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アラサーを守るものは自尊心しかない


「ねぇ、Cがアプリで会ってた男とやっちゃったらしいんだけどさ」

「おお、年明け早々景気のいい話じゃん」

付き合う前にセックスしてしまう話が良い話であるわけもないのだが、
いちいちそれに目くじらを立てるような年齢でもない。
私も、このCという友達も、Cのことを私に今話してくれているBも全員気づいたら30歳なんてあっという間に超えていた。

共通していることは独身であること。熱意の差はあれど婚活をしていること。
東京で働き一人で生活していることである。

「それがさ、してる最中に中に出したいって言われたんだって」

はぁ。こうなると話が違う。
もう何がどう転んでもつらい話でしかない。つらい。

「は?結婚するの?」

だからと言っていきなり中出ししていいという話ではないが、Cの気持ちを考えるとせめて譲歩できる部分を見つけたかった。

「いちおう、セックスする前に付き合おうと言われたらしいんだけど」

「だからって中に出していいわけはないじゃん。は?」

私と今話しているBは近所に住んでいて、週末どこかで必ずご飯を食べたりお茶をしている。
実りのない婚活や代わり映えのない仕事や将来の不安を共有する友達がいることだけが、私たちのせめてもの救いだ。
最初のうちは小洒落たカフェなどを選んでいたがだんだん会う場所はどうでもよくなってきて今日はデニーズにいる。

「だよね。Cはピルを飲んでることは言ってなかったから雰囲気に流されてしまったらしい」

「Cもホントにさぁ・・・ ってか何その男、ただのクソじゃん」

「でもさ、そうなるとCが一番私たちの中で結婚に近いっていうことになるよね?」

なるか?というかもしCがピルを飲んでいなくて妊娠したとする。本当に結婚することになったとしても、
両親の顔合わせ、結婚式、同棲のための引越し、それらを妊娠した状態でしろと?
そういうことが考えられない男なんて、クソとしか言いようがないじゃんか。

とすべてBにぶちまけた。結婚には勢いが必要かもしれないけど、
だからといって女に余計な負担がかかっていいという話ではないはずだ。

さてこの例、多くの人はCは馬鹿だと思うかもしれない。私も友達ながらそう思う。
でも、今から私と一緒に少しだけCに歩み寄ってみてほしい。

私と今一緒にファミレスにいるBは家庭環境もグダグダで、簡単に言うと貧乏な家庭である。
結婚に対するプレッシャーはないわけではないが、私に関してはほとんどないに等しい。
対照的にCはとても立派な家庭の生まれで、他の兄弟は皆結婚している。妹に至ってはキャリア官僚と結婚したらしい。

家族からかけられる結婚へのプレッシャーがどれくらいのものか私には伺い知れない。
その中でスペック的には申し分ない男が付き合ってくれと言ってきて、
セックスしてしまっている中で絶対に雰囲気に流されないかと問われたらどうだろうか。

まぁ、こういう風に書いてはみたものの、「じゃあ明日籍入れよう。だったらいいよ」
って言えばいいじゃん、ってのが私の中の結論ではあるのだけど・・・

何が言いたいかというと、結婚に急ぎすぎると冷静な判断ができなくなることもあるだろう、ということだ。

30代の女の婚活など、困難を極めるに決まっている。
自分ももう社会に出て長く、価値観も固まってきているしその価値観から遠く離れた人と一緒にいることは苦痛であることがわかっている、
そもそもきちんとした男性はだいたい皆結婚しているし、20代の女性だって婚活市場にたくさんいる。

焦る気持ちもそりゃ生まれるだろう。

でも焦った結果がCだ。いやこれは極端すぎるが、でも焦った結果好きでもない男に体を許してしまったり、
それはなくても自分の気持ちを捻じ曲げて行動して、結局うまくいかなくなったという人は少なからずいると思う。

話をもう一つ加える。

私の知り合いの男性の奥様が第二子を出産されたことを聞いた。それ自体はとてもめでたいことだが、
その男性は明らかに奥様が妊娠中、私と体の関係を持ちたがっていた。
奥様が妊娠中だということは全く知らなかったが結婚していることは知っていたし、もちろん関係を持つことはなかったが、つらい話である。

30歳を過ぎると結婚を焦る理由の一つに「女としての価値の低下を恐れる」というのがあると思う。
そういう不安を外に出していると甘い声をかけてくる男が増えるのだ。
「そんなことないよ、ユカリちゃんはまだ全然、魅力的だよ」
というように。

私はまだそこまで自分の価値、少なくとも性的価値の低下を感じてはいなかったので
この言葉には乗らなかったが万が一流されていたらと考えると、つらすぎる。

セックスしてしまった後に奥様が妊娠中であったことを知るなんてそんな胸クソわるい話はない。そして奥様がそういう状態だと知るような関係内で手を出そうとしてくるなんて。

本当に、舐められたもんだ。本人には痛い目見て欲しいと思う気持ちはあるが、
この件を周りにぶちまけるようなことはしない。舐められた態度をとられた事実がただ悔しいし、
そんな男の家庭に構っている暇など本来私にはないからだ。

この話もまた「流されるなよ、セックスした時点で不倫じゃん、しないのなんて当たり前だろ」
と呆れる人がたくさんいると思うが、誘ってくる既婚者たちも実に巧みで
「嫁とはもう家族って感じで女として見れない」
「もうとっくにセックスレスで」
「でもXXちゃんがかわいいから」
「俺今、久しぶりに恋愛してる」
みたいなことを真剣な表情を浮かべながら平気で言ってくる。彼らは社会的にも成功していて金も持っているしとてもスマートである。
弱ったアラサーの心を満たすかのように近づいてくる。

アラサー女たちはそういった誘惑を拒むのが唯一かつ最適解であることは間違いない。

ここからは特に、完全に自戒を込めて書くが、(中に出したいと言ってくる男はさすがに極端だったが)やりたいだけの男は沢山婚活市場に紛れ込んでいるし、既婚者からの誘惑もある。
心を強く保っていないと判断を誤る。

寂しくても、結婚に焦っていても、自信がなくなりそうでも、最後に自分を守ってくれるのは「男性に舐められた態度を取られるわけにはいかない」という自尊心だ。
自らを尊いと思えていれば、セックスだけの男や既婚者につけ入れられる隙ができないし、万が一、一度騙されることがあっても「あんな男クソだ、ぺっ」と唾を吐いてさっさと前に歩ける。

最後に自分のことを書くが前職でメンタルが壊滅していた頃の私はとにかく誰かに頼りたくて男性関係もグダグダだった。そういう時は見事にそういう男しか寄ってこずそして「私にはこんな関係や生活がお似合いだ」と思っていた。
今、メンタルはかなり落ち着きこの状態を脱したら、多少声をかけてくる男性の数は減ったが、まともな独身男性にきちんと「付き合ってほしい」と言われるようになった。

男性もちゃんとした女にはちゃんとした態度で臨んでくるということがよーーく分かった。そして大切なのはどんな時でも「ちゃんとした」状態を保つことだ。

いやもういっそ何なら「結婚しなくても一人で生きていけます」って言いきれるくらい強くなりたいんだけどね。

その覚悟ができない私は、せめて自尊心だけは保っていきたいと思っている。




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