見出し画像

「ひとりぼっちじゃない」を見終えて

映画「ひとりぼっちじゃない」を見終えて。

2023年3月11日、大阪ステーションシネマ15:45の回で鑑賞。
できるだけまっさらな状態で見たかったので原作はあえて未読のまま。

最初に当日見終えて興奮状態のまま書き殴った文章置いときます。



前略、井口理様
わたしは過去に偶然あなたを2回ほどお見かけした事があります。
しかしプライベートの様子だったので声をかけずその広い背中をそっと見送りました。

本日「ひとりぼっちじゃない」を鑑賞。

今のわたしはあなたをお見かけしたら問答無用に駆け寄り、例え迷惑な顔をされてもおかまいなしに映画の感想をまくしたてる自信があります。

どうしても、伝えたいのです。

大阪の某映画館、15:45の回に居合わせた客はあなたたちの物語に135分息を殺して見入っていました。
わたしの斜め前にいた年配の方がススメの身に起こる起承転結にあわせてハッと息を飲む音が響くくらい静かで、売店で買って持ち込んだコーヒーは映画が終わるまで口をつけられず、
冷めてしまって。

物語に集中していたから動けなかった<音を立てるとあなた達に見つかってしまう。
登場人物達の生活を覗き見しているから、見つかりたくなくて必死に息を潜めていた。
そんな緊張感がありました。

終わった後は一緒に鑑賞した友人と「あの場面は何の意味があったのか」「あの時のあれって一体何?」の答え合わせをしたくてお互いの感想や疑問を言い合っていたので、人気ディナーの行列待ちも苦にならずすみました。

序盤の30分くらいは「演技をしている井口理」を見ていたはずなのに、気がつくと「ススメ」に感情を寄せていて。
(感情移入ではなく、あくまでも寄せる)
終盤ススメの表情が晴れやかに見え、母親達と会話している姿を見た時はホッとして涙が出ました。
よかった…ススメ…よかった…
うん、よかった…よね…?

まっさらな気持ちで映画を見たかったので、原作は未読。
結果、感想文なら原稿用紙何枚でも書けるのに「この映画を題材に絵を描いてください」と言われたら何も描けない、真っ白なでっかいキャンバスを目の前に頭を抱えるしかない、そんな映画。

帰宅する友人を改札まで見送って、ふと振り返ると、阪急電車改札近くのブックファーストはまだ開いている!!!
急いで角川文庫のコーナーへ。
原作本を手に取りレジに向かう間に視界に入ってきたモノクロの表紙「なんでもソーダ割り」
(ごめん、今はまだススメの物語の答え合わせの途中だから、また今度。)

とりとめのない感想とも呼べないものになってしまいました。
すみません。
上映期間の延長と、全国で上映館が増える事を願っています。

かしこ


インスタのストーリーに載せる為に書いたのでネタバレなしで鑑賞後の興奮を伝えるのは難しかった。

鑑賞後、3日たった今、原作もある程度読み進めている状態でネタバレありの感想と考察を。

まず、3日経ってちょっと冷静になった頭で映画を振り返った時、KingGnuのファンで程度前情報入れてる人や「井口理の人となり」にある程度知識がある人はススメをすんなり受け入れられると思うけども、そうじゃない人がどれだけススメのパーソナリティな部分に寄り添えるんだろう、って思ってしまった。
それ(井口理知識度)によって映画への評価が左右しそうなくらい
井口理はススメであった。
監督が井口さんをススメに起用するにあたってあてがきし、原作とは違うエンディングにしたという情報を知っていて、かつ、ある程度井口理知識度が高い人と何も知らずに見た人ではエンディングのあの親子とパートナーとのやりとり、井口さんの吹っ切れたような少し晴れやかな表情の機微や空気感の感じ方は絶対違うものになると思う。

と、前置きはさて置いて、映画を見終わって気になった点などを。

まず、「なぜススメと宮子さんの出会いの部分が省略されているのか」
なぜススメが宮子さんに惹かれているのか、執着するのか、という基本の部分が不鮮明になってしまうのはあえてだとしても不親切すぎる気がしてずっとモヤモヤしている。
例えばススメが困っているところを助けてもらった、
歯科医のススメの患者だった、
行きつけの中華料理屋の常連だった、
パン咥えて急いでて曲がり角でぶつかった、
これってその後の関係性に影響ありそうな気がするんだけど。
なぜここを省いたのか。
出会い方なんぞどうでもよくて、どんな風に出会っていてもどの男も同じように宮子さんに沼っていくんだよって、…ってコト?
その辺は原作読んでね、って訳じゃないにせよ、気になって原作買うに至った1番の要素。

「長塚健斗は一体誰?」
わたしが地元県での上映予定がない為二つ隣の県の映画館にまで足を運んだ大きな要因、それはWONKの長塚健斗さんの演技が見たい!
あんなアクの強い人をどうやって何の役で登場させるのかが気になって仕方なかった。
結果、そのアクの強さとあの目力がめちゃくちゃ良い映画のアクセントになっていたと思う。
何アレ、誰なのあの人。

映画の前半で宮子さんが語る「嗅覚の思い出」
そこに登場する宮子さんの兄。
宮子さんが幼い頃タイヤブランコで目を回して気持ち悪くなり這々の体で公衆電話から家に電話をかけて助けを求めると兄がすっ飛んできて氷を口に含ませてくれる。
その際鼻の奥にツンと抜けるあの感じが好きで何度も同じことを繰り返しては兄に氷を持ってきてもらっていた。

よく考えると全編通してなぞの女である「宮子」の唯一はっきりとしたエピソードがこの部分である。

そして宮子の友達であるヨウちゃんがススメに言った
「お兄さんに会ったことあります?」
ヨウちゃんがいうには兄だと紹介してもらってはないけれど宮子さんの家や店によくあらわれているという男が兄だと。

映画の中で宮子さんの部屋に出入りしている(もしくは過去に出入りしてたんじゃないの?)男は、ススメ、劇団の主催者、劇団のキリン男、スーツ姿の男、舞台を見にきていた三列前の男。
そして長塚健斗演じる柄シャツ姿でタバコめっちゃ吸う男。
その中で1番宮子さんに馴れ馴れしくて名前を呼び捨てで呼び宮子さんのスマホを勝手に使ってるこの男は兄の可能性が高い。

宮子さんに対する執着が拗れて宮子さんがいないあいだに部屋に入り冷蔵庫を物色し、その後ベランダにある扉に穴の空いた倉庫に隠れるススメ。
そのススメに気づき、見せつけるようにわざと宮子さんをベランダに呼び、ハグをしながら倉庫の穴に向かってニヤリ。
(宮子さんの肩越しに光るあの眼差しがたまらなかった)
倉庫に隠れているススメに気づいているにも関わらず余裕の行動。

幼い頃タイヤブランコで酔った妹へせっせと氷を運んでいた兄、その後の宮子さんのファムファタールっぷりを見ればこの兄が大人になってからもまともな距離感で妹と接しているとは思えない。

これを踏まえてもう一度映画の内容を思い出すとススメをひき逃げしたのは…
ススメと同じように足を骨折して車椅子に乗っていた宮子さんの恋人は…
もしかして?という怖い想像をしてしまう結果に。
もし宮子さんが怪我をした人のお世話をする事に愉しみを覚えているなら、それを用意してやってる?
愛する妹に近づく男に対して危害を加えている?
どっちにせよ、恐ろしい兄ではある。
(もっと恐ろしいことにこの兄はちゃんと存命している存在
なのだろうか、途中で出てきたオレンジの発光体はもしや兄の怨念?という疑問まで湧いたけども、よく考えたら幽霊は滋養強壮ドリンク飲まないよね?)

「宮子さんの包容力とススメ母の存在」
この映画の中で主軸として描かれるススメという主人公の対人関係の不器用さに、冒頭数分で胸が苦しくなったのはわたしだけではあるまい。
歯科医のセミナー終わりで飲み会に誘われず、ひとり置いていかれたのに院長達にペコっと頭を下げるススメを見て一気に不器用で気の毒すぎるけど愛らしい存在になってしまった。
そんなススメの母親はどうやらシングルマザーで現在、同性のパートナーがいる。
それについて息子と話し合いたい様子だけどススメはどうやら母親には幸せになってほしいと願っているにも関わらずまだ正面から向き合えずにいるみたいで、
バッチリ良好とは言えない関係性が垣間見えた。
母親含め他人と上手に関われないススメが全てを受け入れてくれる宮子さんに傾倒していくのも仕方のない事なのかもと思えてくる。

劇中宮子さんに関する事や水に関係するシーンで流れるコポコポとした音は
「まるで胎内のコポコポ音」というタイトルのASMR。
そこからもわかるように、胎内、子宮、母親、母性みたいなものの具現化が宮子さんという存在で(奇しくも宮子という名前を逆さにすると子宮)
日常生活において疲れた男達は自然と宮子という女性に惹かれてのめり込んでいっていってしまうのかな、と。
男の胎内回帰願望を叶えてくれる女性、そりゃ沼るよなぁ…
(この考察に行き着くと、ポスターの井口くんが宮子さんの
胎内にいる胎児に見えてくるという不思議)

ススメが宮子さんから離れる決心をしたあと少し晴れやかな表情で母親達とカニを食べ、長崎へ引っ越す事を伝えるシーンでススメの心の成長を感じたのだけれど、あれは宮子さんという子宮から産まれ出た「新しいススメ」なのかな?

「宮子さんの友達、ヨウちゃん」
ヨウちゃんも宮子さんに負けず劣らず謎の女性である。
すすめの近所のスーパーで働いていて、普段は芸術家?
(宮子さんの絵を描いたり部屋に変なオブジェがあったり)
宮子さんの元に通うススメと出会うのだけれど、その後なぜかススメと一夜を共にする。
謎多き女宮子さんの事をもっと知りたくないか、といわゆる宮子さんの謎をダシにススメと寝るんだけどなんでススメとそんな仲になっちゃったの?
ススメってそんな魅力ある男性に描かれてないから不思議だった。
もしかしたら宮子さんはヨウちゃんを友達と紹介したがヨウちゃんは宮子さんに友達以上の想いを募らせていて宮子さんを抱けない代わりに、宮子さんを抱いている男達と寝ているのかもしれないと思ってしまった。
もしくは宮子さんとヨウちゃんは友達以上の関係があるけど宮子さんは自分だけを愛してくれるわけではないので宮子さんに近寄ってくる男達に対する嫉妬や情念、宮子さんへのあてつけもあり、ススメと寝たのかも?
もしくはただ単にススメの事が気になってちょっと愛情わいただけ?
どれにせよ宮子さんとは違うベクトルでめんどくさそうな女性である事に変わりはない。
そんなヨウちゃん、ススメに忠告して急にいなくなるのはなぜ?と、疑問が湧いて仕方ないのだ。
ヨウちゃんはなぜ急にいなくなったのか?
ススメがヨウちゃんの部屋で見たものは?
ヨウちゃん、死んでないよね?

と、
この映画は疑問だらけだ。
「ススメのお気に入り頭蓋骨が落ちるのは怪奇現象?」
「レモンのお礼にキャベツをくれたおばあさんはなぜ男性なの?」
「宮子さんの部屋の二段目の引き出しにはアレが本当にあったの?」
「なんでススメはわざわざゴミ箱に向かって?」
「あのオレンジの発光体はなに?」
「本当に宮子さんの部屋で男性が自殺したの?」
「いきなり飼い始めたウサギの意味」
「ススメはあれだけ人との付き合いが下手で
いわゆるコミュ障なのになぜ女性とわりかしスムーズに寝られるのか。」
「なぜタイトルがひとりぼっちじゃないなのか」
ちょっと思い出しただけでもこれだけ浮かぶ。
これについての考察もそれぞれあるけれど、全部書いていたら何万字になるのかわからない。
見ている人に考察させて想像力で補完させる余白がかなり多い自由な映画のように思えるけれど、実は135分間めちゃくちゃ集中して見ていないといけない伏線だらけの映画なんじゃないかと思えて仕方がない
(ちなみに、原作を読みましたが疑問の答え合わせはできませんでした。)
きっと監督の中では正解があるんだろうけども、わたしは(私たちは)何回見ても答えには辿り着けないんだろうな。
「余白の答え合わせを見た人たちで考察や感想の言い合う事」がこの映画の愉しみ方というかそれをやってやっとこの映画を見た事になる、そんな気がしてならない。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?