神の島久高島で怒られた

久高島に2泊3日で行った。

今年2回目の久高島。前日までの天気予報は 雨と風マークで久高島に渡れるのかなと思っていたが、晴れ間も出て午前中の船に乗れた。

一年前に久高島で出会ったかおるさんと港から坂を上りきったところにある食堂「けい」で再会。
文化人類学者で離島経済学を教えているという人とも知り合い、エコビレッジの話などもする。

「薬師庵」の西銘潔さんは 建築の方の仕事で大阪に出張で今回は会えなかったが、けいこさんにブーブーの治療もしてもらった。右の腰からいっぱい毒素が出た。

さてその毒素と関係していたかもしれないことが起こった。

「たまき」で自転車を借りて、民宿の一階和室に荷物を下ろし、 縁側からサンダルを引っ掛けて水着姿で早速、伊敷浜に向かい、いつものようにだれもいない海で泳ぎ、浜に戻ってきたら、
「あんた日本人?」ときつい感じの言葉を白髪を後ろで縛ったおばあに投げかけられた。
「はい」と答えると、「ここで泳いではいけない」という言葉が飛んできた。
いままで何度も伊敷浜で泳いできたが、一度もそんなことは言われたことがないと答えると、ここは神聖な祈りの場所で泳いではいけないし、裸も許されないと、水着姿のぼくに向かって目を三角にしながら言った。
そのおばあは、女性三人を案内していたのだが、ぼくは彼女が真栄田苗(なえ)という人であることに気づいた。
実は、神の島と言われている久高島を7、8年前に初めて訪れた時、彼女をノロとして紹介され、彼女に島を案内してもらったのだった。ノロとは神とつながっている女性のことだが、その後、彼女はノロではないということを知り、それからは久高島を訪れる時は、彼女に会ったり、連絡をとったりすることはなかった。
それがこんな形で再会となったわけだ。もちろん、そんなことを彼女は知る由も無いだろう。
「他の人にも確認してみます」とぼくが答えると、他の人とはだれだと目に怒りの色を浮かべて聞くので、「他の島の人たちに聞きます」というと、「では、パトロールのものがそう言っていたと言いなさい」という言葉が返ってきた。

夕方まで伊敷浜でいたのだが、気持ちは沈んでいた。久高島の海でひとりでただただ泳ぎ、潜り、浮かぶことが好きでずっと久高島に通っていたのに、もし本当に泳いではいけない禁忌の海になっているとしたら、それは自分が思っている久高島ではないし、もう二度と戻って来る気も起こらないような気がした。

そんな暗澹たる気持でとぼとぼと帰っている途中で島の人に会った。
がまんできずに「伊敷浜で泳いでいたら怒られました。伊敷浜では泳いではいけないのですか」と聞いたら、「そんなことはないよ」という答えが返ってきてぼくは躍り上った。「ですよね、泳いじゃダメなんてことないですよね」と思わず喜びの声が出で、彼に抱きついていた。

「当たり前だよ、海なんだから。だれがそんなこと言ったんだ」と聞かれたので「多分、真栄田苗さんだと思います」と答えると、島の人はそうかという顔をした。

「困ったもんだ、彼女には。勝手なことばっかり言って島のみんなは困っている。ノロでもないのにノロと名乗り、島に来る人を案内しては高い金を請求したり、車に乗せて金を後から請求したり、旅行者を叱ったり、随分苦情も出てるんだ。口は達者だから、おとなしい島の人間は黙ってしまう」
その人は教えてくれた。

翌日から、何人もの島の人に、怒られたんだってと声をかけられた。みんな彼女には困っているようだった。
翌日も、その翌日も、伊敷浜に行って泳いだ。
彼女と会ったら、海で泳いでいいと神様が言っていますと彼女に言おうと思ったが、会わなかった。

その後出会った旅行者の中に、彼女をノロだと信じて、彼女に会いに来たり、案内してもらったりした人が少なからずいたので、彼女はノロではないという事実を伝えた。

禁止することが、いかに人の意識に影響を与えるマインドコントロールの手段となるのか、今回、よくわかった気がした。
禁止することで、人の意識に罪悪感が生まれる。人の罪悪感に働きかけることで、人をコントロールする権威と権力が生まれる。

だから宗教はいろいろなことを禁止する。
だから道徳や法律はいろいろなことを禁止する。

そして彼らは権威と権力を手にいれる。

しかし私たちは自由なのだ。そのことを忘れないでいよう(笑)。

追記 この文章を書いたのが、2016年10月。今はもう伊敷浜は神聖な場所なので泳がないでくださいということに正式になっているみたいで、久高島に渡る際に手渡されるパンフレットにもそう書かれている。正義をかざして禁止事項やルールを作る人は強いなあと思う。
と同時に、今年のGWには人口120人の島に1000人の旅行客が渡ってきたというから、この何もない空間の神聖さを保つために仕方がないなあという気にもなっている。

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