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聞き手に何を渡すのか

音楽を演奏するうえで1番大切なことは何か? 

これは演奏者にとって永遠のテーマだ。

どうして永遠のテーマとなっているのか。   それは人によってポリシーが違い、どれもが正しいからである。正しい価値観が混在している世界だからこそ、答えがない。

ある人は「聞き手が好む演奏をすることだ。」と言い、ある人は「自分の音楽を貫くことだ。」と言う。


私も表現者となってからもう15年が経つのだけれど、いまだに答え探しの真っ最中。

「もっと自分の好きなように演奏しなさい。」と言われて自由に演奏すると、「それだと聞いてて気持ちよくない。」と先生の声。「じゃあどうすりゃいいんだよ!」と心の中で密かに叫ぶ(笑)  なかなか難しいなあ。。

この体験をしたことがある人は きっと少なくないと思う。(思いたい)

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天才からのアンサー

この間、何気なくテレビをつけると天才が映っていた。彼の名は葉加瀬太郎。誰もが知っているモクモク頭の天才バイオリニストだ。

なんの番組かというと。。

「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」というテレビ朝日でやっている番組。

毎回、何かの分野において多くの知識を持つ子供を「博士ちゃん」として招き、深掘りしていく番組、といった感じだ。その回は浅川遊くんという14歳の少年をチェロ博士ちゃんとして招待。なんと、自分の作ったチェロで演奏したらなんて幸せなのだろう…という思いからチェロを自分で作ったというのだ。(異次元レベルの凄さ!)

見た目も音も完全にチェロ。どうやって作るものなのか、弦楽器に関してズブのど素人である私にはさっぱり。「すごい!本当にチェロだ!」が私の感想。

そのチェロを葉加瀬太郎さんがチェックするわけなのだけれど、さすがプロの目は鋭かった。  「ここの木の分厚さが…」とかなんとか。演奏だけじゃなくてそんなことまでわかるの!?と驚愕した。

そしてレッスンをする流れに。葉加瀬太郎のレッスンを少し覗けるのか!とワクワクした。少年が演奏をすると、葉加瀬太郎さんはこんなことを口にした。

「1番大切なことを最初に教えるね。それは『聞き手に何を渡すのか』それをイメージしてから弾き始めることなんだ。しっかり自分の中からイメージが湧いてくるまで、音を出しちゃダメだ。さあやってみて?」

すると少年のチェロがさらに美しい音を奏でた。チェロ=浅川少年って感じ。四角い画面からもわかる変化だった。


葉加瀬太郎さんのこの言葉は、演奏者の誰もが納得できると思う。聞き手の快感も自分の感性もどちらも兼ね備えている。一言に「感動する演奏を」といっても個人差があるし、はっきりとしたラインがない。だけど、「聞き手に渡したい演奏を」だったら、聞き手が求める音と自分が届けたい音が中和されたベストな音で演奏できる。  自分が渡したい演奏=聞き手に渡った演奏となる。

芸術において正解はないけれど、聞き手も自分も満足な演奏が正解だとしたら、これは始めの問いへの最も素晴らしい答えなのではないだろうか。

この話は、チェロ奏者への言葉ではあったが決してチェロだけに限られたことではない。  

私はピアノ奏者として日々迷っている。だんだん何が感動する音なのかわからなくなってくる。音符たちが次第にゲシュタルト崩壊を起こす。 

毎日ゴールのない迷路の中を彷徨っているのだけれど、「聞き手に何を渡すのか」という名のスコップで掘り進め、いつか自分なりの1つ目のゴールに辿り着きたい。そしてレベル2の迷路をスタートさせようと思う。少し光が見えてきたかな。

葉加瀬太郎さんはやっぱり天才だなあ。優しい人だなあ。そう思ったとある日の話でした。感謝しています。。

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