公共貨幣、信用の社会化は議会制国家とは別の新たな政治共同体を必要とする
「社会信用論は議会主義や政党政治とは本質的に馴染まないのである。議会主義と政党政治は近代租税国家と一体になっていて、この国家に政治的正当性を与えている制度だからである。議会制国家は会計として国家財政を前提としており、それゆえに予算の審議および税の徴収と配分をめぐる政争が政党の存在理由になる。もしも会計としての国家財政が信用の社会的管理に置きかえられたら、政党はすることがなくなってしまうだろう」
「政府通貨といえば大恐慌当時、日本とドイツが事実上の政府通貨を発行して英米などを尻目にいち早く恐慌を克服した先例がある。日本では高橋是清蔵相が国債の日銀引き受けの形で事実上の政府通貨を発行して、デフレを速やかに終わらせた。ドイツでは国立銀行総裁のヒャルマール・シャハトが労働財務証書という形で政府通貨を発行し、それによってワイマール時代のハイパーインフレで疲弊しきったドイツを三年間でヨーロッパ最強の経済に立て直してしまった」
「社会信用論が議会制国家と馴染まない根本理由は、先述したように近代租税国家は銀行マネーと一体の制度だからである。それゆえに議会制や政党政治の枠内で通貨改革やBIが実現する可能性はゼロと見ていい。そして問題はこの租税=議会国会にとって代わり、社会信用論をプログラムとして実現することが可能になる政治共同体とはどんなものなのか私を含めて誰にも見当がつかないことである」
「この銀行と国家の機器は文明の終末に行き着くのかもしれない。銀行と国家の二重の危機に直面した人々は、新しい通貨の秩序を生みだすような社会契約を模索するだろう。そして銀行マネーにとって代わるこの秩序は信用の社会化とBIという社会信用論の要素を必然的に含んでいるだろう。社会信用論に対応する政治体制という問いが人々の模索と実験に委ねられて解決されることこそが、真のデモクラシーの発現である」
関曠野「ベーシック・インカムをめぐる本当に困難なこと」(『フクシマ以後所収』
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