一度愛し、離れてしまった人と、何事もなかったかのようにまた笑い合う。そんな風景を俯瞰して見たときに芽生えた嫌悪感が消えてくれないの。馬鹿正直に恨んだままでいたかった。
好き。嫌い。この大きなふたつの感情さえも嘘になってしまうなら、どれが真実がわからなくなるから。実際、真実なんてものはあまりないの。掴めないの。

違う。本当は、過去に囚われて人を許せない頑固な自分に嫌気が差しているだけ。世界はもっと簡単にできるのに。世界はもっと光っているはず。みえていないだけ。
可愛いあの子に憧れて、言動や仕草、思考を柔らかくする努力をしたけれど、根っこの刺々しさや卑屈さはひとつも消えていなかったことに気づいた。一体、何をしているのだろう?

人と触れ合う喜びを最大限感じたくて、相手の言動やそれに至った経緯、意図を考えてみたら、余計なことまで見えてきた。私の思い違いなのかな。見えていないだけの小さな確かな幸せを見つけたくて、キョロキョロしながら歩いていたら、自ずと見えてきた不幸せに気を取られて、ぶつかってしまった。何度も何度も、様子を見て、自分を調整するしかないのね。

私がこんな惨めな私に閉じ込められてしまわないように、空ばかりを見つめる。校庭の真ん中から見上げた雲のない薄水色の空は、どこまでも続く角のない箱のようで、震えた。あまりにも大きくて綺麗なものに、感動とそれ以上の恐怖を感じる。これだけ大きな物があるのだから、ちっぽけな私の苦しみは、相応にちっぽけで、だから必要以上に考え込む必要はないと、思うことが出来たなら。でもその世界を見ているのは私の目で、物事を捉えているのは私の脳で、その世界に存在するのは私自身。世界などと言って広いことをぼんやりと考えていたのに、また私だけに焦点をあわせてしまった。もっと広く、ぼんやりと、記憶みたいに。忘れたいこと。たくさん。おねがい。

私から見た世界は狭い四角形でも、実際は大きな円のごく一部で、私から見た世界が薄暗いのは、勝手にフィルターをかけてしまっているだけ。だって、清々しい気分で好きな歌を聴いていた帰り道の空は、丸くて真っ青だった。その事実に救われ、また絶望する。ねぇ。ねぇ、思い出してみてよ。救いと呪いはいつだって紙一重だったでしょう?曖昧で、面倒で、紙一重ばかり、もううんざりなの。


私の唯一の救いだった。私に絶望を与えてみせた。全てを呪って、呪われている。大好きだった。愛していた。わかれた。わからなくなった。悲しくなった。寂しくなった。怒りが芽生えて、楽しくなって、また悲しくなった。そして怒りはいつしか呪いに変わり、届くことはなく、私に襲いかかる。私は泣きながら、やっぱりそうなのね、と呆れる振りをするの。惨めね。誰か。

曖昧な記憶に眠る私の父。父は1番大切にすべきものを掛けた。自信があった。負けた。手放した。騙した。朽ち果てた。のうのうと。新しい女と今も生きている。誰か私のパパを殺して。あんな人間と血の繋がりがあるという事実が、永遠に私を苦しめる。誰か。

「俺、〇〇のお父さんになってもいいかな?3人を心から愛しているんだ。」もう聞き飽きたこのセリフ。私達を利用して、母を繋ぎ止めていたの。そして当たり前かのように傷つける時期が来た。死の間際まで追い込んだ。死んでくれ。きっと死んだと思った。生きていた。きっと愛は嘘ではなかった。誰か。

誰か。助けて。誰か、誰か。
誰か と言っている時点で、私は助けを求めることでさえも恐れているね。誰かの1番である自信が無いから。嫌われたくない。引かれたくない。可愛いと思われたい。いい子でいたい。
あの大きな車に轢かれて死にたい、とか、誰かに殺して欲しい、とか受動的な死を望んでいる。終わらせる勇気なんてないし、本当に死ぬ必要があるのかと聞かれたらきっと何も言えないの。

一時でも私を愛していたというおよそな事実のせいで、私は私の人生に関わった人たちを、ひとりも嫌いになんてなれないよ。それでもいいですか。誰にも期待しない寂しい人間になりたくないの。たとえ傷ついたとしてもね。棘が刺さったまま抜くことをせずに、他人も自分も傷つけ続けている人を見た。やさしい人になりたい。大丈夫って言いたい。大丈夫って言ってあげたいくらいには好きだよって伝えたい。嫌いになりたくない。死にたくない。死んで欲しくない。愛させてくれ。愛しているだけなのに。私はまんまるで、いたいよ。いさせてよ。

ねえ教えてよ
世界はきっとまるいよね。

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