電子マネーの政治性とベーシックインカムの政治性に目覚める

「銀行の破綻がさらに深まれば預金封鎖の事態もあり得ます。これは1930年代の大恐慌の際に銀行を守るためにとられた政策です。しかし今日の権力エリートは、もっとひどいことを考えています。それは、通貨を全て電子マネーにして現金を廃止すると言うものです。リーマンショック以降、世界のメガバンクは事実上全て破産しています。破産の実情を通貨の大増刷、いわゆる量的緩和で取り繕っているのですが、そういう中でメガバンクが死ぬほど恐れているのは取り付け騒ぎの発生です。現代社会で流通している通貨の90%以上は銀行信用で、我々が商店のレジなどで使う現金は流通の数%を占めるに過ぎません。それでも庶民が取り付け騒ぎで一斉に預金を下ろしたら銀行のグローバルな信用構造は一瞬にして吹き飛んでしまう。しがない庶民は実はすごい力を持っているのです」

「銀行は手持ち預金の8倍から10倍の金を貸し出している脆弱な虚構の存在だからです。しかも今の銀行はいわゆる金融派生商品にも手を出しているのでマネーベースの100倍も貸し出していることがある。しかし現金を廃止してしまえば、銀行の経営がどれだけほど危うくなっても、もう取り付け騒ぎが起きる心配は無い。だがメリットはそれだけではない。銀行は高利貸しではありません。マネーフローを作り出しコントロールしている私企業です。だから電子マネーだけをマネーにすれば、そのマネーフローを完璧にコントロールできるようになる。政府と中央銀行は、商取引、納税、家計の収支などすべてのマネーフローに関する情報を細部にわたって入手し、コントロールできる。そこで例えば不況に対処するために銀行預金の利子をマイナスにし、預金すると損をするようにする。そうなると庶民は預金がさらに目減りする前にクレジットカードで急いで商品を買うしかない。所得の分配と言う問題を無視したまま庶民に消費を強制できる。庶民には現金でタンス預金と言う防衛策はもうありませんから。こうして経済システムの欠陥や矛盾は放置されたまま、銀行は安泰になり、政府には重箱の隅をつつくような課税徴税が可能になるわけです」

「こんなひどい計画が出てくると、現金、個人がいつでも自由に使えるキャッシュがいかに人間の自由を保障しているかが逆にわかってきます。ですから、すべての国民に一定の現金収入を生涯にわたり保障するベーシックインカムの目的は、自由の保障であり、福祉の充実などではないのです。そしてこれによって毎日の経済生活が選挙での投票に等しい意味を持つ経済的デモクラシーが実現するのです」

政府、その背後の金融資本が推し進めようとしているキャシュレスの政治性がよくわかるし、ベーシックインカムの政治性が、自由の保障とデモクラシーの実現であることがよくわかる。まさにぼくたちの暮らし、生活はすべて政治的であることを痛感する。これが政治に目覚めるということかな。なんだかわくわくどきどきするね。

関曠野『なぜヨーロッパで資本主義が生まれたのか』

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