日記

夏休みなのに学校に行かなきゃいけない。もうそんなのは慣れっこなのに、どうしてこんなにも憂鬱なんだろう。本当は昨日、朝から行くつもりだったのに、もう夕方の5時になってしまった。もう良い子はおうちに帰る時間。もしかしたらもう先生は学校にいないかもしれない。薄いクリアファイルに志望理由書と成績表、読みかけの本を入れて、自転車に乗った。ここ最近は彼氏に合わせて徒歩で登校していたから、自転車で学校に行くのは久しぶりだった。当たっても涼しくないゆるい風や、弱い蝉の鳴き声や、絵画みたいな入道雲が見えた。いつもよりちゃんと感じられた。ひとりでいると、空がよく見える。音が澄んで聞こえる。それに気づいて、少しだけ寂しくなった。ひとりでも苦しい。誰かといても苦しい。それならひとりでいた方が、人を傷つけなくて済むな。なんてことを考えていたけど、イヤホンの音量を上げてかき消した。
学校に着いて教室に入ると、先生はまだいて、クラスメイトが3人作業をしていた。進学の書類の訂正をして提出したら、まだ不備があって、それを3回も繰り返してしまった。帰り際に、「私の就業時間は過ぎています、こんな時間帯にふらっと来て…」と先生に指摘された。笑い混じりに謝って足早に教室を出た。出来なくなったことが増えて、謝り方を覚えた。不器用でドジな生徒のキャラクターが出来上がって、許されることを覚えた。私はただ甘やかされているだけだ。心の中で大人に反抗しても、それが私が子供だということの証明になる気がして、もうやめようと思った。大人は私が思うより大人なんだ。
返却された進学推薦願の下書きをバッグに突っ込んで帰った。くしゃくしゃになった。近所の公園に寄った。どうにかなりそうな時にはここに来る。いつもはベンチに座って、屋根の天井に絡んだ木の枝や葉っぱを見たり、流れる雲を目で追ったりする。今日は久しぶりにブランコに乗ってみた。真下には蝉が死んでいて、踏み潰さないように地面を蹴った。小学生の頃は、どっちが高く漕げるかね、って言って友達と対決をした。ブランコの先から空に近づく。膝を曲げて助走をつけて、勢いよく足を伸ばす。雲のない青い空と私の靴だけが見える。どこまでも行ける気がしてた。今なら飛べるかもって思ってた。その感覚を思い出して、全力でブランコを漕ぎながらひとりで笑った。未だにブランコからぴょんと飛び降りることは出来なくて、ちょっと残念だった。明日は何ができるかな。

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