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4年制薬学部やってみた

はじめに

皆さま初めまして。あむと申します。
先日4年制薬学部を卒業し、それにあたり自らの学生生活を振り返るとともに、薬学部における学びがいかなるものか、それらがいかに作用するかについて、高校生の方や春から薬学部に入学する方、また薬学部に在籍しておられる方の一助となればと思い筆をとった次第です。

なお、いわゆるキラキラした大学生活とは縁遠い4年間でしたので、サークル活動や余暇などに関しては書かず、主に学問のことについて書こうかと思います(とはいえ大した成績もなく、学問に打ち込んだという自負もありませんが)。
それでは、何卒お気楽に。

薬学部でいかなる学問をするのか

僕の体験談から始めると、「人を助けられる人間になりたい」というところから医療を学ぶことを選び、そのうえで、「医師が目の前の患者一人を救うならば、創薬研究者はその患者全員を救うのだから、医師よりも創薬研究者として薬をつくることに携わりたい」というのが、18歳当時の僕が4年制薬学部を志した第一義的な理由でした。その他にも医学部は学力的に不安なあり、また自分が臨床医をライフワークとして続けていくことの実現可能性の低さ、化学への関心、等ありますが。

そのような志とともに大学に入学したはいいものの、いざ入学した自分を待っていたのは、有機化学、物理化学、生化学、といった、基礎科学の授業ばかり。あれ、薬をつくりたいはずが、化学をずっと勉強している…これなら理学部に行った方が…。そんな日々が2年前期まで続きました。この期間は、いずれ来る研究室配属のタイミングで興味のある分野の研究室に配属されるのを待ち、そこから必要なことを学び、研究を進めていけばよいと考えていました。すなわち、興味のある分野のみ学問として取り組み、他は単位を取ればそれでいい、という考えを持っていました。

そのような状況下で、薬をつくるという営為についてひとつの洞察が生まれました。それは、「一人で薬をつくることはできない」といういたって単純なものでした。
それも当然で、薬というものは薬効を発揮する有機化合物をいかに合成するか、という有機化学、主な標的となるタンパク質の理解・研究に必要な物理化学、生体に投与するため必然的に必須となる生化学、さらにはいかなる剤形・経路で投与するのがよいか、という薬剤・製剤学、投与された薬は体内でいかなる挙動を示すかという薬物動態学、などなど、挙げれば枚挙にいとまがありませんが、膨大な学問分野が関与する極めて複雑なものだと考えています。それがゆえに、一人で薬をつくろうと思うとそれらすべてにおいて高度に専門的な知識を身に着け、実践することが求められます。つまり、それらすべてのエキスパートになる必要があるわけですが、これは不可能かつ、非生産的である、と思いました(おそらくは事実に近い洞察です)。このため、創薬研究をするということは、薬にまつわる膨大な学問分野のうち1つか2つの分野を狭く、深く掘り下げてゆく、ということであると思っています。(余談ですが、僕はこの実情が思い描いていた創薬研究と乖離していたため、最終的には別の道を行こう、と決意しました。)

であれば、こんなにも多岐にわたる学問分野を広く浅く学ぶことにいかなる意味があるのか、というところになってくるのですが、結論から申し上げると上に述べた創薬研究を行う上では、非常に有意義であると考えています。

というのも、例えば有機化学という分野で創薬研究を行う場合、有機化学に関する高度に専門的な知識が必要ですが、そのほかにも体内でいかなる物質がいかにして作用しているのかという生化学の知識、生体とはいかなるものであるかに関する生理学の知識、毒性をもつ物質はいかなるものかという毒性学の知識、さらには医薬品がどのようにして代謝され、排泄されるのかという薬物動態学の知識、などなど幅広い生体・化学物質に関する知識があれば、より良い研究ができるのだろうと推測しています。これは有機化学に限った話ではないでしょう。薬学部におけるすべての学びはつながっており、それらの紐帯が形作るものこそが薬なのです。このため、自分の興味・関心から外れた分野の知識も備えておくことは、薬というきわめて複雑なものをつくる営為において必須であると考えています。

これらの洞察は、(読者の方には失笑されるかもしれませんが)僕が薬学部での4年間での学びを経て得た知見です。何事においても本質的な理解を得るためには理性と経験の両輪が駆動することが必要だと考えています。それゆえ、実際に4年間を過ごしてみないとこの結論にはたどり着けなかったわけですが、結論にたどり着いたころにはもう遅かったのです。一見すると薬程遠い位置にある学問を続けていくことは、薬をつくりたかった僕にとってはつらいことでした。しかし、それらは上にも述べたように薬をつくる上で必須の知識だったのです。それに気が付くためには、一通り薬学部での学びを終えなけらばならないという矛盾が存在しており、その構造に気が付くことができなかったのです。

伝えたいこと

結果として現在、僕は薬と縁遠い分野で生きてゆこうという決意において後ろめたい思いをしていません。創薬研究に後ろ髪を引かれていないのです。これは幸運なことでしょう。ですが、皆さんがそうとは限りません。むしろ、創薬研究に後ろ髪を引かれる場合の方が多いのではないかと推測しています。ここまで読んでいただいた皆さまが後悔をなさらないよう、僕が伝えたいことは、
・薬と縁遠いと感じる学問分野を投げ出すべきではない
・基礎化学を学ぶ時間は長く苦しいが、それこそが研究において必要なものを積み重ねることである
・各分野の関連はそれらを一通り学ばなければわからないものであるという矛盾構造が存在している
簡潔にまとめるとすれば以上3点です。

特に4年制の薬学部に入学される方、また受験を考えておられる方、さらには在学中の皆さまにとって少しでも助けになれば、と思い書かせていただきました。皆さまの大学生活が有意義なものとなることをお祈りさせていただき、筆を置くことといたします。
最後までお読みいただきありがとうございました。



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