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不恰好な球体

徒然なるままに、から始まる文章と出会ってから10年が経過したらしい。スケジュールに余白がない日々を徒然と呼ぶのは許されるだろうか。言葉に縋らずとも死ななくなったわたしに。

睦月。太ったり、痩せたり、私って月とお揃いだね。祖父の命日に祖母と母が部屋を温めて私の帰りを待っている。わたしの純度を保つための孤独。無責任なプロポーズに目を潤ませて。透明のマスカラに心躍った。

如月。重力と引力の関係はやめました。別に反抗したいわけではないけれど、飼い慣らされたくもない。海。あさのうみ、見たい。ん、支度して待ってて。本当は誰かに助けてほしい。誰かなんて嘘だ。誰でもない、私にちゃんとしてほしい。

弥生。月1ハーゲンダッツ定例会。インターネットを通じて知り合ったあの子と文通を始める。わたしが死んだら悲しい?当たり前じゃん。誰が目玉焼きの黄身を食べてくれるのさ。靴下の色が決まらなくて健康診断をすっぽかした。

卯月。就活が不安で駅前のサイゼで大号泣。実力主義でも礼儀は必要。平均律のあなたに抱きしめられている。私の中の男の子。電子カルテ。母の握ったちいさな塩むすび。いつかの光合成がぼんやりと溶けた夜に。

皐月。返信を忘れるために登山。朝がはじまるのもすっかり早くなった。お守りみたいな詩集を読み返す。抱えられない不安を見透かして。仲直りには花束を添えて。信じると決めたのは誰でもなく過去のわたし。健やかな、不健康になりたい。

水無月。飴色にひかる毛先に見惚れた。雨の日にはドーナツを買おう。アイシャドウで手がきらきらになる。別々のからだに収まるたましいを前に言葉を尽くしても表せない恋。誰も悪くはなくって。薄荷の匂いのハンカチを借りた、水曜日。

文月。身の丈に合わない夢。甘酸っぱいジャムとふとっちょねこ。手を放せるものは何なのか。なるべく他言はしないと決めて、日記の中だけに感情が募る。さくらんぼのゼリーを食べた。ミーアキャットに会いに行った。こころを節約した。

葉月。オレンジ色のネイルと靴下。わたしも誰かのきらきらになれるのかな。下書きとか、アーカイブとか。良くも悪くもぬるま湯の生活。百円の恋。胡瓜とポッカレモンとめんつゆ。レンズを通すと、色味が変わるの。すこし、かなしい。

長月。意図のない言動はひとつもありません。お互いを信じ合った先に根拠が生まれれば。感情を売り物にできなくなった。宛先のない手紙の行き場みたいな仕事。あ、月が明るいね。眉毛サロンのブラジリアンワックスは激痛。

神奈月。深く潜るための酸素ボンベを探して。友人宅でケーキを食べる。テトラポットの隙間にiPhoneを落とす。変わりゆくわたしと変わらないふたり。愛は義務じゃないよ。pms。火鉢に炭を焚べて、感情と距離をはかりながら、ゆれる。

霜月。着色料も保存料も不必要な恋。I love you の和訳は、根拠のない大丈夫、かもしれない。もしも、あのとき死んでいたならば。遺言となっていたかもしれない、恋文。わたしの芸術は死にました。彼の世界では、しにました。それでも、

師走。さくらんぼの種は2つで致死量らしい。愛想笑いのひとつもしたくないから家を出た。雨が降ると、みんながちょっとだけ不幸になるからほっとする。誠実な対応と自己実現の関係。愛のある贈り物。綺麗事じゃなくて、ありがとう。

思いがけず、点と点が結ばれる、365日でした。とはいえ、地続きの2022年なので。上手に向き合っていこうね。大きな声で好きと言わずとも。内なる灯を絶やさずに。

自分のために泳いでいる。
あなたもきっと、辿りつきますように。

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