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赤ちゃんと親友とホテルに泊まった話①

どんどん長くなってしまったので、前編後編にすることにしました。


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高校からの20年来の親友がもうすぐ東京を離れる。なるべく考えないようにしていたがついにその日が今週に迫ってしまったので考えざるを得ない。つらいとかさみしいとかいった感情よりも、彼女が東京からいなくなって、私はどうなってしまうんだろうかという不安が一番大きい。

私がかつて書いたnoteに「友人」や「親友」という名で登場しているのはほぼ彼女だと思ってもらってよい。そもそも「親友」という言葉自体くすぐったくてあまり好きではないのだが、家族よりも過ごしている時間が長く家族よりも私のことを知っている友人の呼び名として親友という言葉を選んだ。

※彼女の登場例
クリスマスイブを女2人で過ごした話
相模原の居酒屋で久々に絶句した話

高校時代はクラスも部活も違って、何となく廊下で話す程度の仲だった。私から見た彼女は大人っぽくておしゃれで(私服の高校だったのでセンスと金銭状況が如実に表れてしまう残酷な環境だった)、少しの近づきにくさを勝手に感じていた。ぐっと仲良くなったのは大学に入ってからで、偶然大学、学部、学科まで同じだった。

初めての一人暮らしで家も近ければ仲良くなることは自然だが、ふたりとも家庭環境に何かしら問題があり、寂しがりで、かと言って他人には簡単に頼れないところが似ていたので余計に親しくなったのだろう。
親元を離れて一人暮らしをしているのにお互いの実家には常に何か問題があって、そんな境遇を同情されたり白けられたりすることなく何でも話せるのは本当に貴重な存在だった。

社会人になってもそんな距離感だったので何度か喧嘩したことがある。一番長い時で数か月単位で連絡を取らなくなったこともあったが、結果的にちゃんと仲直りして今に至る。若い頃を振り返ると彼女は今よりちょっとだけ性格がきつくて、私は今よりだいぶ意地を張っていた。そのくせ距離が近すぎて、そりゃ喧嘩もするよと30代も後半に差し掛かった今なら思える。

婚活も同じ時期にしていた。私よりは結婚願望が強かった彼女につられて何度か婚活をして、結局ふたりほぼ同じ時期に結婚した。私はスッと離婚したが、彼女はしばらく妊活して何とかこどもを授かり、先日出産をした。

私は子供が欲しい願望があまりなく(このあたりのことはまたどこかで書きます)、経験したことがないし、妊娠・出産がただでさえ昔から死ぬほど怖いと思っていたので一番仲のいい友達から生々しい話を聞くことに尻込みしてしまい彼女の妊活中に「あまり具体的な話を聞きたくない」と言ったことがあった。

しかしさすがに彼女が直面する一番大きな事象を避けてコミュニケーションをするのも不可能なので、途中で諦めたというか、私自身も覚悟した。いや実際に産む人間からするとその覚悟なんてゴミみたいなものだが、彼女のどんな話も聞こう、できるだけ支えたいと私も覚悟を決めたのだった。実際、つわりで苦しむ彼女にできたことなど何もなく「つらい」というLINEに「かわいそうに」と返すくらいだった。

つわりがだいぶおさまってきた頃彼女の好きなかに道楽でランチをプレゼントしたが、次の日からまた彼女は吐いていた・・・ あの日は奇跡の一日だったんだろう。

彼女の性格的に結婚でも妊娠でもハイになることが全くなく、妊娠に関しては私と同じようにずっと怖い怖いと言いながら出産日を待っていた。
そしてまだ肌寒さが残るころ、彼女は産んだ。

正直、産まれたばかりのこどもよりも直前まで怖い怖いと言っていた彼女の無事がうれしかったし、偉業を成し遂げた彼女がとても誇らしかった。産んだ後一通目のLINEが「まじで人間出てきた」だったのも彼女らしくて相変わらず大好きだった。

3~4月は私も仕事が忙しくあっという間にゴールデンウィークが近づいていた。大体繁忙期が明けた月に自分へのご褒美としてホテルを予約する。今回も何となく安いプランがあったので親、恋人など誰と泊まってもいいなと思いとりあえず宿を押さえた。

よく考えたらもうすぐ彼女が地元に帰ってしまうことに気づき、ダメ元で誘った。
「行きたいけど赤子が泣くから迷惑かけてしまう」
「いいよどうせ私眠れないし」
「いや、親の自分ですら気が狂いそうになるよ」
「二人で気を狂わせよう」
「楽しそう」

彼女の夫は快諾。送り迎えもしてくれることになった。
そうなったら私もホテルにベビーベッドの手配などを問い合わせて、快く色々提案してくれた。せっかくの思い出作りなので、結局部屋のグレードもアップして当初よりよっぽど高くなったけどいいのだ。朝食もルームサービスにできるプランにして、夕飯も全部ルームサービスにしよう。

諸々ホテルの手続きなどしながら泣いた。彼女に依存していたのは私のほうだったんだなと、気付いていたけどさめざめと泣いた。

つづく

お読み頂きありがとうございます。最近またポツポツとnoteを上げています。みなさまのサポートが私のモチベーションとなり、コーヒー代になり、またnoteが増えるかもしれません。