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K-POP遍歴とDynamiteの話



はじめに


私とk-POPの出会い、それは2009年の少女時代だった。

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当時UKロックをバリバリに追っていたサブカル拗らせ女は、突如お茶の間に現れた美脚美女集団が「やめちゃえいっそイヤなことなんて全速力回避せよ」と満面の笑みで歌って踊るその姿に影響され、夜な夜なカラオケで友人達と共にGee Geeダンスに興じる青春時代を送っていた。


その流れで私は同じSMエンターテイメント所属のSuper Juniorの沼にまんまと落ちてしまう。

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今までジャニーズを含めて男性アイドルを追うという道を全く歩まず生きてきたのだがこのSuper Junior、楽曲のサウンドやコレオの中毒性が非常に高く、尚且つ個性豊かなメンバーで構成されている。

最初メンバーのシンドンを見た時は三度見くらいした。

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このビジュアルでハイパー動けるのだから驚きである。


そして私は彼らの中でも特にハンギョンのことが大好きだった。

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彼はふんわりとした優しい笑顔が素敵な、グループ唯一の中国人メンバーだった。
とても謙虚な性格かつ天然でぽやぽやした喋り方、その上ダンスがすごく上手い。
「Super Girl」でセンターで踊る彼はまさに中国4000年の星、13億の奇跡だった。

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でも私が沼落ちしたその時、彼はすでにグループから脱退していた。
何やら事務所と揉めての退所だったらしいが、
彼が出演しているMVや動画はたくさんある。
当時の私はそれだけでも十分だった。



しかし私はその後、彼が事務所から不当な扱いを受け体調を崩し、無理なスケジュールによる過労で精神的に追い詰められて退社していたことを知った。
彼は韓国事務所において外国人タレントの先駆け的存在だったようで、まだ外国人に対する整備が整っていなかったのも原因の一つのようだったが、最終的に裁判にまで発展したという。
韓国の芸能事務所における外国人の契約期間がこの時13年から7年に変更されたのは、皮肉にも彼の功績と言えるだろう。


さらに、当時日韓関係は荒れていた。
ただ純粋にK-POPを楽しみたいだけなのに、音楽に政治を絡めてくる大人たちを余りにも多く見てしまった。


そしていつしか私はK-POPアイドルを追えなくなっていた。
これはもちろんアイドル達が悪いわけではない。
完成されたパフォーマンスをずっと見ていたいという気持ちよりも、傷つけられているアイドル達を見るのが辛い、単純にこの環境に疲れてしまっていて追うのがしんどい、という気持ちの方が強くなってしまっていたからだ。



しかしそれから数年が過ぎたある日、私はBTSのキムテヒョンという男の存在を知ってしまうことになる。


私とキムテヒョンの出会い、それは2018年の夏、テレビ朝日系列番組の「関ジャム」だった。

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関ジャムは関ジャニ∞のメンバーと音楽業界の有識者たちが音楽の基本から制作の裏側、専門的な話を掘り下げる音楽好きにはもうたまらないバラエティ番組である。


その中でも私が好きな企画が「有名プロデューサーが選んだ年間トップ10」というものだ。
今も絶賛継続中のこの企画、毎年様々な実力派プロデューサーがその年に発売した自分が特に気に入った10曲を選ぶというもので、何故か2018年だけは「2018年上半期トップ5」という回があったのである。


その放送時に大人気プロデューサーの蔦谷好位置氏が4位に選んだのが、防弾少年団の「FAKE LOVE」だった。


私は中学時代から蔦谷プロデュース作品が大好きで、彼には全幅の信頼を寄せていた。

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特にYUKI、米津玄師をプロデュースした曲が好き


その彼が選んだこのFAKE LOVEは、ラップのテクニックであるトラップで三連符の三拍目を抜き休符扱いにして二連にしている上に、それをラップではなく歌唱の上で取り入れている、「今までの歴史上このようなメロディは存在しなかった」とのことだった。

(しかしこの二連トラップのメロディライン、私調べだがFAKE LOVEの約一ヶ月後に発売した宇多田ヒカルのアルバム「初恋」収録の「Too Proud」もBメロで同じテクニックを使っている。ほぼ同時期にこの音楽史初のテクを両者が使用している事実に後から震えた)


なんだかわからんがこれは凄そうだ(小並)
テレビ放送ではMVが紹介されている時間が短く楽曲の全貌がわからなかった。
蔦谷さんがそこまで言うんだからMV見てみるか…ハマるの嫌だからもうK-POPはあんまり見たくないんだけどな…とりあえず楽曲だけ…とYouTubeのアプリを開いた。


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確かにアメリカ受けしそうなサウンドでメンバー達のダンスのキレとシンクロ率も凄まじい。
私が離れている間にK-POPはここまで進化したのか。
洋楽オタクなのでアジア人のアーティストがビルボードHOT100に入ることがどれだけ難しいことかも知っている。
この曲はK-POPらしさを残しつつ欧米を意識した音楽作りをしており、世界の音楽市場を研究し尽くし生み出した渾身の一曲なのだろう。


いやそれはもう分かったからいいんだわ(よくない)、それよりなんか一人とんでもなく顔がタイプの男がいるんだが…

切長かつ大きな目で一重の三白眼、短い顔、太い眉毛、少し大きめな鼻、短い顔(短いの大事)。

調べたら彼の名前はキムテヒョン、韓国人だった。

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他の曲も試しにいくつか観てみた。



ダメだこれは落ちるわ。



私は反射的に「これ以上見ない方がいい」とスマホの電源をそっと消した。

私は子供の頃から日本の某俳優が大好きで、とにかく彼を超える「私好みの顔の男」はもう一生現れないと思って生きてきた。
しかしこのキムテヒョン、まるでその俳優の上位互換みたいな顔なのである。


更に私が驚いたのは彼の「歌声」だった。
私は青春時代にGorillaz、BlurのボーカルであるDamon Albarnをそれはもう周りが引くレベルで追っていて、彼の才能、そして歌声に心底惚れライブを見に渡英してしまうほどファンだった。

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グラミー賞も受賞経験有り

それがこのキムテヒョン、「綺麗なDamonみたいな歌声」なのである。
(特にMIC Dropの2番サビの「How you think bout that」のところとかすごく似てます)


顔も声も推しの上位互換、このビジュアルだからどうせ性格も良かったりするんだろ、無理。
こんなの好きになってしまうに決まってる。

蔦谷さんなんてことをしてくれたんだ。
信頼してる先輩主催の飲み会に行ったらめちゃくちゃタイプの男を紹介されたような気分だ。
ダメだよ私には彼氏がいるの…こんな男連れてこないでよ…

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※飲み会イメージ図(荒すぎる合成)




私は防弾少年団を忘れることにした。


推しが心身共に傷ついたり兵役に行ったり、日韓関係のことでモヤモヤしたりはもうしたくない。
何度も言うがもちろんこれは防弾少年団のメンバーが悪いわけでもないし、ファン達を否定しているわけでも断じてない。
私も本当は一緒に彼らを追いたいという気持ちはあった。
ただ単に、私はもう自分が傷つきたくなかったのである。



しかしその後私はキムテヒョン離脱症状というものに苦しめられることになった。
見ないようにしても「防弾少年団」の文字がネット上に現れ、彼らは音楽番組に出演している。

もはや韓国に関係するものを見ていてもあの爆イケフェイスを思い出してしまうようになり、私は家族がレコーダーに録画していた孤独のグルメ韓国料理編を勝手に消去するという暴挙に出る(その後普通に怒られた。当然である。私だって同じことされたらキレる)。

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美味しそうにキムチを食す五郎さんを今すぐ消し去りたいくらいに、それほどまでにキムテヒョンのインパクトは壮絶なものであった。



好きなのに離れて忘れなきゃいけないことがこんなに辛いことだとは、ママレードボーイの遊もこんな気持ちだったんか…?

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不朽の名作(私は蛍くん派だった)


しかしいつしか私は失恋の傷から回復するように彼のことを忘れていった。
いつもの味気なくつまらないながらも、穏やかな日常が戻ってきたのである。
元気にビビンバを作ることができる程度にキムテヒョンの存在は私の生活からいなくなっていた。




しかし2020年の8月、とんでもない事件が起こる。


NCTタイ人襲来事件である。


その日何気なく見ていたミュージックステーション、SMエンターテイメントの実力者だけを集めたという通称K-POP界のアベンジャーズ、SuperMが出演していた。

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そう、私をK-POP沼に叩き落とし、後にペン卒させたあのSMエンターテイメントである。

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SMエンタ創業者兼首謀者イスマン先生


テレビを消せばいいのに、私はその圧倒的パフォーマンスとサウンドに目を離せず最後まで観てしまった。
そしてとあるタイ人メンバーに一瞬で沼落ちしてしまったのである。


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彼の名前はチッタポン・リチャイヤポンクル
芸名はTEN


もうこれは完全なる一目惚れだった。
私は丸顔で一重の男性が好きなので、面長で二重の彼は正直言ってビジュアルは自分好みのものではなかった。
しかしその圧巻のダンススキルと表情管理能力、トーク時のあざと可愛さというギャップに一撃で底無しの沼に叩き落とされてしまったのである。

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もうこれセーラーウラヌス実写版だろ




いや本当に、

今までの苦労はなんだったのか。


あんなにK-POPはもう聴かないと足掻き苦しんでいたのはなんだったのか。
やはり一度手を出してしまったら中毒症状によって離れることは出来ないということなのだろうか。


この日を境に私はダムが決壊したようにSMグループのMVを貪る如く観まくった。イスマンの思う壺である。

年単位のK-POP禁欲生活を終えた直後だったのでもう何を観ても楽しい。
久しぶりにSuper Juniorを検索して最近の曲を聴いてみたが良曲だらけでやっぱり私はこのグループが大好きだと痛感した。
そしてこの数年の間にシンドンが激痩せしていたことも知った。

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めちゃくちゃイケメンやんけ



そしてそれから数ヶ月が経った頃、BTSのDynamiteという楽曲が世界中で爆売れ状態だと聞いた。

BTS、そうだ、防弾少年団だ。

私が2年前に必死の思いで忘れようとしていた防弾少年団だ。

しかしながらもう私はすっかりケーポの沼に再入水しておりタイ人の推しもいるので何も臆することなんてない。
とりあえずそのDynamiteとやらを観てみよう。
こんな感じで、軽い気持ちで観始めた。


まず、メンバー一人ひとりをしっかりと確認したかったのでDynamiteのダンスプラクティス動画を見てみた。


2年間封印してきたが一瞬で君だとわかった。

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居た、キムテヒョンである。


2年前に見た時よりもまた随分と大人びたように感じた。
あの頃は前髪を下ろし可愛らしく子供らしさも残っていたが今は金髪オールバック、所作や表情の作り方もどことなく往年のハリウッド俳優のようだ。


めちゃくちゃかっこよくて笑えてきた。


初めて見た時はあまりの顔の強さで怒りに震えたが今はもうなんか笑えてくる。
人間はビジュアルがカンストしてる異性を見ると感情がバグってしまう生き物なのかもしれない。



そして次にMVを観た。
ポップなダンスチューンだということがサムネだけでもわかる。

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これはK-POPではない。洋楽だ。

リズムは所謂4つ打ちで、コード進行は簡単コードで言うところのAm-Dm-G-C。基本的にこれの繰り返しだ。
(邦楽で言うと「残酷な天使のテーゼ」や小田和正の「言葉にできない」と同じコード進行。)

センチメンタルな雰囲気になりがちなこの進行でここまでポップに仕上げているのは凄い。
小室進行にも似てるので、子供の頃死ぬほどTK音楽を聴いていた私が刺さらない筈もなく。

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WOW WAR TONIGHTは大人になってから聞くと痛いくらいに刺さるよね


とりあえず歌詞は韓国語ではなく全編英語らしい。
聴き取れなかったので日本語字幕を入れてもう一度聴いてみた。



何故なのか自分でもわからなかったが、私は泣いていた。

ラスサビの部分でもう涙が止まらなくなった。
7人のメンバー達が、カラフルな花火のような光をバックに歌い、笑い、踊っている。
これだけ陽気なポップソングなのにそこに居たのは彼ら7人だけで、他にバックダンサーはいなかった。

その様子はまさにこのコロナ禍を象徴しているようであり、それと同時に「ファンクとソウルでこの街を照らす、輝かせるよ、ダイナマイトのように」と歌う彼らから、音楽を通して優しさや励ましのようなものを感じずにはいられなかった。

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私はすぐに曲のクレジットを調べた。
作詞作曲はDavid Stewartという男性で、彼はイギリス人のソングライターだった。

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そう、Dynamiteはレトロディスコサウンドで70〜80'sのアメリカのような雰囲気の楽曲だが、歌詞がとても"イギリス的"なのだ。


個人的な解釈だが、USロックは底抜けに明るく、大丈夫君ならできる!君は最高さ!You can do it! 的に勇気付けられる曲が多い。
対してUKロックはただ単に"今自分が置かれている現状"を歌っているだけの曲が多い。
言い換えれば、歌い手は聞き手に「頑張れ」と言わないのである。

Dynamiteはロックではなくポップスだが、この曲はまさにその最たる例のように思えた。
「パンデミックが無ければDynamiteは産まれなかった」とメンバーも語るこの曲、「今夜僕が輝かせるから見てて」「誰でも大丈夫だよ、とりあえずみんなこっちに来て一緒に踊ろうよ」と歌っている。
この苦境を一緒に乗り越えていこう!俺たちなら出来る!ではなく、この不安な時代を生きる私たちにただ「寄り添ってくれている」曲なのだ。

もちろんアメリカ的な自己肯定感をバシバシ高めてくれる歌詞も素敵だしハマったとは思う。
しかしこの曲はサウンドはアメリカ、歌詞はイギリス、パフォーマンスはアジアという、多くの人の心を打つ様々な要素を含んだ楽曲だったというのもヒットした一つの要因だったように思う。



更に、よくよく歌詞を見てみると「Break of dawn」、「Off the wall」というMichael Jacksonの楽曲やアルバム名が歌詞中に取り入れられている。

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最初、2番Aメロの"So we dance to the break of dawn"で「僕たちは夜明けまで踊るよ」というリリックと和訳に文法的に違和感を感じて、「これは本来"dance until the break of dawn"が正しいのでは?」と思ったのだけど、
おそらくこれは「Break Of Dawn」という楽曲に合わせて踊る、という意味で敢えて"dance to 〜"という熟語を使っていると思われる。

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メンバー達が所々でマイケルのようなポーズをしているのも納得である。
シンプルな楽曲のように聴こえるが、実はめちゃくちゃ計算されているポップソングだ(1番Aメロの怒涛の韻の踏みっぷりも凄い)。

もちろん楽曲だけではなくBTSメンバーのそれぞれの個性やダンス、歌唱スキルの高さにも度肝を抜かれた。




そしていくつかの映像を経て、私は「I NEED U」のMVを観た。

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好きな邦画は何かと聞かれたら「スワロウテイル」と答える私にとってこのMVはあまりにもどストライク過ぎるストーリーと世界観で、花様年華シリーズの岩井俊二+野島伸司+SFみたいな雰囲気にあっという間にノックアウトされた。

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永遠に卒業出来ない作品




そして最後にこの「にっこにっこにー」で無事キムテヒョンに沼落ちである。

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長きに渡る戦いは「にっこにっこにー」により終止符が打たれた。

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お疲れ様でした、私。




ここまで長ったらしく書いておいてとにかく言いたいことは、
好きなものや人に対する気持ちに嘘をつかない方がいいということである。

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マッキーの教えは正しかった


何も我慢することなんてなかったのである。
2年間にも及ぶ私とキムテヒョンの戦いははっきり言って不毛な日々だった(戦ってたのはおまえだけ)。

今私はK-POPの推し達によって人生がとても楽しい。
ストレスによる肌荒れが殆ど無くなり、しょっちゅうできていた口内炎ができなくなり、眠りの質は改善され、PMSでイライラする事が明らかに前より減った。
推しの存在というのは間違いなく精神を安定させる効果とアンチエイジング効果がある。
そしてなにより人生を豊かにしてくれる。


これからも私は槇原敬之の言葉を胸に生きていきたい。

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