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1月半ば、冬の日

夜。駅からの道をまっすぐ帰ってきて、男の事務所のマンションの扉を開けて。待ちきれなくて靴だけ脱いで、ぎゅっとハグして男の首元に顔をうずめる。「ん、分厚い」と言いながらお互いのコートとニットを脱がせて、もう一度肌と肌を合わせる。ああ、ぴったりだ。

私を反転させて背中を預ける状態にして、男は私のからだをゆっくり撫でる。指先、腕、肩、首をくすぐって頭ごと抱く。耳元で「まずは、あっためてから。夕飯食べてないでしょ、からだが冷えてる」

男が耳元で囁くと、わたしの脳内はダイレクトに焼けて、焦げて、落ちてしまう。背中から腰にかけて触れる手はまだ優しいのに、待ちきれなくなってしまう。男の滑らかな内腿から指を滑らせると硬い感触が触れるのを確かめながら、自分でもはっきりわかるくらいもう溢れている。
「もう、さわって」
「だめ。見せて。自分で広げて」
「いや」 「見えるように、つきだして」
男の望むポーズをとるだけで、私から水音がする。あなたの好きなわたしのおしり。見て。見ないで。恥ずかしいと思うたびに溢れてくる。

男の、すぐに挿れてくるところを私は心底愛している。衝動を丸ごと受け入れるのが本当に好き。後ろから、信じられないくらい奥までゆっくりゆっくりずんと挿れて、良いところに全部触れて。
男とこんな関係になるまでは、あちこち抱かれ歩いて何かを埋めるような毎日だったのに、もう今はこの人以外は受け付けなくなってしまった。嫌だ、いなくならないで、出ていかないで。ずっとこうしていて。あなたには、なんで奥さんがいるの。

この恍惚が終わって0になる瞬間を思って涙が出る。セックスの終わりじゃなくてあなたのこの世での生が0になる瞬間を思う。どうしてあなたとわたしはひとつじゃないんだろう。あなたとひとつになりたいだけなのに。あなたの目になりたい。あなたの腕になりたい。ずっと消えないで。

穏やかな表情、美しいものを見つめる透明の瞳、よく働く手と腕が私のからだを包んで、コンプレックスで濁った私の精神は男の全身で受け止められてゆっくり濾過されていく。こんなにも他人に自分を明け渡し委ねているのは初めてで、こんなに強くてやさしい人に全部全部征服されたい。

翌朝。駅までのまっすぐの道を男と歩く。冬の朝日にちょっと疲れた肌が照らされて、男の生きてきた年月を思う。男の隣にいるのはいつも誇らしくて、男にとっての私もそうあらねばと思う。私は電車に乗らないので男を見送って別れるのだけど、その瞬間いつも「これが最後かもしれない」と思う。
あなたがいなくなる時がきっと来る。それまでに私はたくさんあなたと過ごしたい。あなたの命の灯が消える時を見おおせたらそれは本望で、あなたを看取るのが私の最大の願いです。

15年したらお互いの今の生活を片付けていっしょに暮らそうって約束をしたのが1年前。その日から、毎日欠かさず地層を積み重ねて根気強くわたしを丁寧に愛してくれたおかげで、私は将来を本当に考えるようになった。

未来も今も、15年後も老後も、そんなに甘くはないだろう。
少しでも良くするための何かといえば、
今もこの先も楽しいことで埋め尽くしていく、それだけだ。

あなたとしたい生活。おはよう眠いねいってらっしゃいおかえりおつかれさま、ごはんできたよいただきますおいしいねごちそうさま眠いね寝ようかおやすみなさい、の間に大好き愛してるを挟んで。

#婚外恋愛

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