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【プレイ感想】Sea of Stars

人生で初めて触ったゲームは『星のカービィ スーパーデラックス』だったように思う。その後も幼少の頃はドット絵のゲームばかり遊んでいた。ドット絵というものは、自分の昔のゲーム体験として心に根付いている。

ただJRPGというジャンルには珍しく触れてこなかった。それこそ『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』あたりからまともにやったのかも。学生時代は特に対戦ゲームやパーティーゲームが主流だったし。

そうした理由も相まって、ドット絵で描かれたRPGには懐かしさと新鮮さが同居する不思議な撞着が生まれた。奇妙な体験は『Sea of Stars』のプレイにきっと影響を与えたし、もっというなら、RPGを段々触れるようになってきたからこそ本作に巡りあえたのかも。

当然事情を抱えているのは自分だけではなく、個人のゲーム体験にはいろいろな文脈があるだろうから、それぞれのプレイヤーにも、それぞれの出会い方、ゲームジャンルへの向きあい方というのがあるのかもしれない。
自分語り終わり。ここから自分語り。

令和に生まれた正統派JRPG

「月のゆりかご」に生み落とされた至点の子の物語。二人は太陽と月の力を使い、邪悪な錬金術師「フレッシュマンサー」に立ち向かう冒険に出ることとなる……という物語。使命が明確に提示され、倒すべき悪者もすでに存在を明示されている。かなりわかりやすく、勧善懲悪の王道ストーリー。

主人公である冬至の子ヴァレア。夏至の子ゼイル。そして親友のガール。重い運命を背負っているにもかかわらず、三人の会話は軽妙だ。テンポよく進んでいくストーリーラインにはあっという間に引き込まれてしまうだろう。
翻訳の質も良く、生き生きと言葉が紡がれていく。ただ、全部日本語にしようとしているからなのか、かなり頑張ったな、と感じる翻訳もある。特に固有名詞はたまに日本語表現に癖があるかもしれない。(生マナ←「Live mana」とか。まぁこれ以外に適当な表現も思い浮かばないが……)

戦闘はコマンド式+追加アクションのかたち。ときおり敵が強力な攻撃を放つのだが、このとき弱点属性が表示され、攻撃ターンまでにこれを削りきると未然に防ぐことができる。『オクトパストラベラー』のブレイクがわかりやすい例だろう。

そしてスキルや通常攻撃を打つ際には、追加でアクションすることができる。タイミングよくボタンを押すと攻撃回数が増えたり、効果が敵全体に波及したりする。アクションコマンド的なシステムは失敗しても致命的にはならないものの、流れ作業になりがちな戦闘に適度な緊張感と達成感を提供してくれている。

おいしそう。

そして画像からもすぐに理解できるように、本作は緻密なドット絵が特徴。びっくりするくらいにアニメーションが凝っていて、めちゃくちゃ気持ちがいい。どの作品でも言っているのだが、狂気的な出来のドット絵はどんな精細なポリゴンよりも鮮明に世界を描いてくれる。興奮すら覚える、素晴らしいグラフィックだ。

チップチューンのBGMも、表情豊かに冒険を彩ってくれている。同じ曲でも昼夜でアレンジが変わり、雰囲気を損なわない。戦闘曲も飽きのこない、懐かしいながらも古さを感じさせないメロディー。

作中では『クロノトリガー』や『スーパーマリオRPG』の影響を感じる場面もあるだろう。本作はストーリー、システム、グラフィック、BGMなど、複数の要素でJRPGのいいとこどりを高水準で達成しつつ、冒険と友情をテーマとした、まさに令和に降り立った往年の名作RPGと言える。

懐かしさとは何か

ところで、このご時世にあえてドット絵を用いたRPGを作るのだろうか。それには技術的な理由や、コスト的な理由も存在するはずだ。とはいえ、やはりJRPGをドット絵で作ることには、ある一つの思想が存在している、と考えている。

それはノスタルジアとしてのJRPGを表現する手法としてのドット絵だ。
古典的なJRPGは剣と魔法の世界を舞台に展開されることが多かった。エンカウントで発生するターンベース性の戦闘、若い主人公が繰り広げる、一本道ながら重厚なストーリー。

これらの要素を包括するだけでもJRPGの要件は十分に満たしているが、これを回顧し「古典的JRPG」のラベリングをあえて現代に持ちだす、という意味でドット絵は重要な役割を果たしているのではないかと思う。

ところで、大仰な言い方でいう「現代に甦ったJRPG」のタイトルを挙げるとすれば、『オクトパストラベラー』あたりがその代表となるだろう。HD-2Dによる演出を遺憾なく発揮した当作は、RPGの雄であるスクエニの底力を見せつけるに十分な作品だったように感じる。
『オクトパストラベラー』の演出は人形劇のような視界で展開される。歴史を伴い、あえて古さを演出することで過去の名作を想起させる。つまり「懐かしいあの頃の記憶を元に構成された劇」を、ドットと3DCGの融合によって表現しているといえるのではなかろうか。

しかし『Sea of Stars』はそれとは異なり、純粋に「古典的JRPG」のフォーマットをなぞっている。劇のような演出も無ければ、基本的にはすべてドットで構成されているため、CGとの併合で質感を強化しているわけでもない。
本作は体験そのものにノスタルジーが宿っている。ワールドマップに出れば小さくなるキャラクター。どことなく耳に懐かしいBGMにSE。ターンベースの戦闘。ありとあらゆるゲーム体験によって古典を想起させているのだ。

とはいえ、単に古典を蘇らせたわけではない。豊富なミニゲームやグリッドに囚われない探索。そしてドット絵のアニメーションによる、滑らかなアクション。新たな風を与えつつ、丁重にパッケージングされたJRPGのルネサンスが、『Sea of Stars』として結実したのだろう。

……という身勝手考察。こういうのはなんぼやっても問題ないのでね。

長いので要約

ドット絵のJRPGは回顧/懐古の趣をはらんでいる。とはいえ3Dなどを併用して古さをあえて演出する方法をとるのではなく、あくまでルネサンスとして古典的JRPGを復活させ、現代でも十分に通用しうるゲームにしたのが『Sea of Stars』なのだろう。

でも『オクトパストラベラー』も『Sea of Stars』もどっちもいいゲームです。懐かしさの演出の方法が違うというだけ。

閑話休題

確かに過去のJRPG体験、ドット絵の体験によって、本作のプレイに個人的な文脈が載ることは否めない。ただ、それを差し引いても良くできたRPGだと思う。むしろ、今までドット絵に触れてこなかった人にこそ遊んでもらって、ピクセルアートならではの魅力に気付いてほしい。

まぁ、エンカウントしてしまうと逃げられないのは最終盤でちょっと面倒に感じなかったわけではないが……秘宝による難易度調整など、システムも行き届いているといえる。

面白く快適で、記憶に残る。冒険と友情、そして剣と魔法のファンタジーによって彩られた素晴らしいRPGだった。

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