の方も、どうせ泣き落としだろ、と見越してる感がありまして、斉彬の言説を、付け入る隙のない老害的言動で完膚なきまでに叩き潰します。第一ラウンドは斉興公の完勝。
で、第二ラウンド。斉彬が切り替えてロシアンルーレットに勝負を持ち込見ます。いやここは本当にすごかったんですが、急に泣き落としはやめた!とばかりにチーン!!と鼻をかみ、いそいそと拳銃を取り出したときには、ちょ、まじかー!!と釘付けに。
斉彬があまりにも堂々としているので、出会え〜!と呼び出された護衛のお小姓衆が「度胸比べならお止めしません」とばかりに刀を納め、事の成り行きを見守る態勢になっちゃうというのも最高に面白かった。
薩摩には、火縄銃ロシアンルーレットで胆力を養う「肝練り」という伝統的ゲームがある、というネタを取り入れた名シーンでしたわ。
もちろん渡辺謙と鹿賀丈史という大物俳優二人の見せ場にもなってます。
この二人が自分のこめかみに銃口を当ててブルブル震えるっていう演技を順番にしていくのですが、
斉彬の、覚悟を決めて目を閉じ、思い切って引き金を引く、引いた後にホッと大きく息を吐くという迫真の演技、
一方の斉興は震えて銃がまともに持てず、斉彬の顔から目も離せず、最後には銃を投げ出すという演技には、勝負がついたことを見ているものに納得させるには十分すぎるものでしたねー。
この納得感が手紙のところからあれば…あれば!!言うことなかったんですけど!!
最後は、ロシアンルーレットを制し、胆力で薩摩藩主の座を奪い取った斉彬が、薩摩に殿様として入国し、家臣領民が打ち揃って出迎えるという晴れやかな祝福のシーンで終わります。
子供達が駆け寄ってくるのを、斉彬は子は国の宝だとニコニコと許す。
ここは「直虎」の最終回、自分は我が子を持たなかったから全ての子が等しく愛しいと感じる、というセリフを受けてのシーンだった気がします。自分の子を失くし、父とも疎遠な斉彬は、領民に対して寛容を持つ、とでも言うような(現実は百姓に対する取り立ては一層過酷になっちゃうそうですけど…)。
公職を免じられていた大久保正助も 謹慎中の部屋の中で微笑み、吉之助は時代の変化を感じて 期待を高める。
明らかにそう簡単にはいかないぞと言うフラグでしたけど、晴れやかに第四回は締めくくられたのでした。
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