4文小説 Vol.29
出来損ないの独り息子には、いくつになってもきょうだいの不在が思いやられるときがあって、先日のそれは祖母の位牌が祀られたお寺の女性との会話だった。
「あら、息子さん独身なの?お母さん、35歳の子でも良かったら紹介できるよ」男でも女でも、誰かもうひとり子どもがいて、母に孫ができていたなら、さっき初めて会ったばかりの人から余計なお世話を焼かれ、二人して気分を害することもなかったろうに。
浮かない心持ちでお寺を辞したあと、亡き祖母と父が暮らした土地をこのまま帰りたくなくて、安城の駅前のベンチでひと休みしてから名古屋のホテルに着くと、テレビでグランパスとヴィッセルの試合が放送されていた。
母に孫を見せられず、きょうだいのいない私にも、1993年5月15日に誕生した10歳下の弟のような存在はあって、祖母と父はそれをわかってくれているのかと思うと、すっかり気も晴れた。
―Jリーグと私
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