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#小説 「アライグマくんのため息」

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ひょんなことから「でかい手」を持つOLに引き取られることになった、ぬいぐるみ「アライグマくん」の日常を描いた小説。ちょっぴり意地悪な「アライグマくん」が、人間と暮らすことで少しず…
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#アライグマ

【小説】アライグマくんのため息 第1話 でかい手④

ぬいぐるみの言葉がわかる「ぬいぐるん」である人間ではなくても、ぬいぐるみが声をかけると、不思議と人間は、何かを感じ取るらしい。声をかけると、必ず人間はこちらに気づく。優しい言葉をかけると、不思議と優しそうな顔になったり、うれしそうな表情をするのだ。 だが、オレ様が優しい言葉をかけてやったにもかかわらず、リカはムスッとした表情で、ちらりとオレ様を一瞥したかと思うと、プイッと顔を背けた。 そこでオレは、少しは何懸けた声で、 「へィ、ベィビィ~。今日はご機嫌ななめかい?」

【小説】アライグマくんのため息 第1話 でかい手③

リカがいつも以上に背中を丸め、うなだれて帰ってきたその日、その日はなんでも1週間後に会社でパーティーがあるとかで、そのための服を買いに、リカは朝から張りきって、街へと出かけた。 オレは久々に一人(もとい、一匹)に慣れて、上機嫌だった。別に、リカに不満があるわけではなかった。なにしろリカは、毎晩オレを温かい布団に入れて、オレの頭をなでてくれたからだ。まるで、楊貴妃並みの待遇だ。 ぬいぐるみの世界では、飼い主=主人に寵愛を受けることは、至上の喜びであり、名誉なこととされている

【小説】アライグマくんのため息 第1話 でかい手②

「消費税込みで3,700円です。」 と、バイトの「あほの酒井」が言った瞬間、オレは奴に向かって、すかさず唾を吐いた。運よくそれは、奴の口の中に命中した。「あほの酒井」は、まったく気づかず、「ありがとうございました!」と、にっこり笑ってお辞儀した。 オレは、奴に復讐果たせた喜びで、思わず包装紙の中で、ガッツポーズをとってしまった。「あほの酒井」は、自分の身に起きたことなどつゆとも知らず、ニコニコしながら、オレ様と「でかい手」を持つオンナを見送っていた。 ぬいぐるみのつばは