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4文小説 Vol.16

「もう少し、頑張ってくれたら」余命いくばくも無い様子をはっきりと認識した先月の末、母と何度かそんな言葉を交わしていた。

4月に共通の記念日を控えた母子にとって、同じ月に悲しい記憶を重ねたくないのは切なる願いだった。

「せめて最期くらいは贅沢を」質素な生涯を思いやり、病院に隣接する有料老人ホームへの移動も計画していた矢先。

悲しみを遺さないように、お金を遣わせないようにと遠慮して、3月も残り2日となったその日を選んでくれたようだった。

―祖母の命日

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