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運動器の解剖学⑲(筋学)各論!Ⅰ頭部の筋について

頭部の筋(顔面筋、咀嚼筋)については、無料公開中です。

Ⅰ.頭部の筋
(Muscles of head)

頭部の筋は,顔面筋(表情筋facial muscles,mimetic muscles)と咀嚼(そしゃく)筋muscles of mastication に分けられます.

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A.顔面筋
(=表情筋facial muscles,mimetic muscles)

顔面から頭部の皮下に広くある小さな筋で,その殆どは骨から起こり皮膚に停止する(皮筋).すべて顔面神経の支配を受ける.部位により頭蓋表筋,眼瞼裂周囲の筋,鼻部の筋,耳介周囲の筋,口裂周囲の筋に区分する.

頭(とう)蓋(がい)冠(かん)calvariaの前部に前頭筋,後部に後頭筋,側部に側頭頭頂筋があり,それらは帽状腱膜によって結合される.帽状腱膜は皮膚に密着するが,頭蓋骨との結合はゆるい.

1.頭蓋表筋

後頭前頭筋occipitofrontalis

前頭筋と後頭筋の2つの筋からなる

  前頭筋frontalis

起始・・帽状腱膜から下降し
走行・・眼輪筋,鼻根筋と交叉しながら
停止・・眉部と眉間の皮膚
作用・・帽状腱膜を皮膚とともに前方へ引く、眉を上げる
神経・・顔面神経(側頭枝)

  後頭筋occipitalis

起始・・後頭骨の最上項線
走行・・外上方へ
停止・・帽状腱膜に移行
作用・・帽状腱膜を皮膚とともに後方へ引く(退化的で弱い)
神経・・顔面神経(後頭枝)

ちなみに、顔面神経(後頭枝)は、後耳介神経posterior auricular nerve(顔面神経の枝)の枝です。

側頭頭頂筋temporoparietalis

起始・・側頭部の帽状腱膜
経過・・下(後)方へ向かい
停止・・耳介
作用・・(退化的で弱い)
神経・・顔面神経(側頭枝)

2.眼瞼裂周囲の筋

眼輪筋、皺眉筋、眉毛下制筋の3つの筋からなる。

眼輪筋(がんりんきん)orbicularis oculi

眼瞼部、眼窩部、涙嚢部の3つに分けられます。

眼瞼部の起始・・内側眼瞼靱帯と付近の骨部
眼瞼部の停止・・外側眼瞼靱帯
眼瞼部の作用・・眼裂を軽く閉じる
眼瞼部の神経・・顔面神経の側頭枝と頰骨枝

眼窩部の起始・・前頭骨の鼻部,上顎骨の前涙嚢稜,内側眼瞼靱帯
眼窩部の停止・・眼瞼部の周囲を回る筋線維,一部は外側眼瞼靱帯,眉の皮膚
眼窩部の作用・・眼裂を強く閉じる,眉を下げて額のヒダを伸ばす
眼窩部の神経・・顔面神経の側頭枝と頰骨枝

涙嚢部の起始・・涙骨の後涙嚢稜
涙嚢部の停止・・内眼角で筋線維は眼瞼部に移行
涙嚢部の作用・・眼瞼部と同時に収縮し涙嚢を開け,涙を吸い込ませる
涙嚢部の神経・・顔面神経の側頭枝と頰骨枝

皺眉筋(すうびきん)corrugator supercilii

起始・・前頭骨の鼻部(前頭上顎縫合の近く)
停止・・眉部中央から内側にかけての皮膚
作用・・眉を内下方に引き,眉間に縦のヒダを作る
神経・・顔面神経(側頭枝)

眉毛下制筋(びもうかせいきん)depressor supercilii

起始・・眼輪筋の眼窩部から分かれたもの
停止・・眉毛の内側部の下の皮膚
作用・・眉頭部を下方に引く
神経・・顔面神経(頬骨枝)

3.鼻部の筋

鼻根筋、鼻筋、鼻中隔下制筋の3つの筋からなる。

鼻根筋procerus

起始・・鼻根部,鼻背筋膜
停止・・眉間部の皮膚
作用・・眉間の皮膚を引き,眉間に横のヒダをつくる
神経・・顔面神経(頬骨枝)

鼻筋nasalis

鼻筋(横部)の起始・・上顎骨の前面で鼻翼に接する部分
鼻筋(横部)の停止・・鼻背
鼻筋(横部)の作用・・鼻孔を狭める
鼻筋(横部)の神経・・顔面神経(頬骨枝)

鼻筋(鼻翼部)の起始・・上顎犬歯の歯槽隆起
鼻筋(鼻翼部)の停止・・鼻翼の外縁および下縁
鼻筋(鼻翼部)の作用・・鼻翼を下方に引く
鼻筋(鼻翼部)の神経・・顔面神経(頬骨枝)

鼻中隔下制筋depressor septi nasi

起始・・鼻筋の一部として起こり上行し
停止・・鼻中隔
作用・・鼻中隔を下方に引く
神経・・顔面神経(頬骨枝)

4.耳介周囲の筋

前耳介筋、上耳介筋、後耳介筋の3つの筋からなる。

前耳介筋auricularis anterior

起始・・帽状腱膜(耳介の前上方)
停止・・耳介軟骨の上部
作用・・耳介を前上方に引く
神経・・顔面神経(側頭枝)

上耳介筋auricularis superior

起始・・帽状腱膜(耳介の上方)
停止・・耳介軟骨の上部
作用・・耳介を上方に引く
神経・・顔面神経(側頭枝)、後耳介神経

後耳介筋auricularis posterior

起始・・側頭骨の乳突部(耳介の後方)で胸鎖乳突筋の上方
停止・・耳介軟骨の内側面
作用・・耳介を後方に引く
神経・・顔面神経(側頭枝)、後耳介神経

5.口裂周囲の筋

口輪筋、上唇方形筋(上唇鼻翼挙筋、上唇挙筋、小頰骨筋)、大頰骨筋、笑筋、口角挙筋(犬歯筋)、口角下制筋(頤三角筋)、オトガイ横筋、下唇下制筋、オトガイ筋、頰筋からなる。

口輪筋orbicularis oris

起始・・上顎外側切歯の歯槽隆起,下顎外側切歯の歯槽隆起,鼻中隔
停止・・口唇の皮膚
作用・・縁部(内方の筋束)は軽く,唇部(外側の筋束)は強く口裂を閉じる、口を尖らせ,口笛を吹く
神経・・顔面神経(頬骨枝、下顎縁枝)

上唇鼻翼挙筋(眼角筋)levator labii superioris alaeque nasi

起始・・内眼角の近くで上顎骨の前頭突起から起こり下方へ
停止・・上唇の皮膚
作用・・鼻翼と上唇を引き上げる
神経・・顔面神経(頬骨枝)

上唇挙筋(眼窩下筋)levator labii superioris

起始・・眼窩口下縁のすぐ下で上顎体の前面
停止・・上唇の皮膚(上唇鼻翼挙筋に被われる)
作用・・鼻翼と上唇を引き上げる
神経・・顔面神経(頬骨枝)

小頰骨筋zygomaticus minor

起始・・頰骨外面から前下方へ向かい
停止・・上唇皮膚(鼻唇溝近く)
作用・・上唇を上後方へ引く
神経・・顔面神経(頬骨枝)

大頰骨筋zygomaticus major

起始・・頰骨弓中央部の外面,頰骨側頭縫合
停止・・口角,上唇,下唇に入る
作用・・口角を上外側へ引く,笑顔をつくる
神経・・顔面神経(頬骨枝)

笑筋risorius

元々は、口角下制筋から分かれたものです。

起始・・広頸筋の顔面部の上,耳下腺筋膜から内側に向かい
停止・・口角の皮膚
作用・・口角を外側へ引き,エクボをつくる
神経・・顔面神経(頬骨枝)

口角挙筋(犬歯筋)levator anguli oris

起始・・犬歯窩から外側下方へ
停止・・口角,一部は下唇
作用・・口角を上げる
神経・・顔面神経(頬骨枝)

口角下制筋(頤三角筋)depressor anguli oris

起始・・下顎骨の下縁,広頸筋から
停止・・口角に集中し,一部は口輪筋に加わる
作用・・口角および上唇を下方へ引く
神経・・顔面神経(下顎縁枝)

オトガイ横筋transversus menti

起始、停止・・両側の口角下制筋の前縁部の筋束が延長してつながったもの
作用・・口角および上唇を下方へ引く
神経・・顔面神経(下顎縁枝)

下唇下制筋depressor labii inferioris

起始・・オトガイ孔付近から内側上方へ向かい
停止・・下唇の皮膚
作用・・下唇を外側下方へ引く
神経・・顔面神経(下顎縁枝)

オトガイ筋mentalis

起始・・下顎骨内側切歯の歯槽隆起から内下方へ
停止・・オトガイ部の皮膚
作用・・オトガイ部の皮膚をあげて隆起をつくる
神経・・顔面神経(下顎縁枝)

頰筋buccinator muscle

※頰筋は、第2大臼歯に接する所で耳下腺管に貫かれる

起始・・上顎骨の歯槽隆起の外側面,下顎骨の頰筋稜,翼突下顎縫線から前方へ向かい
停止・・口角(口輪筋に移行する)
作用・・口角を外側に引き,口裂を閉じる(ラッパを吹く)
神経・・顔面神経(頬骨枝)

B.咀嚼筋
muscles of mastication

咀嚼する際に下顎の運動をつかさどる筋群で,頭蓋から起こって下顎骨に付く.深部にあり深頭筋ともいわれる.全て三叉神経の第3枝(下顎神経)に支配される.

咀嚼筋は、咬筋、側頭筋、外側翼突筋、内側翼突筋からなります。

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咬筋masseter

咬筋(浅部)の起始・・頰骨弓の前部と中部から後下方へ
咬筋(浅部)の停止・・咬筋粗面※の下部
咬筋(浅部)の作用・・下顎を挙上する
咬筋(浅部)の神経・・下顎神経

咬筋(深部)の起始・・頰骨弓の前部と後部,その内面からほとんど垂直に下る
咬筋(深部)の停止・・咬筋粗面※の上部
咬筋(深部)の作用・・下顎を挙上する
咬筋(深部)の神経・・下顎神経

  ※咬筋粗面masseteric tuberosityとは、咬筋が付着する粗面で下顎枝および下顎角の外面にある.

側頭筋temporalis

起始・・側頭骨の側頭面全体,側頭筋膜の内面
停止・・下顎骨の筋突起,下顎枝
作用・・下顎を挙上し,後方へ引く
神経・・下顎神経

外側翼突筋pterygoideus lateralis

(上頭)の起始・・蝶形骨の側頭窩稜,蝶形骨大翼の側頭下面
(上頭)の停止・・下顎骨の関節突起,関節包,関節円板
(上頭)の作用・・下顎を前に引く(両側)、口を開く(両側)、下顎を反対側へ引く(片側)
(上頭)の神経・・下顎神経

(下頭)の起始・・翼状突起の外側板の外面,上顎結節
(下頭)の停止・・下顎骨の関節突起,関節包,関節円板
(下頭)の作用・・下顎を前に引く(両側)、口を開く(両側)、下顎を反対側へ引く(片側)
(下頭)の神経・・下顎神経

内側翼突筋pterygoideus medialis

起始・・蝶形骨の翼状突起後面の翼突窩から後下方へ
停止・・下顎骨内面の翼突筋粗面
作用・・下顎を挙上し,反対側へ引く
神経・・下顎神経

下顎骨に対する咀嚼筋および舌骨上筋群の作用(Neumann, Donald A.による)

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口を閉じる(下顎骨の挙上)
・・咬筋(★★★)
・・内側翼突筋(★★★)
・・側頭筋(★★★)

口を開く(下顎骨の下制)
・・外側翼突筋(下頭)(★★★)
・・舌骨上筋群(★★★)

下顎骨の側方運動
・・咬筋の同側が作用(★)
・・内側翼突筋の対側が作用(★★★)
・・外側翼突筋(上頭)の対側が作用(★★★)
・・外側翼突筋(下頭)の対側が作用(★★★)
・・側頭筋の同側が作用(★)

下顎骨の前方突出
・・咬筋(★)
・・内側翼突筋(★)
・・外側翼突筋(上頭)が作用(★★★)
・・外側翼突筋(下頭)が作用(★★★)

下顎骨の後退
・・側頭筋(後部線維)(★★★)
・・舌骨上筋群(★)オトガイ舌骨筋,顎舌骨筋,顎二腹筋(前腹)のみの直接作用

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