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月に思う

それは、長い間地元京都を離れ世間の喧騒やニュースからも離れていた私がようやく地元での暮らしに戻り始めた頃のことでした。

17時半頃、道ゆく男性があらぬ方向で夜空にスマホを構えていました。何を撮っているんだろうと見ても暗くなった空だけ。
不思議に思いつつも仕事帰りの途を急いでいると、空を眺めている若者のグループが。向こうにも年配の女性2人組が首を上に傾けています。

あの人達は何を見てるんだろう。いや、見ようとしてるのか?花火?この時期にそんなイベントあったっけ。
あちこちに空を眺める人が。よく見てみると皆同じ方向を向いていることに気がついて、それで今何が起ころうとしているのかピンときたのです。

そんな今回の部分月食。自転車に乗っていたこともあり月よりもいろんな人を見る時間の方が長かったのですが。
都会の金曜18時頃といえば帰宅に急ぎ、ある人はようやく集まれることとなった飲み会に繰り出し、子供や塾の送り迎え、夕食準備、残業で今週末最後の追い込み…皆バタバタと忙しく暮らしている時間帯。

こんなにたくさんの人が時間を割いて建物の外に出てきている。
大学生グループも杖をついた高齢者も、スーツ姿の男性も、小さな子供はお母さんお父さんと一緒に。
老いも若いも、金持ちも貧乏人も関係なく。
普段は皆それぞれの暮らしがありそれぞれに生きていて交わることのないたくさんの人たちが、皆この時間だけは同じように歩みを止めて空を見上げている。

インスタ映えするからとか学校の宿題だからとか、単純に月が好きでとか、なんとなく巷で騒がれているしとか。理由は色々あるでしょうがなんだっていい。
忙しい暮らしの中で少しだけ時間を割いて、止まって空を見上げてみようと思ったのは皆一緒。
欠けていく月を見ながら人それぞれに思いを馳せていたのも一緒。

きっと太古の昔からこうやって人が一緒になって空を眺めてきて、この先の遠い未来もこうやってまた名前も暮らしも知らない人と一緒に同じ時を空を見上げながら過ごしているのでしょう。
この月食が終わったらまた人は一人一人の暮らしを歩み出す。

感染症の蔓延や昨今の皇族や政治家等のニュースで、物理的にも心理的にもいろんなものが分断されてしまいいろんな不満不信を多くの人が抱えているこの国。
こうやってたくさんの人が同じ時間を同じように過ごし同じものを見て思うことが、本当に貴重な機会で尊くてなんだか大切にしたいなと感動したのでした。

他国や宇宙人にこの国やこの星が生命を脅かされることがあったら、今の日本なら私利私欲のための争いや憎しみ窃盗強奪…残念ながらそういったものに塗れてしまうとしか思えないのです。
そんな人の集まりですら、一緒に同じ行動をとらせてしまう星や宇宙・自然の不思議な力には人間は到底敵うわけもないなあと改めて思ったのです。
やっぱり天文学はおもしろいぞ!

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