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#小説 「アライグマくんのため息」

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ひょんなことから「でかい手」を持つOLに引き取られることになった、ぬいぐるみ「アライグマくん」の日常を描いた小説。ちょっぴり意地悪な「アライグマくん」が、人間と暮らすことで少しず…
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2022年1月の記事一覧

【小説】アライグマくんのため息 第6話 不気味な「小包み」

リカの家に来てから、三度目の冬が来たある日。リカは小口の野郎と二回目のクリスマスをどう過ごそうかと、ミーハー雑誌とにらめっこしていた。その晩、いつものように、小口の野郎から、電話がかかってきた。 「あ、もしもし、あたし、うん・・・(中略)え?なっ、何?えっ?プレゼントって?えー!びっくりするもの?えーなんだろう・・・?」 妙にうれしそうである。へらへらしていて気持ち悪い。なんとなく憎らしいと思うのは、なんでだろう。どうして人間っていう野郎は、こう、恋人同士というものの会話

【小説】アライグマくんのため息 第5話 謎の男「小口君」③

「ごめんね~、小口くん♡販売機がすっごい混んでいて、なかなか買えなかったの。ごめんね。」 リカがバタバタと音を立てながら走って戻ってきた。 「ああ、いいよ。そんな気にしなくて。」 と、小口の野郎は、何事もなかったかのように、平然とリカの弁当を食べ始めた。俺は、これがあの伝説の「ぬいぐるにん」だろうかとなんだか信じられず、ぽかんと小口の野郎を眺めていた。すると、小口の野郎が、 「そんなに食いたいのか?」 と、弁当のおかずをオレにあげるふりをした。 「やだぁ、小口くん

【小説】アライグマくんのため息 第5話 謎の男「小口君」②

目的地に着くまで、オレは、リカのお手製のお弁当とともにリュックサックの中で、ゴロゴロと転げまわる羽目になった。一体奴らはどこを走っているのだろう?車がやけに揺れるのだ。そのたびに、リカのリュックサックが上下左右に揺れるもんだから、たまったもんじゃない。くそぅ。こんなことなら、家でのんびりくつろいでいればよかった。 そんなことを思いながらも、退屈しのぎに俺は、「小口くん」とリカの会話を盗み聞きしようと試みた。が、聞こえてくるのはリカの、いつもより少し高いトーンで話す声ばかり。

【小説】アライグマくんのため息 第5話 謎の男「小口君」①

これ以上晴れようもないだろうといえるほど、えらくお天気の良い春の日。「リカ」は、初めての恋人となった、「小口くん」とドライブに出かけることになった。 「あー、もうどうしよう。えーっと、どれ着ていこうかな。ねぇ、まみちゃん、これにあっているかなぁ?」と、リカは、部屋中に洋服という洋服をあちこちにおいて、鏡の前でとっかえひっかえ着替えてはうなっていた。 「知らないわよ。だから前の日に考えておきなさいって、あれほど言ったのに。いいんじゃない、このワンピで。かわいいし、汚れても目

【小説】アライグマくんのため息 第4話 「バレンタインデー」④

「ただいまー。ふぅ・・・。」 (お、リカが帰って来た!!!) ぬいぐるみのオレ様の主人=リカ。帰って来た早々ため息をつく。 (うーん、これは何かあったに違いない…。オレを今朝いじめた罰だ、ざまぁみろ、へへ) オレは、今朝のリカの仕打ちを思い出してほくそ笑んだ。 「リカちゃん。デート、どうだった?楽しかった?」 リカの姉、「ちび」は、好奇心いっぱいのキラキラした目でリカの顔を覗き込んだ。 「それがね・・・最悪だったのよ。あのね・・・」 リカは、ダムでせき止められ

【小説】アライグマくんのため息 第4話 「バレンタインデー」⑤

自分が背が高いことにコンプレックスを持ち、短所だと決めつけてたリカ。そんなリカの身長のことを、「長所」で「魅力的」だと褒めた男がいた。リカの友人の軽上(きんじょう)だ。 軽上は、リカとは中学校以来の友人で、リカのよき理解者であった。正確に言うとリカの初恋の相手であった。よせばいいのにリカはそいつのことを6年以上も思い続け、最近振られたばかりである。 オレは軽上とは一度もあったことはないが、話によれば、身長はリカよりも相当低かったらしい…。普通の男の子はリカが横に並ぶと自分

【小説】アライグマくんのため息 第4話 「バレンタインデー」③

デートをOKしてからというもの、その「デートの日」までの数日間、リカはまさに「夢見る夢子ちゃん」そのものであった。毎晩、毎晩、リカはオレに向かって、「むっつり君」と、今までどんな話をしたのか、どういう風にして「むっつり君」がリカに対して接してきたか等々、数少なーいエピソードを、繰り返し繰り返し、布団に入ってオレの頭をなでながら、オレに語り掛けるのだった。 「ねぇ、アライグマくん、どうしよう、どうしよう。どう思う?」 (むぎゅっ)と言っては、オレを抱きしめるのだった。 (

【小説】アライグマくんのため息 第4話 「バレンタインデー」②

実はこの夜、リカは会社の同期の何人かと飲みに出かけたのだが、その帰り、ちょっとした出来事があったのだ。 「ちょっとしたこと」とは、1人の男性にデートに誘われたことだった。22年にして友人以外の男性から、デートに誘われるなんてことは、初めてのことだったらしい。リカは、すっかり自分の世界に入って、うっとりしながらその出来事を「ちび」にとうとうと話すのだった。 一通り話した後も、しばらくの間、 「困っちゃったなぁ~。どうしよう、まみちゃん。あたし、その人のこと良くまだ知らない

【小説】アライグマくんのため息 第4話 「バレンタインデー」①

リカの家に来てから、はや1年が過ぎた、ある寒い冬の晩、いつもよりもずいぶんと勢いよく、リカが帰って来た。 「ただいまー。アイスクリーム、買ってきたよ~♪」 どかどかと台所へと歩いて行った。 「わーい♥ねぇ、ハーゲンダッツ?あたし、あれがいいなー。そうじゃなかったら、いらないや。あっ!ハーゲンダッツだ!やったぁー♪サンキュー。」 「ちび」は、リカがまだアイスクリームを開けてもいないのに、さっさと食べ始めた。ゲンキンなヤツだ。 それにしても、「ちび」は単純なヤツである。

【小説】アライグマくんのため息 第3話 「めんたいこの夜」⑤

「そうね、お芝居は4時半開演だし、タクシーで行けば、十分間に合うし。エクセレント・ホテルのバイキングは別に明日じゃなくっても、いつでも行けるんだし…。まぁ、いいわ。」 とか何とか言いつつ、ちょっと寂しそうな、「えいこ」ちゃんこと、ママりん。。。 「あーあー。ママかわいそう。パパってサイテー!!!」 と、「ちび」の批判に耐えかねてか、やっぱりちょっと罪悪感があるのか、パパりん、何を思ったか、「うさぎのダンス」を鼻歌し始めた。「聞こえないわ」作戦だ。 とにかくこうしてママ

【小説】アライグマくんのため息 第3話 「めんたいこの夜」④

オレの心配をよそに、リカの反応はいたってシンプルだった。 「あっ、そうか・・・。今日、布団たたむ時、思いっきりけ飛ばしちゃったまま、出かけちゃったんだ。なぁんだ。びっくりしたー。へへ。」 といって、どこかへ行ってしまった。そういえばそうだ。言われてみれば、今朝からずっとお尻が痛い。どうせなら、少しばかり、脅かしてやればよかった。 まぁ、こうして、リカの鈍感な気質のおかげで、オレとこけし達は、「だるまさんがころんだ」を満喫することができた。それから数時間後、オレは、リカが

【小説】アライグマくんのため息 第3話 「めんたいこの夜」③

福岡に来て7日が過ぎたころ、オレと「スーちゃん」は、一緒に「だるまさんがころんだ」をするほど、すっかり仲良しになっていた。もちろん、オレは「こけし・いじり」をしなくなっていた。 ところで、この「だるまさんがころんだ」は、人間のガキ共がやるようなつまらないものとは全然違う。スリル満点なのである。というのは、鬼が人間。すなわち、人間がいない間に思い切り動いておき、人間が戻ってくるわずか数秒の間に、サッと元の位置に戻ると言うのが、この「だるまさんがころんだ」のルールなのである。一

【小説】アライグマくんのため息 第3話 「めんたいこの夜」②

「早かったねー、二人とも。」 と言って、ママりんのあとにきらりと左前の金歯を光らせながらゴルフのアイアンを手にして、今度はパパりんがやってきた。 ー「ママりん」と「パパりん」ー オレの額を、なぜか一筋の汗が流れた。 福岡の家は、とにかく広かった。部屋がいくつもあり、その上、ひと部屋がリカの部屋の1.5倍以上あるので、ちょっとかけっこするのも一苦労するくらいだった。ちょっとした、「トライアスロン」状態である。 ところでオレは、この家で1つの楽しみを見つけた。それは、『

【小説】アライグマくんのため息 第3話 「めんたいこの夜」①

その日は朝からとっても天気の良い日だった。 夏休みで会社が休みなはずだったのに、なぜか朝早くリカが起きている。眠そうな目をして、何やらいろんなものをカバンにギュギュッと詰め込んでいる。まだ6時である。何だろう…。いや、きっと何か面白いことが起きるに違いない。そう思ってオレはリカをじっと眺めていると、、、 「親がいるところ・・・福岡に行くんだけど、君も行く?」 と言い、ニコニコとほほ笑んだ。そしてオレをしばらくじっと見つめたかと思うと、 「そうか、そうかぁ。君も行きたい