さよならしたい?

早くここを抜け出さなくちゃ!と思った。
行きたかった専門学校のホームページの煌めきに嫌気が刺した。幻想にも飽きが来る。私の目が光を光だと認識できるうちに、早くあの中に飛び込みたい。飛び込まなくちゃいけない。
小さい頃、夏休みにはおじいちゃんの家に遊びに行った。私は車の後部座席で眠ったフリをしていた。高速道路の料金所の音と曲がり角の感覚で、もうすぐ着く!ってワクワクするのが好きだった。犬が吠えて、蝉が鳴いて、草刈り機がうるさい。田舎の空は広くて、入道雲も特段大きくて、川はゆっくりゆっくり流れて、時々魚が跳ねていた。いつしかそんな街が、自分の住む街になった。私はツインテールを揺らしながら教室に入って、黒板にまだ書き慣れていない自分の名前を書いた。斜めになっちゃってすごく恥ずかしかった。好きな食べ物を聞かれても、何も答えられなかった。あの日以来ツインテールはしてない。才色兼備な友達は、クラスのほとんどの人の悪口を言っていた。その子は噂好きなママの喋り方を真似ていた。校長先生はとても優しかった。音楽室の窓から入る日光は冷たい床を温めていた。陰口が聞こえた。あの子たちの目から。卒業式には、あの子のほっぺにキスをしてみた。
あの頃入院していた病院がだんだんと取り壊されて、内側の空洞が丸見えになっていく。その様子がとても怖い。茶色い塊が、土煙を上げながら無様に落ちていった。あまり話さなかった中学校の同級生がいつの間にか死んでいた。退学した男友達が轟音を立てながらバイクで走っていくのを見た。過去の雑な悲しみに縋り付くのをもうやめにしないといけない。ひとりよがりの罪悪感をだらだらと背負い続けることで、罪を償えると思っていてはいけない。昔のプレイリストを再生して、そうおもった。思い出、感情、生きた証、傷、すべてを忘れたくない大切にしたいと考えていたけれど、もしかしたらそのせいで上手く歩けなくなっているのかもしれない。そんなもの、捨ててちゃおう。やっぱり捨てるのはやっぱり悲しいから、食べてしまおうかな。うそ。痛々しい愛の歌に涙を流すのはもう嫌だ。自分のために歌う。自分のために学ぶ。自分のために生きられるようになりたい。でもやっぱり人が好きだ。人の為になにかしたい。大切な人を幸せにしたい。大好きな人も大嫌いな人も忘れたくないことも忘れたいことも増えすぎたここじゃ、きっとできない。きっとどこに行ってもできない。だから、せめてこの町から抜け出すの。そう決めたの


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