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アーモンドミルク

ちゃお。anoです。明け方の雨が嘘みたいに眩しい夕刻。いつもの日記では物足りなかったので書き留めてみる。

個人は等しく孤独である。自分と同じ温度の感情を渡すことはできないし、貴方と同じ色を映すことはできない。五感の全てを使い果たしても、それ以上に、交わることができない、境界線がある。

なんて、分かっているつもりだった。以前は理解できなくて(したくなくて)身を削ってでも、自分の感情を相手に飲ませようと、相手の感情に混ざろうと、したこともある。けれど、どれもこれも、ますます、私を寂しくするだけだった。

SNSで生身の感情を吐き出すと余計に虚しくなるのも、かつての恋人からもらった手紙がいつまでも本棚に挟まっているのも、健やかなあなたの幸せを願うと同時に、不健康な自分を呪ってしまうのも。

全てが必然。誰かと寂しさを共有するよりも、孤独を愛する方が、遥かに簡単で賢くて品が良いような気がした。寂しさを飲み込むのは、崇高な振る舞いである。そう、信じようと決めた。

無意識の中で生まれた、実感を伴わない知見。「頭では理解している」と類似した感覚。それは表面上の自分を納得させるための言葉で、機嫌を損なわないようにするための思想で、仕方のないことだと、言い訳を重ねる行為。

わたしの孤独は、手の中にある言葉を尽くしても説明できないものだったし、勝手にひとりぼっちに漂うことを選んできた。と、まるで自分の意思のようにして、悦に浸ることでしか、満たすことができなかった。

わたしとあなたの未来を、祈るように眠った夜。夢と現実の境目が分からなくなった頃。ふたりで眠っていたはずのベッドを、あなたは静かに抜け出して、自動販売機に向かう。カフェオレのボタンを押したはずなのに、落ちてきたのはアーモンドミルク。ベッドに戻って、悲しそうに話す彼に、言葉を失った。

わたしとあなたは、同じ夜を過ごしていたはずなのに。違う記憶を持っていることが、すごくすごく、悲しかった。寂しかった。怒りでも、拗ねるでもなく、只々、わたしとあなたは別の生き物であることを、当然のように、体験しただけのことなのに。

どうして起こしてくれなかったのと不機嫌に俯くと、あなたはやさしく微笑んだ。頭を撫でる手を振り払うことはできなかったし、孤独と呼ぶには甘すぎる匂いを吸い込んでしまえば、あとはもう、安心することしかできなかった

翌朝。7時20分の目覚ましで起きて、シャワーを浴びて、身支度を整える。ホームカミングスのcakesを流しながら、髪を纏める。かつての恋を思い出しながら、小さな声で歌ってみるが、あなたは起きてこない。そっと抜け出して、自動販売機に向かう。お金を入れて、カフェオレのボタンを押すと、ゴトンと鈍い音がして、アーモンドミルクが落ちてきた。頬が緩む。

けれども、わたしは、その話をあなたにはしなかった。あなたが目を覚ます前に、ベッドに戻ろう。ほんのすこし外の匂いがするわたしに、どうか気付かないでいてね。胸の内には、私だけの記憶がある。

孤独に寂しさを覚える、も、孤独に安心する。も、自分の身体と心で感じることで、誰かに説明する必要が薄れたような感じがする。誰にも明かさなくていいし、知ろうとしなくてもいい。抽象的な表現だけれど、境界線を保ち続けてくれる愛も、あるのかもしれない。

時々、その越えることのできない、境界線を妬ましく思うけれど。それでもわたしは、あなたや、あなたや、あなたと、すれ違いながら、生きる日々を選びたいと思う。

押し花みたいに切ない記憶たち。甘ったるいアーモンドミルクは、ひとくち含んで、捨ててしまった。そんなわたしは、今日もひとり。


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