世界経済危機の根本原因

「現在の世界的な経済機危機の根本原因はかつての30年代大恐慌と同じく負債デフレなのだが、この認識が世に広まると銀行業を成立させている負債経済のことを世論は問題にし始めることだろう。だから中央銀行は問題を流動性の危機、キャッシュ・フローの縮小や滞留にすり替え、コンピュータのキーボードで厖大なマネーを無から創造して、それを殆ど無利子で銀行業界に輸血する。その結果、恐慌がさらに深刻化しているのに、飛び抜けた資金や資産を所有するスーパーリッチだけはさらにリッチになる」

「公金による銀行の救済は一般国民から富裕層への富の移動、厖大な不良債権を銀行の帳簿から国家の会計に移すことであり、それによる国家財政の急速な悪化が主権国債務の発生する大きな原因になった」

「銀行は何も生産せず労働の対価なきマネーの無からの創造によって、すなわち通貨発行権の独占によってのみ巨大な利益を得ている。今我々が目にしているのは金融資本という寄生虫が宿主である実体経済を食い殺しているさまであり、ギリシャの窮状はその縮図に過ぎない」

「自由民主主義の実態は、銀行という影の政府による独裁である。そして権力の極端な集中とその権力によるエリートによる恣意的な行使という点でも、一党独裁と自由民主主義の間に大した違いはない。それではなぜポスト冷戦の世界で独裁に対する自由の勝利というデマがまかり通り、銀行という影の政府による支配が問題にされなかったのだろうか」

「おそらくその一因は、国家の本質を暴力の独占に基づく法治に求める旧弊な国家観にある。現代の国家にとってより重要な事柄は通貨秩序の創出と形成である。国家を基本的に統合しその権力の行使を効果的なものにするのは通貨秩序である。それに比べれば暴力の独占と法の制裁は二義的なものに過ぎない」

「政治家には銀行が支配する通貨秩序以外の秩序を考えられないのである。だから国家は企業ではないのになぜ銀行に利子を払うのかという、単純だが根本的な問いを発する者がいない」

「というのも自由民主主義の国家体制と銀行経済の間には、単なる癒着や共犯の関係を超えた論理的構造的同一性があるからである。この視角からすると自由民主主義の本当の名は金権寡頭制である。議会制と政党政治の課題はこの金権寡頭制の保全であり、それにはこの真実を煙幕で見えにくくすることも含まれる。政治家が金融資本による自国の占領や国民の債務奴隷化を容認するのも、納税者の公金を投入して恐慌を惹き起こした元凶であるメガバンクを救済するのも、銀行に慈善を施しているのではなく、自分たちに地位と名誉と与えてくれる金権寡頭制を守るためなのである」

「自由主義から大衆民主主義への政治体制の変質に伴い国家財政の領域でも金融の組織的介入が始まっていた。大衆民主主義の下では国家は銀行に対する利子付き負債という罠に陥るがゆえに、すべての議会制民主主義国家は税収の減少と膨れ上がる財政赤字に苦しみいずれ財政的に破産することを予測できただろう」

「こうして近代租税国家は、租税と国債は金融資本が人民から富を収奪する手段に過ぎなくなるその終着点に到達した。銀行マネーが国家財政と企業経済を支配してることが問題の根本にあるのだから、デモやストや暴動、いわんや選挙による政権交代によっては危機を打開することはできない。何よりも必要なのは通貨政策である。通貨政策だけがこの出口の見えない危機を打開し債務奴隷制を一掃することができる。通貨はいわば市場経済のインフラなのだから、通貨の管理権が商品化されて私企業に委ねられることはあってはならないのである」

関曠野「経済のデモクラシーへ」(『フクシマ以後』所収)


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