議会制国家は法秩序ではなく銀行が管理している通貨秩序に従属している

「19世紀以降の大衆民主主義、マスデモクラシーは、能動的な市民と言うリベラルエリートの虚構を解体させ、人々を受動的で制度によって調教された大衆、マスに変えるものでした。この人々のマスの調教には、普通選挙権と義務教育、マスコミが決定的な役割を果たしました。この政治の大衆化はあたかも民主化であるかのように見せかけられましたが、実際にはこれはエリートが人々を工業化に動員するための戦略でした」


「18世紀の英国に生まれた議会制国家の課題は、産業革命を平和裏に効率よく推進することでした。この国家は経済成長を前提にして設計されているのです。だからこの国家は成長の限界と言う問題に対処できないし、成長が限界にぶつかると議会の政党政治は空回りして茶番劇になってしまいます。工業化は社会構造を流動化させ、新規に生産された富の分配をめぐる階級階層間の紛争を激化させます。議会の政党政治の課題は、この紛争を平和裡に取引によって解決することにありました。有力な利権集団間の取引によってこの紛争を解決する、それが議会主義でした。政党の存在理由は有力な利権集団を代表することです。これが代議制です。利権集団に組織されていない市井の人々は、基本的に国政から締め出されています」


「今世界はどこでも議会主義が危機的な状況状態にありますが、これも経済が成長の限界にぶつかったせいです。経済が低成長になると利権取引の材料がなくなる。だから右翼左翼と言う政党の色分けも無意味になる。ヨーロッパではマスコミが極右のレッテルを貼る政党が台頭しています。これらの政党は右翼などではなく、利権集団に属していないために切り捨てられている底辺庶民その不満を代弁しています。順調な経済成長と言う議会政治の大前提が消滅すると、政党政治はゼロサムゲームの泥仕合に堕してしまう。これなら庶民の不満を代弁しているいわゆる極右の方がマシです」


「現代国家は未だにプラトンの国家論をひきづっています。国家は知的エリートである官僚や政治家が理性によって統治すべきであり、国民は市場経済の中でアップアップしているだけ。今でもこういう考え方のわけです。旧ソ連の場合は、歴史の真理を把握した共産党エリートの独裁と言う形で政治的プラトニズムがはっきりしていました。しかしこれは自由民主主義も同じで、国家エリートが官僚や政治家として統治している事は変わりありません。しかし私が以前から言ってるように、近代の租税国家は、銀行経済の補完システムに過ぎません。国家法的理念と経済物質的利害を切り離すと租税国家の本質を理解できなくなります。そこから立派な人物が為政者になりさえすれば国家が抱える問題は一気に解決すると言う個人崇拝、英雄待望の迷信が生まれてくる。経済の危機は官僚と学者が知恵を絞って行き過ぎた市場に対する法的系規制を強化すれば解決すると言う迷信も蔓延します」


「議会制国家は間違った国家観の上に成立しています。現代人の国家観は根本的に間違っています。国家は根本において法秩序だと思われている。そして法の枠内で統治が行われるのが近代国家だと思われています。だが近代国家はその根本において通貨の秩序なのです。法秩序はそれを補完する二次的な秩序に過ぎません」


「古代から国家の最大の課題は富の生産と分配でしたから、これはむしろ当然なことです。近代国家は、国民の納税によって成立している租税国家です。だから議会政治も国税収入に基づく予算の編成と決算の報告で回っています。この租税国家も通貨秩序の1部をなしています。もっとはっきり言えば、議会制租税国家は、銀行が管理している通貨秩序に従属しており、それを補完しています。これは、政権党の看板が右か左かに関係ありません。近代世界においては国民ではなく銀行が国の実質的主権者であり、租税国家はその下僕なのです。日本でも建前は財務省が日銀を監督することになっていますが、実際は、財務省は日銀の下働きで、その日銀はIMFが代弁しているような金融資本の国際カルテルの指令で動いています。この銀行経済に対する租税国家の従属は、1980年代以降、経済の金融化の進行とともに露骨に表面化し、今や各国の中央銀行と財務官庁は国際金融カルテルの植民地における出先機関みたいなものです。これがグローバリゼーションの本当の意味なのです」


「各国政府はなぜ大不況なのに緊縮財政や増税と言う一見辻褄が合わない政策を取るのでしょうか。これは国家が銀行管理の状態になっているからです。1980年代以降、実体経済が低成長なので、内外の国債が銀行の主要資産になっています。銀行は納税者の債務奴隷化で生き延びています。だが国税収入が、すべて銀行が保有する国債の利払いに消えるようなことになったら国家は消滅してしまう。これでは元も子もない。だから経済が不況であろうが、緊縮財政と増税で借金漬けの国家を形だけでも維持する費用を納税者に負担させると言うことです」

この観点からすると、世界の動き、日本の動き、一見バラバラで不条理に見える動きがとてもよく理解できる。陰謀論というよりももっと明快である意味で合理的な政治経済のメカニズムとして理解できる。すごい世界であるのだけれど、無知であるより真実を知ることは、変な話だけど、ワクワクする。原因がわかれば解決策も見えてくるから。

関曠野『なぜヨーロッパで資本主義が生まれたのか』

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